カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

悲しい人生を肴に飲む

2008-06-24 | 

 友人ターボ君と久しぶりに飲もうということになった。さてどこで飯を食うかと相談したが、どこでもいいが、貧乏くさいところがいいというので行きつけの焼き鳥にする。失礼な言い方に聞こえるだろうけれど、褒め言葉である。そういえば友人岩ちゃんともこの店で飲んだのだったっけ。結局僕はこの店が好きなのに違いない。
 さて入ったとたん生を二杯注文してカウンター席に並んで座る。座ったとたんにズリ刺しを頼む。ビールが来たら乾杯の前に焼き鳥を適当に、とさらに言う。そして乾杯。一応確認のため、なんか他に食うか聞いてみるが、まあ、それでいいということだ。すぐになんとなく話は進んで、おろし生姜が醤油皿にはいっているのが二つ来たので醤油を注ぎ、割り箸を二本準備するとほどなくズリ刺しがやってくる。ビールは二三口程度は飲んだだろうか。
 ズリ刺しは感動するほど旨いかというと、本当のところ良くわからない。生姜醤油に付けた味を食っているのかもしれない。コリコリした食感が残っていて、この醤油がなければ、生くささのあるだけで、味としては、むしろさっぱりしている物体かもしれない。ツマとして敷いてある玉ねぎと一緒に食ってもいいし、あとで玉ねぎだけを食ってもいい。やはり本体の味よりこの生姜醤油を楽しんでいるのかもしれない。しかし、これがズリ刺しという鮮やかな濃い赤色の内臓だからこそ楽しいのだろうと思う。
 三分の一ほどバクバクつまんでいると、焼き鳥が来る。素早く串のまま塩で味付けている肉の方から食う。砂ずりとかバラなどだ。ビールの間はそういう類の方が旨い。タレのレバーなどは焼酎に移ってから楽しめばいいのだ。
 久しぶりに飲んでいるので昔の話も多くなるが、友人とはいえ知らない人生を歩んできたものだと改めて思う。ターボ君は家庭環境も何となくかわいそうな奴で、そして人生経験もツキがない(奥さんはかわいい人だけど)。頑張って努力を積み重ねて、泥のように働いてきたが、大した成功を収めたというようなことは失礼ながら全然ない。話を詳しく聞いて行くと、人生というものはつくづく不公平なものだということがよく分かる。しかし彼の名誉のために言っておくが、そういう状態にありながら、別にターボ君は不平を愚痴として漏らしているわけではない。そういうものを受け止めながら、客に対して誠実に仕事をしようと思っているだけなのである。大変な上に不条理に待遇は悪いが、目の前の仕事は片づけなければならない。そしてその困難を切り開くだけの腕が自分自身にあることを十分承知しているのである。
 いつの間にか焼酎に変わっている。これはキープがあったようだ。へたくそな文字と変な絵がたくさん落書きされているが、たぶん僕が書いたのであろう。もう少しなんか食おうということで豚足を追加する。豚足は表面がカリカリに焼かれて、すでにポン酢が掛けてある。最初は箸でつまんだりして遊んでいるが、結局は手づかみでわしゃわしゃ分解しながら格闘していくことになる。話を聞きながら返事をするのだが、フガフガというような本体の豚さんのような声になってしまったりする。吸い込みながら声を出してはならないのだろう。
 親戚の話なども聞いていると、それなりに努力してある程度の成功をおさめて今まで来たものの、後で遠い親戚がやってきていろいろと文句を言われ、不当な言い分を逆にグランドマザーが聞いてやったりして、ますます不条理な混迷世界にいざなってくれている。僕は第三者で関係ないが、釈然としないことばかり通っている。もう親の代で始めた仕事は静かに終えるしかないのだろう。表面には出てこない問題もあるのかもしれないが、よくもまあこんなに悲しい境遇が続くものだ。僕はさらに残ったキャベツを箸ではなく焼き鳥の棒に刺して口に運びながら、悲しい人々の人生を噛みしめるのだった。
 ターボ君はもう少し食べるということで、お茶づけを頼んだ。ずるずるかき込みながら悲しい話は止まらない。しかしお茶づけを食いながら話をするのは、なんだか滑稽な感じもあるなと客観的な感想をもった。あまり聞き役の僕がまじめに聞いていると話が止まらずズルズルかきこむ勢いも鈍るかもしれないのでトイレに立ち、立ち際に清算してくれ、と言い残しておいた。出てきたらさりげなく金を払おうと思っていたのは正直なところなのだが、勘定はお茶づけを食い終わったターボ君が既に払っていた。ナイス連携である。オイ幾らだった?と戸外で聞くと、いらん、と言われる。まあ、二次会を僕が持てば、帰りのタクシー代までターボ君が出しても、(彼の)割り勘負けはしないだろう。適当にそう踏んで歩きだした。
 結局二次会(二時だよ、僕は半分寝ていた)は僕が持ち、フィニッシュにラーメンまで食ったがこれもターボ君が持ち、タクシーで帰ったが、お互い千円出し程度になり、まあ、それでも僕の計算通りトータルでは少し負けだったのではないかと思っている。
コメント (3)
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