ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

メルケル独首相「多文化主義は失敗した」

2010-10-20 09:57:15 | 国際関係
 私は現在、「トッドの移民論と日本」と題し、エマニュエル・トッドの移民論を整理・検討し、わが国の移民問題を考える論稿を、ネットに連載しているところである。10月9日と17日は、その第24~25回として、ドイツの移民問題に関するトッドの所論を書いた。
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=4f77158778a172f4d9ef77ae2e33c82
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=4c9426f81daa90a63c9756fdabe2c60d
 ドイツ移民問題の現在については、後日改めて書く予定だが、多数の移民を受け入れたドイツは、ヨーロッパ最大の「移民国家」に変貌しており、多くの社会的・文化的課題を抱えている。去る16日、ドイツのメルケル首相は、「多文化主義は失敗した」と述べて、論争を呼んでいるという。私から見れば、今ごろ言っても遅い、もう取り返しがつかないのが、ドイツの状態である。
 わが国には、少子高齢化の対応のために、移民を1000万人受け入れるべきだという主張があるが、それをやったら悲惨な結果になることは、ドイツなどの例を見れば、明らかである。国家とは何か、国民とはどうあるべきものか、わが国はどういう外国人なら受け入れ、また国籍を与えるべきか。こうした問題を掘り下げて考えることなく、生産年齢人口、特に労働力人口の減少を、外国人労働者で埋め合わせようという発想は、安易かつ危険である。
 以下は報道のクリップ。

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●産経新聞 平成22年10月20日

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/101019/erp1010192125014-n1.htm
多文化主義論争激化 メルケル発言に英メディア反発
2010.10.19 21:24

ドイツのメルケル首相が最近、「多文化主義は失敗した」と述べ、論争を呼んでいる。各民族の文化を尊重する多文化主義は移民政策の理想モデルとされてきたが、移民を受け入れてきた国々で1990年代から文化摩擦が相次いで表面化。ドイツでも米中枢同時テロ後、イスラム原理主義への警戒心が強まり、金融危機やその後の財政危機で仕事や年金が移民に奪われるとの懸念が高まっていることが背景にある。
 メルケル首相は16日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の集会で、「ドイツは移民を歓迎する」と前置きした上で「多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采を浴びた。
 調整型の首相が慎重を要する移民問題にあえて踏み込んだのには事情がある。首相の後押しで選出されたウルフ大統領が3日、東西ドイツ統一20周年記念式典で「わが国はもはや多文化国家だ。イスラムもドイツの一部だ」と演説。これにCDU右派が反発し、姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首が「ドイツは移民国家になるべきではない」と異文化国家からの移民受け入れ禁止を求めていた。
 旧西独は労働力不足を補うため、1961年からトルコ、ギリシャなどの出稼ぎ労働者を大量に受け入れた。しかし、いずれは帰国するとして、99年に国籍取得条件を緩和するまで積極的な統合政策を怠った。
人口8200万のうち約1600万人が移民か外国出身で、イスラム系は約400万人とされる。しかし、「ドイツは移民国家」であることさえ認めたがらない空気が保守層に強く、最近の世論調査では3割以上が「ドイツは外国人に乗っ取られる」と回答した。
 メルケル発言について、欧州の移民政策に詳しいアムステルダム大のエリナス・ペニンクス教授は「移民禁止という右派の主張や移民に寛容すぎる左派にクギを刺して、CDUを中道に誘導しようした」と分析。
 メルケル首相は今後、移民のドイツ語教育に力を注ぐ一方で、ドイツ基本法(憲法)に反するイスラム社会の強制結婚など、伝統的な習慣を規制していくとみられる。
 欧州では移民に寛容だったオランダやスウェーデンでも極右政党が台頭。英紙フィナンシャル・タイムズは19日付の社説で「多文化主義は失敗ではない。もっと努力が必要なのだ」と述べ、誤ったメッセージになりかねないメルケル発言に懸念を示した。(ロンドン 木村正人)

●SANKEI EXPRESS 平成22年10月18日

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/452455/
「多文化社会は失敗だ」 メルケル独首相、内向き志向強める
配信元:
2010/10/18 01:26更新

 「ドイツの多文化主義は完全な失敗だった」。アンゲラ・メルケル独首相(56)は10月16日、支持者らへの講演でこう断言した。ドイツは第二次大戦後、戦争を起こし、ユダヤ人を大量虐殺したという贖罪(しょくざい)意識と、奇跡的経済復興を遂げた旧西ドイツの労働力不足を背景に、積極的に移民を受け入れ、現在では人口8200万人のうち約10%をトルコや東欧からの移民が占めている。ドイツ人と他宗教・異民族の移民とが支え合って共生することをいわば「国是」としてきたが、首相の発言はこれを否定するものだ。欧州は今後、内向きで狭い国益ばかりを追求する「新たなドイツ」問題を抱えることになるのか。

 メルケル首相の講演は、ベルリン南西郊外のポツダムで開催された、自身が党首を務める保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」の青年部会で行われた。ロイター通信などによると、若い党員や支持者を前にメルケル首相は「ドイツに多文化社会を建設するという試みは完全な失敗だった。そして、この30-40年の失敗は、すぐには穴埋めできない」と訴え、その上で「移民はドイツ語を学び、ドイツ社会に融合しなければならない。すぐにドイツ語を話さない人は、誰一人歓迎されない。ドイツ社会で生きてゆくなら、法に従うだけでなく、私たちの言語を習得しなければならない」と言い切った。
 一連の発言は、15日にCDUの姉妹政党である「キリスト教社会同盟(CSU)」の党首、ホルスト・ゼーホーファー氏(61)=独南部のバイエルン州首相=が地元で「多文化主義は完全に死んだ」などと演説し、大喝采を受けたことを意識したものだった。
 しかし、メルケル首相の発言は、異文化(多文化)を許容せず、ドイツ社会で生活するなら、これに同化することを強要したに等しい。今後、具体的に移民のハードルが高くなれば、不法移民の排斥に始まり、ドイツを追われる正規の移民が出てくることも予想される。
 欧州各国では現在、失業率が高止まりし、国民の間には移民が職を奪っているという意識が芽生え、移民排斥を唱える極右政党が躍進する下地が形成されている。ドイツでも、最近のユーロ安に伴う輸出の伸びを背景に改善されつつあるが、まだ失業率は7%台と高い。
 国民の歓心を買うため、政権を担うメルケル首相は、徐々に内向きとなり、欧州や国際社会に対する責務をひとえに縮小させる道を進んでいる。ギリシャの債務危機救済策をまとめる過程では、あくまで欧州連合(EU)域内での解決を主張するニコラ・サルコジ仏大統領(55)を説き伏せ、国際通貨基金(IMF)にも関与させる道を強要した。ドイツの負担を少しでも減らすことが狙いだった。
 サッカー好きで知られるメルケル首相は講演で、「イスラムはドイツの一部であることは明らかだ。サッカー選手のメスト・エジルのことだけではない」と、トルコ生まれのドイツ・ナショナルチームの若きエースを引き合いに出し、融合と異文化否定は異なることを強調した。しかし、一度「寛容の精神」を失えば、事は言語だけの問題にとどまらないであろうことは、ドイツの歴史が語っている。
(SANKEI EXPRESS)
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