ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

尖閣~日中首脳が「会談」?

2010-10-07 08:55:48 | 時事
 4日、菅首相はアジア欧州会議(ASEM)から帰国直前に、温家宝首相と「会談」したと伝えられる。「会談」とは言うが、外務省は「立ち話」と説明し、中国外務省は言葉を交わすという意味の「交話」と表現している。話し合いは、約15分前に決まったもので、場所も廊下である。中国語通訳も同行していない。首脳会談と銘打てるものとは思われない。
 両首脳は、戦略的互恵関係の推進のため、ハイレベルの協議の促進や民間交流の再開で一致したと報じられるが、菅首相が温首相に何を語ったかは、はっきりしない。尖閣諸島と中国船衝突事件に関し、わが国の主権や国益に関することを明確に述べたようではない。ただ温首相に会い、ちょっと話が出来たという程度であれば、菅首相自らの外交の成果と誇れることではないだろう。
 むしろ、屈辱的な外交で国民の批判を浴びた菅首相が、政権への支持率低下を恐れて、自分で動いてみせた。そういう国民向けのパフォーマンスではないか、と私は思う。ベルギーまで行って、温首相に会わせてもらい、なんとか話をさせてもらったというところではないか。この行動が、主権の問題を棚上げして、相手に擦り寄ったものであれば、中国に対する腰砕け外交を固定するだけである。

 国民の見方は、厳しい。例えば、読売新聞社は、今月1~3日に世論調査を実施した。この調査で、尖閣沖衝突事件で検察が中国人船長を処分保留のまま釈放したことを「適切ではなかった」と思うと応えた人は72%。その理由は「日本は圧力をかけると譲歩するという印象を与えるから」が41%で最も多かった。釈放の決定について、菅首相は「検察当局が判断した結果だ」とし、政治介入は一切なかったと述べている。これについては「納得できない」が83%に上った。
 中国側の対応については、政府間協議の延期や民間交流の一部中止などを「行き過ぎだ」と答えた人は89%。船長釈放後、日本に謝罪と賠償を要求していることに対しては「納得できない」が94%を占めた。対中感情に関しては、中国を「信頼していない」が84%と同社の調査では過去最高だった。
 今後の日本政府の対応では、「尖閣諸島が日本の領土であることを、国際社会により明確に主張すべきだ」と思う人が90%。尖閣諸島をめぐる問題に対応するため、米国との同盟関係を「深めるべきだ」が71%。また、民主党政権の外交・安全保障政策に不安を感じる人は84%に上った。
 このように厳しく見ているのも国民だが、民主党に政権を委ねたのも、国民である。民主党には外交・安全保障政策に党として統一した見解がなく、そこが大きな弱点であることは、多くの識者が指摘していた。尖閣沖衝突事件を教訓として、国民一人一人が国家や政治について真剣に考え、国政を託す代表者の選択を誤ってはならない。
 以下は報道のクリップ。

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●読売新聞 平成22年10月6日

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100924-728653/news/20101005-OYT1T00621.htm
菅首相、中国語通訳同行せず…廊下で首脳会談

 【ブリュッセル=円入哲也、大木聖馬】菅首相と中国の温家宝首相との会談は、ASEM首脳会議の夕食会後、会場を出た王宮内の廊下で両首相が出くわす形で、急きょ25分間、実現した。
 「やあやあ、座りましょうという感じで自然に、普通に会話ができた」
 菅首相は会談後、記者団に満足そうに語った。外務省幹部によると、日本側は中国語通訳ら中国専門家を同行させておらず、双方は英語通訳を交えて会談を行ったという。
 中国側は当初、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で日本に強く反発し、ブリュッセルでの首脳会談開催に否定的だった。菅首相は首脳会談での事態打開に期待をかけていたが、中国側の姿勢を踏まえ、今回の訪問での会談実現は難しいとみて、外務省の中国・モンゴル課長の同行も見送っていた。
 菅首相同行筋は会談後、日本政府関係者に電話し、「首脳同士のあうんの呼吸で調整された」と驚きを隠せなかったという。
 一方、温首相は会場に、中国外務省アジア局の日本担当者を同行させた。在日本中国大使館での勤務経験が長い日本専門家で、関係筋によると、当初は会場入りする予定はなく、必要な登録手続きをしていなかった。このため、登録済みの別の中国代表団メンバーの名義で入ったという。菅首相との会談に同席し、発言を中国語に直接通訳して温首相に伝えたとみられる。
 この日本専門家の会場入りがあわただしく決まった様子からも、中国側も会談実現の方針は、直前に決めたことがうかがえる。
(2010年10月5日14時34分 読売新聞)

●産経新聞 平成22年10月6日

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101006/plc1010060346002-n1.htm
【主張】日中首脳会談 一時しのぎは禍根を残す
2010.10.6 03:46

 アジア欧州会議(ASEM)から帰国直前に実現した菅直人首相と中国の温家宝首相の会談は、日中の現状は好ましくないとの認識で一致したが、尖閣諸島の主権問題は棚上げした格好だ。
 根本問題に向き合うことなく、事態収拾を図るだけの安易な外交姿勢は禍根を残しかねない。
 最大の焦点である中国漁船衝突事件をめぐって、菅首相は「尖閣諸島はわが国固有の領土で、領土問題は存在しない」と主張した。だが、領海内での違法操業や海上保安庁巡視船への意図的な衝突に対し、厳重に抗議した様子がないのはどういうことか。
 一国の指導者として主権を守り抜く決意を直接伝える好機を生かせなかったのは極めて残念だ。主権問題を曖昧にしたまま事件を幕引きすることなど許されない。
 中国河北省で拘束が続く「フジタ」の日本人社員1人の解放や、中国が単独開発の構えを見せる東シナ海ガス田の問題もほとんど話題にならなかったという。衝突事件の後も、中国は尖閣周辺での漁業監視船によるパトロールやガス田海域での海洋調査船の活動を強化している。日本の主権や権益は引き続き脅かされているのだ。
 にもかかわらず、日中間のハイレベル協議の開催や民間交流の復活などに合意し、関係改善を急ぐという。中国のごり押しを阻止し、主権侵害行為の積み重ねを既成事実化させない方策と覚悟を示してほしかった。
 中国側は当初、首脳会談には応じない姿勢だった。だが、レアアース(希土類)の輸出制限や、漁船船長の釈放後も日本に謝罪・賠償を求めるなどの行き過ぎた対応が欧米やアジア諸国の警戒心を強めたため、関係修復に動くのが得策と判断したとみられる。
 こうした状況だからこそ、中国側に二度と主権を侵害させない約束をとりつけるべきだった。謝罪や賠償は、巡視船を損傷された日本こそが求めるべきものだ。腰砕けは認められない。
 海保が撮影した衝突時のビデオは中国側に非があることを示す「決定的な証拠」で、有力な外交カードになりうる。尖閣の領海・領土を守る法整備や施設建設などの具体策の検討も急務だ。
 首相は帰国後の国会論戦を通じ、首脳会談の内容とともに今後の対策について国民の前に明らかにする義務がある。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101005/plc1010052353023-n1.htm
【日中首脳会談】政府、会談実現も甘い認識変わらず
2010.10.5 23:52

(略)会談時間は通訳を挟んだ約25分間だけだった。外務省は5日の自民党外交部会で「立ち話」と説明した。しかも、日本側には中国語の通訳がおらず首相の発言を日本側通訳が英訳し、中国側がそれを中国語に訳した。温家宝首相の発言は中国側の通訳が日本語に訳した。
 外務省の北野充アジア大洋州局審議官は「実現することが分かっていれば準備するが、そういう状況でなかった」と語った。しかし、出席者からは「政権の危機管理が問われる大問題だ」(小泉進次郎衆院議員)との批判が噴出した。
 首相は会談で、尖閣諸島について「領土の問題は存在しない」と述べたというが、外務省の配った「立ち話」の概要では「互いの立場を述べ合う」としただけだった。このため「領土問題はない。尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件は中国に非があることを明確に話をしたのか」(小野寺五典・元外務副大臣)との疑問の声も相次いだ。
 しかも会談ではハイレベル協議促進や民間交流の再開で一致したが、衝突事件に対抗した中国側の「過剰な反応」(前原氏)による問題解決にメドが立ったわけではなく、本質的な議論は深まらなかった。
 中国河北省で拘束された建設会社の日本人社員の解放問題や、中国が単独開発の構えを見せる東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁)の問題もほとんど話題にならなかった。 それでも閣僚からは「大変良かった」(前原氏)「非常に喜ばしい」(馬淵澄夫国土交通相)と会談を賛美する声が相次いだ。(略)
 衝突事件での日本の正当性を示す「物証」と政府が主張してきたビデオ映像も、融和ムードの中で公開の見通しはたっていない。
 主権にかかわる問題を棚上げした上での戦略的互恵関係の推進は、衝突事件で見せた「中国の圧力に屈した日本」との禍根を残すだけにもなりそうだ。中国への配慮が続けば「弱腰外交」との批判で菅内閣は再び窮地に陥ることにもなりかねず「良かった、良かった」とばかり言っていられないはずだ。(酒井充)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101005/plc1010051744013-n1.htm
【尖閣衝突事件】日本に自制を求める狙いか 中国、国内強硬論に苦慮
2010.10.5 17:42

 【北京=伊藤正】 (略)首相会談を受けて関係改善に楽観論が生まれている日本側とは対照的に、中国では慎重な反応が支配的だ。中国外務省は5日朝、ホームページに会談の事実を発表したが、「会談」や「会見」ではなく、言葉を交わすという意味の「交談」と表現した。
 (略)会談内容に関する発表は3つの短文から成り、温首相が「釣魚島は中国固有の領土と改めて主張」を第一に置き、領土問題では妥協しない姿勢を明示した。
 次いで、温首相が「戦略的互恵関係の擁護・発展は両国と両国人民の利益に合致する」と指摘したとし、最後に「民間交流や政府間の対話の強化、ハイレベル協議の適切な時期の開催で合意した」と述べている。
 尖閣領有に関する菅首相の言明や「日中関係の現状は好ましくない」との共通認識など、日本側発表には触れていないが、温首相の発言のポイントが、中国側の対抗措定で中断した官民交流の原状回復にあるのは容易に読み取れる。
 漁船衝突事件発生以来、中国が取ってきた強硬姿勢は、中国国内世論の圧倒的支持を受けた半面、日本側の強い反発を買った上、国際社会の中国脅威論を高め、胡錦濤政権の対日政策だけでなく、「平和と発展」を看板にした国際協調路線にも打撃を与えた。(略)
 今回の首相会談で、日中関係は修復軌道に乗ったとはいえ、中国側は内部の強硬論や反日感情に配慮、船長釈放後も日本に「謝罪と補償」を要求したり、「フジタ」社員1人の拘束を続けたりしている。
 温首相が菅首相と会ったのは、関係修復の意思を明確にすることによって、日本側に漁船衝突時のビデオ公開など、中国国内を刺激する行動を自制するよう訴えたともいえよう。
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