ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

日本経済復活のシナリオ4~宍戸駿太郎氏

2010-10-15 08:52:25 | 経済
◆バブル崩壊後の誤ったマクロ経済政策

 「日本経済は、生産能力サイドでは、500兆円の生産の能力があるけれども、現実的には、その500兆円を満たすための有効需要は、400兆円しか無い。つまり、100兆円の生産能力がダブついてしまう。これを直すためには、有効需要を適切に管理しなくてはいけない」
 「古典派の考え方は、生産は常に生産能力に対して大きなギャップはないと主張する。需要不足あるいは供給過剰が起こっても、価格が直してくれるだろうという楽観論が従来の自由主義経済の発想だった。それに対して、ケインズは、価格や賃金はそんなに調節能力は持ってない、価格メカニズムの硬直性に注目して、需要を喚起しなければいけないと主張した」
 「需要を喚起するには、ふたつの手がある。第一は軍需生産、第二は土木需要である。ヒトラーは、このケインズの発想を軍需生産に変え、大変な失業者と大変な遊休設備を見事に解消した。ヒトラーがケインズ政策を最初に実行した。ルーズヴェルトはやや遅れて、ニューディール政策のなかで公共投資型のケインズ政策をしたが、不徹底のまま第2次大戦に突入し、戦時経済によって完全雇用を実現した。
 日本では、高橋是清と深井英五(註 昭和10~12年の日銀総裁)がケインズ思想を勉強した。当時の不況を乗り切るために、円の切り下げと輸出の回復、農村の開発、社会資本の充実等、大幅な需要を喚起するために、カネを十分に使った。このために日本銀行は政府の国債発行を支援して積極的な有効需要政策を行った。その結果、日本経済は昭和12年から13年頃、ほぼ完全雇用の状態まで回復した。
 軍人は、もっと国債を発行し軍備を拡大したほうがいい、と高橋蔵相に対して、猛烈にプレッシャーをかけた。日本経済は昭和10年から13年頃、完全稼動の段階に入ってインフレのおそれがあった。右翼勢力は、高橋はけしからんとして、陸軍の青年将校たちを中心に2・26事件を起こして、高橋を撃ち殺すという事件に発展した」
(註 高橋是清はインフレの可能性が出てくると、財政規律を意識し、軍部の主張に従わなかった)
 「いずれにしても、需要が非常に不足をしているときは、それを拡大する。供給能力不足のときは、インフレのおそれがあるので需要拡大をストップする。ケインズ以後のエコノミストたちには、誰でもこれが常識だった」
 「平成元年(1989)のバブルで日本経済が非常に貨幣的な膨張をし、生産も雇用もかなりいいところまでに拡大した。だがバブル潰しに圧力を与えすぎたために、経済は深刻な資産デフレの段階に入り、大幅に地価が下がり、株も下がって、回復は難しくなった。
 日本銀行はゼロ金利に近い段階まで金利を下げ、もはや金融政策では打つ手なしになった。あとは財政のみということで、政府は減税をしたり、公共投資をしたりしたが、これが非常に不十分であり、どんどんと事態は悪化していった。悪化した原因は、GNPが伸びないため、税金が入ってこない。これが政府に大打撃を与える。税金が入ってこないから、赤字国債を大量に発行せざるを得ない。赤字国債がどんどん増え、今やGNPを超える800兆円以上の国債がたまってきた。このなかには建設国債もあるが、その額はわずかで、もっぱら赤字国債が累積している。これは経済の運営において、政府が思い切った政策を取れなかった結果である」
 「赤字が増えれば、財政支出はできなくなる。支出削減は家計では正しい行動だが、政府が同じ行動をすると、非常に誤った結果をもたらす。政府と民間は相互依存の関係にあるからである」
 「失業と住宅不足が人口の出生率を低下させると、この面からもさらなる需要の低下が起こる。新築の家庭が新しい自動車を買ったり、耐久消費財を買ったりする消費の上昇傾向が止まってしまう。この15年間、個人の消費支出はほとんど伸びていない。賃金が伸びないのだから、消費が伸びないのは当たり前である。なぜ賃金が伸びないかというと景気が悪いからである。働きたくても仕事が無い。
 こういう状況が続くと、供給能力が伸びないから生産が下がるのだ、と非常に誤った事を言う人が増える。構造改革をして供給サイドの効率を上げれば、日本経済は復活するという、いわゆるサプライサイド・エコノミックスの登場である。供給サイドを考える経済学者が、構造改革論者と一緒になって、有効需要にはできるだけ目をつぶって供給サイドのみを強調する」
(註 サプライサイド・エコノミックスの代表格は、マーティン・フェルドシュタイン。竹中平蔵氏はサプライサイド型構造改革の主唱者)
 「なぜ需要サイドを無視するのかというと、供給に真因があるからだ、と彼等は主張する。需要サイドの重要な梃である公共投資を、彼等はどんどん削ってしまう。かつては45兆円あった公共投資を、約25兆円減らし、ほぼ20兆円近くにまで、ずっと削り続けている」
 「人口の問題、財政赤字の問題、供給能力における非効率あるいは供給能力の伸びの低迷という三つを一緒にすると、低迷の三本柱が出来上がる。非常に残念なことに、若者が閉塞史観に陥ってしまうと、モラルも低下し、将来の希望がなく、閉塞型の経済社会が出来上がっていく。これは迷走型の構造改革であり、方向を誤っていると思う」

 次回に続く。