ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

尖閣~地方議会が政府に意見書

2010-10-23 09:55:32 | 時事
 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐり、政府の弱腰に地方から批判の声が巻き上がっている。
 全国の地方議会で政府の対応を批判する議員提出の意見書が相次いで採択されている。22日現在で都道府県、政令指定都市の全66議会のうち41議会が意見書は採択した。3分の2に近い数である。うち半数以上の21議会では全会一致だという。民主党の議員も賛成したということである。
 日本の良識は地方にあり。外国人参政権の問題でも、中央の政府や国会では国家や国民の意識が薄く、地方で参政権付与に反対または慎重を求める決議が、全国に広がった。
 意見書は毅然とした外交姿勢や中国政府への抗議などを要望しているという。その要望は当然だが、重要なことは具体的な方策を早急に決め、国家として実行することである。
 アメリカ政府は尖閣諸島が日米安保の適用対象だと明言しているが、日米の安全保障の専門家たちは、米国が尖閣の防衛に当たるのは、日本が尖閣防衛のために戦う場合のみだと見ている。日本が自ら尖閣を守るのでなければ、アメリカは動かないということである。今朝の産経が紹介しているラリー・ウォーツェルという専門家の意見も同様である。
 わが国の国会議員、また今回政府批判の意見書を採択した地方議会の議員は、この点をどの程度認識しているだろうか。尖閣諸島の防衛は日本の防衛であり、根本的には憲法問題である。現行憲法を改正し、自主防衛体制を強化しなければ、まともな外交はなしえない。尖閣事件をきっかけに、日本人はこのことを明確に認識する必要がある。
 以下は報道のクリップ。

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●産経新聞 平成22年10月22日

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101022/plc1010222257028-n1.htm
都道府県・政令都市41議会が政府批判の意見書採択 尖閣衝突事件
2010.10.22 22:56

 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に絡み、地元の石垣市議会は中山義隆市長と市議らが現地視察を行うとする決議を全会一致で可決。市の中心部には「尖閣諸島は日本の領土」の横断幕が張られていた。
 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐり、全国の地方議会で政府の対応を批判する議員提出の意見書が相次いで採択されている。意見書では毅然(きぜん)とした外交姿勢や中国政府への抗議などを要望。記述には政府の対応を厳しく批判する内容もあったが、政権与党の民主系議員も賛成にまわるなど採択した議会のうち約半数が全会一致だった。政府の弱腰に地方から批判の声が巻き上がっている。
 産経新聞社の調べでは、意見書は22日現在で都道府県、政令指定都市の全66議会のうち41議会が採択し、全会一致が21議会で半数に達した。茨城は11月開会の県議会で自民が意見書案を提出する予定、岡山県議会では意見書提出の動きはなかったが、自民党県連が「尖閣諸島の領土権に関する要請書」を政府に提出した。都道府県、政令市以外でも地元の石垣市議会が現地視察を行う決議を、那覇市議会や菅直人首相の選挙区である東京・小金井市議会も意見書を採択した。
 意見書は公務執行妨害容疑で逮捕した中国人船長を、那覇地検が処分保留のまま釈放したことを批判。菅首相や前原誠司外相らあてに、尖閣諸島は日本固有の領土と毅然とした外交姿勢の堅持▽中国政府へ謝罪と再発防止策を要求▽漁業者の安全な航行や操業を守るための警備強化▽衝突時のビデオ公表も含めた事実解明などを求めている。
 意見書に政府の対応への批判を明記する議会も続出。「北方領土を行政区域とする本道にとっても先行きに大きな不安を抱かせる」(北海道)、「船長を釈放したことは『中国の圧力に屈した』との印象を与えかねない。(中略)このような結果は国際社会にも誤ったメッセージを与え極めて遺憾」(大阪市)、「過度の外交的配慮からのいわば超法規的な措置であったと言わざるを得ず、その責任を検察に転嫁しようという政府の姿勢は言語道断」(香川)などの記述が盛り込まれた。
 内容をめぐって与野党が紛糾する議会も。埼玉県議会では意見書案は全会派で事前調整した上で提出するというのが慣例だが、自民はこれを破って動議により提出、民主の反対を押し切って可決した。意見書には「中国政府の不当な抗議と圧力に屈した日本政府はその外交の稚拙さと弱腰を世界にさらしてしまった」との記述があり、自民の鈴木聖二県議は「事前に調整するとトーンが弱まる」と説明する。また宮城県議会では自民など3会派が意見書案を強行提出、賛成多数で可決した。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101022/chn1010222105010-n1.htm
【尖閣衝突事件 私はこう見る】「日本が防衛意思示さねば、米国は何もしない」ラリー・ウォーツェル・米中経済安保調査委員会委員
2010.10.22 21:00

 (略)米国政府は従来、他国の領有権紛争には介入せず、中立の立場を保つという方針があるから、尖閣の主権については論評しなかったが、日米安保条約が尖閣諸島に適用されるということは何度も明確にした。つまり尖閣有事の際は米国は日本の防衛にあたるという誓約を明らかにしたわけだ。オバマ政権はこれまで予測されていたよりもずっと強く、はっきりと日米安保の尖閣適用を言明した。この点は日米関係にとって大きな意味があるだろう。さらには中国にとっても今後の行動を制約する重要な要因とはなるだろう。
 しかし日本側が留意せねばならないのは、尖閣に第三国からの軍事攻撃がかけられた場合、米国が尖閣の防衛にあたるというのは、まず日本がその防衛のために戦うという行動を明確にとるとの大前提があってこそのことだ。尖閣への軍事攻撃があっても日本自身が戦闘にあたる構えをみせなければ、米国だけが防衛のためにせよ、戦闘行動をとるとは思えない。
 中国は1995年、フィリピンと領有権を争う南シナ海のミスチーフ環礁を軍事力で占拠した。このときフィリピンは米国との同盟条約を結んでいたが、米国はそれに対する軍事行動はとらなかった。理由は多々あったが、フィリピン自体が軍事行動を取ろうとしなかった事実が大きかった。
 だから菅政権にとっても、それ以後の政権にとっても尖閣諸島を日本固有の領土として守る意思があるならば、これからの中国の具体的な行動を戦ってまではね返す覚悟があるのか、重大なテストとなるだろう。(談)

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 ラリー・ウォーツェル: 1970年代から米陸軍で中国の軍事分析にあたり、ハワイ大学で博士号取得。80年代後半から計7年間、北京の米国大使館の駐在武官、2000年からヘリテージ財団の副所長を務めた。01年から米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員となり、委員長も務めた。
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トッドの移民論と日本26

2010-10-23 08:41:45 | 国際関係
●普遍主義の国・フランスの二重構造

 『移民の運命』の後半は、フランスを主題とする。トッドはフランス国民であり、関心の重点は祖国フランスにある。これまで見てきたアメリカ、イギリス、ドイツと比較しながら、トッドはフランスの移民への対応を分析し、評価を行う。
 フランスは普遍主義の国だが、実は純然たる普遍主義の国ではない。フランスは普遍主義的な中央部と差異主義的な周辺部という二つの部分からなる。パリ盆地を中心とする中央部は、自由と平等の価値観を産み出す平等主義核家族に占められている。すべての人間を平等とするフランス革命の普遍主義はそこから生まれた。フランスには他の家族型も存在し、特に南フランスのオック語地方を中心に、権威と不平等の価値観を産み出す直系家族が有力である。
 そのため、フランスでは、中心部の普遍主義と周辺部の差異主義という二つの人類学的システムの対立と均衡が見られる。このことをトッドは「全国システム」という用語で表現する。
 トッドは、『移民の運命』所収の訳者との対談で、フランスの全国システムについて、「人類に普遍的な人間の観念が与えられるよう、神の摂理がこのシステムを創り出したのだ」と語っている。冗談めかした口調だが、フランスで特殊な条件が結合しなければ、人類は「普遍的な人間」という観念を持ち得なかったのかもしれない。
 フランスは、普遍主義と差異主義という二つの価値体系が対立・均衡する特異な国であり、「フランス人であるということは、この根本的二元性がはらむ内的緊張を生きるということである」とトッドは言う。
 トッドによると、普遍主義がフランスで明示的な形式を取ることになったのは、この対決と緊張の賜物である。また、彼によると、フランスで近代国家機構が発展したのは、二つの人類学的システムを超越するものとして国家が形成されたためである。フランスという普遍主義的な国が、他の国と異なる一個の国家として形成されたのも、差異主義的な地域が自民族中心的要素を供給したからだ、とトッドは言う。差異主義はフランスにおいて、普遍主義を普遍主義たらしめた。こうした役割を果たした差異主義を、「普遍に奉仕する差異主義」とトッドは呼ぶ。純然たる普遍主義なら、国境で他と区別する国家は不要となる。フランスの国民は他の国民と同化し、フランスという国家は他に融合して消滅したはずである。差異主義があるからこそ、普遍主義が普遍主義として存立し、フランスもまた存立したのである。

●多様性を許容する普遍主義には「暗い側面」が

 フランスは普遍主義の国だが、外国人移民の排除を主張する国民戦線という政党が、力をふるってもいる。この現象は、フランスには普遍主義だけでなく、差異主義的な要素があり、国民戦線はその要素が現れたものと理解できる。
 またフランス人が多様な移民を受け入れる力を持つのは、国内での普遍主義と差異主義の混在に由来する部分が多い。つまり、普遍主義一色ではなく、差異主義的な要素があることによって、フランス人の普遍主義は、多様性への許容力を持つようになったのである。
 普遍主義が多様性を許容する能力を持つというのは、一見逆説と思える現象である。人間は本質的に平等とみなすならば、差異は存在しないことになる。多様性とは差異の存在であり、普遍性の対立物である。トッドはこの逆説を次のように説明する。人間の本質的な差異を信じる者は、差異を恐れて他者に似ようとする。自分たちは同一の者として一体化しようとするわけである。ドイツ人の「単一性の夢」は、これである。これに対して、人間の普遍的な本質を信じる者は、現実の多様性を「小さな差異」として不安なく受けとめる。根本は同じと考えるからである。フランス人の許容力は、これに基づく、と。
 フランス中央部の普遍主義的住民は、他の多くの家族型の集団を、「小さな差異」の範囲内にある者と扱う。ユダヤ人、ベトナム人、人種的には黒人に属するアンチル諸島人等がそれである。ただし、無制限ではない。普遍主義は、「小さな差異」の枠を大幅に越えた差異に出会った時には、その差異的集団を間扱いする。そういう「暗い側面」を持っている。フランス人のマグレブ人への対応がそれである。この理由は、フランス人とマグレブ人の家族型の違いにある、とトッドは原因を究明する。

 次回に続く。