ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

インドとの関係拡大を歓迎する

2010-10-27 11:25:10 | 国際関係
 菅直人首相はインドのシン首相と首相官邸と、両国間の経済や貿易の自由化を進める経済連携協定(EPA)の締結で正式に合意した。私は、わが国は中国偏重から脱し、インドとの協力・連携の拡大を急ぐべしと主張してきた。このたびの日印関係の強化を、大変喜ばしく思う。
 昨年9月民主党中心の連立政権となってから、わが国の外交は多方面で迷走している。本年7月菅内閣となるや、韓国・ロシア・中国等との間で、失政を続けている。こうしたなか、インドとの関係は、長期的な外交方針が崩れることなく前進している。菅首相をはじめとする政府中枢に、確かな認識があるとは思えないだけに、日印関の拡大を進めている各界関係者の多大な努力があってのものと思う。

 インドは世界でも最も親日的な国の一つである。日本人は、インド独立の英雄チャンドラ・ボースらを支援し、大東亜戦争のときにはF機関を通じて、民族独立運動を育て、インパール作戦では、インドのために血を流した。インド人は今も日本のお陰で独立が早まったと感謝している。インドの国家指導者は靖国神社に参拝している。戦後、首相となったネールは、東京裁判のインド代表判事にパール博士を任命した。パール博士は、東京裁判の不当性を明らかにし、日本の戦犯容疑者全員の無罪を判決した。インド政府は、当時も今もパール博士の判決を支持しているという。
 かつてピーター・ドラッガーは、「インドへの投資のほうが中国より魅力的である」と予想した。「巨大な軍と農村の余剰を都会の製造業が吸収するという社会構造の変化を中国に望むのは無理だろう」と述べ、「なによりも教育を受けたエンジニア、スペシャリストがインドに大量に育っている」と指摘している。実際、ソフトウェアの開発でインドは世界一となり、IT業界を牽引している。
 インド人の人生観には、深遠な宇宙哲学があり、精神的な価値を重んじる。高い精神性がうかがわれる。自己主張が強くて身勝手なシナ人と違い、穏やかで親和的だ。シナ人のように即物的・拝金的でなく、インド人は物欲や金銭欲だけでは動かないと聞く。商取引でも、順法精神が見られる。当然のことのように約束を破るシナ人とは異なり、まともな付き合いができる。
 そのうえ、インドはデモクラシーの国である。アジア最大の民主主義国家である。わが国と共通の価値観を多く持っている。中国に軍事的脅威を感じるわが国と、地政学的に中国を警戒するインドの提携は、両方にメリットが大きい。ペルシャ湾から南シナ海へのシーレーンの防衛は、中国にとっても重要な課題だが、インドはいざとなったらこれを抑える力を秘めているようである。こうしたインドとの提携は、わが国に有効な外交カードを増やすことになる。
 マンモハン・シン首相は 平成18年12月に来日した際、衆議院で演説を行なった。マスメディアはこの演説の内容を報道しなかったが、インターネットを通じて知られるようになり、日本人に感動を与えた。その国会演説は、私のサイトにも掲載している。

 このたびの日印首脳会談で、日印両国は「戦略的グローバル・パートナーシップ」を今後10年間にわたって拡大、強化していく方針で合意した。わが国は、今後も着実にこの方針を実行すべきである。

 以下は報道のクリップ。

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●産経新聞 平成22年10月26日

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101025/plc1010252254013-n1.htm
日印首脳会談、EPA正式合意 レアアース開発協力も
2010.10.25 22:52

 両国はEPAについて早期発効を目指す。今後10年間で双方の貿易総額の94%の関税を段階的に撤廃する。中国に次ぎ人口12億人を超えるインドは今後の人口増、経済成長が見込めるため、政府は連携強化で日本の経済成長にもつなげたいとしている。
 レアアースについては、世界最大の産出国である中国で輸出停滞が続く中、日本政府は埋蔵量世界第5位とされるインドとの連携強化で多角的な資源外交を進める考えだ。日本側はインドを「基本的な価値観を共有する世界最大の民主主義国」(外務省幹部)として重視しており、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で関係が悪化する中国を念頭に、人的交流や安全保障分野も含む幅広い分野で連携を強める方針だ。
 会談では経済連携強化を協議する「日印閣僚級経済対話」の定期的な開催や日本によるインフラ整備支援の着実な推進、査証(ビザ)手続きの緩和などでも合意した。交渉中の原子力協定については早期の妥結に向けて努力することを確認した。

●朝日新聞 平成22年10月26日

http://www.asahi.com/politics/update/1025/TKY201010250410.html
レアアース・EPA・原子力で合意 日印首脳会談
2010年10月25日20時49分
  
 (略)両首脳は、すでに合意している両国間の「戦略的グローバル・パートナーシップ」を今後10年間にわたって拡大、強化していく方針で合意。レアアースの供給協力は、その一環として位置づけられた。インドは世界でも上位の埋蔵国とみられている。
 貿易やサービスを自由化するEPAの締結合意については、日本政府は来年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。インドは日本からの輸入額の約90%、日本はインドからの輸入額の約97%にあたる物品について、それぞれ10年かけて関税を撤廃。投資保護や紛争解決の取り決めも盛り込まれ、日本企業のインドへの投資が加速しそうだ。
 また、原子力に力を入れているインドは、今後20基以上の原子力発電所を建設する予定。すでに米国やフランス、ロシアなどと原子力協定を締結しており、日本にも協力を求めている。

●産経新聞 平成22年10月26日

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/101025/biz1010252058024-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
【日印EPA】産業界に大きな期待 「競争条件ようやく整う」
2010.10.25 20:56

 (略)今年も8%台の高い成長率が見込まれるインドは、日本の輸出産業に大きな商機をもたらすとの期待が高まっている。しかし、新興国もインドとの関係強化、市場開拓を加速している。日印EPAでようやく競争条件が整うとの見方もあり、日本企業の実力が試される。

■パイプさらに太く
 「間違いなくプラスになる」と歓迎するのは、日本鉄鋼連盟の林田英治会長(JFEスチール社長)だ。世界鉄鋼協会によると、インドの2009年の鉄鋼需要は前年比約8%増で10年、11年の予測はともに約14%増と中国を上回る成長が見込まれている。
 国内鉄鋼大手では、新日本製鉄がタタ製鉄と技術協力などで関係を強化し、JFEスチールは現地大手のJSWスチールへの約900億円出資を決めた。日本からの輸入にかかる関税は5~10%だが段階的に引き下げられれば、日印鉄鋼業界のパイプがさらに太くなるのは確実だ。
 インド政府が注力するインフラ整備も日本企業の得意分野だけに期待は高まる。三菱電機は「鉄道や電力網などがEPAの対象になれば、メリットを享受できる」(笹川隆常務執行役)としており、2015年度にインドでの売上高を現状の3倍の750億円に引き上げる計画だ。

■ライバルと対等に
 インドの自動車市場でシェア首位のスズキ関係者は、「ハンディキャップの解消につながる」と話す。自動車部品の関税が撤廃されれば、すでにインドとEPAを結んでいる韓国自動車メーカーと競争条件が対等になるというわけだ。
 全体の8割弱を占める乗用車部門でスズキはシェア4割超と他社を圧倒しているが、9月に韓国の現代自動車が4カ月ぶりに2位になるなど追い上げており、警戒心を募らせていた。
 一方、ソニーなど家電メーカーは、インドと自由貿易協定(FTA)を結んだ東南アジア諸国連合(ASEAN)を輸出拠点としている。日印EPA交渉がもたつく間に手を打っていた格好だ。今回の日印EPAには「すぐに効果が表れるとは考えられない」(関係者)と冷めた見方もあるが、「日印間の貿易自由化が進めば、オペレーションの選択肢が増える」(ソニー)のも事実で、今後の戦略立案に好材料となりそうだ。

■日本市場での競争も
 一方で日本が市場の開放を求められる分野もある。新薬の特許切れ後に同じ成分で製造される安価な後発薬だ。医療費抑制の観点から日本政府は後発薬の普及を後押ししており、コスト競争力に優れたインド企業の日本進出が予想される。
 印ザイダスグループ傘下の日本法人、ザイダスファーマのシャルマ・カイラッシュ・ディープ社長は、「日印の信頼関係が深まることで、日本の医師にインドの後発薬を使ってもらえるようになる」と期待を寄せる。これに対し国内勢は、「後発薬専業メーカーには厳しい」(関係者)と危機感を強めており、業界は戦略の練り直しが迫られそうだ。
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関連掲示
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm

構造改革を告発した経済家2

2010-10-27 08:46:28 | 経済
●山家悠紀夫氏は「偽りの危機」に警鐘を鳴らした

 バブルの崩壊後、約20年間、わが国の経済は停滞状態にある。特に今日まで続くデフレは、1997年に橋本龍太郎内閣が行った政策が発端となった。その当時、わが国で主張されていた構造改革論を、厳しく批判したエコノミストがいる。その一人が、山家(やんべ)悠紀夫氏である。
 山家氏は、1997年10月に『偽りの危機 本物の危機』(東洋経済新報社)を刊行した。山家氏は、本書で、構造改革論を「偽りの危機」を煽るものとして批判し、かえって「本物の危機」を招く恐れがある、と警鐘を鳴らした。橋本内閣下での経済危機を予見するものでもあった。
 山家氏は現在、神戸大学大学院教授だが、以前は銀行マンだった。本書刊行当時、山家氏は第一勧銀総合研究所取締役専務理事だった。第一勧銀は、みずほ銀行の前身である。山家氏は、金融の現場での実務経験をもとに、独自の見方でわが国の財政を見る。そして、通説を覆す主張を展開した。
 山家氏が『偽りの危機 本物の危機』を出した当時、わが国には、日本は経済危機にあるとする説が唱えられていた。
 山家氏によると、「1980年代後半から90年代初めにかけてのいわゆるバブル景気が崩壊してからというもの、とくにその不況が長引くにつれ、この不況は構造不況であるということがいわれはじめた」。それが日本経済の構造危機説である。続いて、「1993年には1ドル100円、さらに95年には1ドル80円という円高が出現すると、それをきっかけに新たに幾つかの日本経済危機説が登場した」。それが空洞化危機説、高コスト危機説、財政危機説である。
 山家氏は本書でこれらの説を検討し、「これらの危機は、実証できない、実在しない、論理的に説明できない、そして誇大化されている」と指摘した。そして、「日本経済が危機と声高に叫ばれるほどの状況にはないとすると、大変な危機であるとの前提のもとに行われつつある諸施策」、具体的には、構造改革のための施策――とりわけその中心に据えられた規制緩和政策――そして財政危機との判断に基づいてなされる財政再建政策について、「これらの対策によりかえって私たちの生活が危機に瀕する恐れがある。いわば『偽りの危機』に対処するためにとられた政策が、『本物の危機』を招く恐れが十分にある」と主張した。その後の日本経済は、不幸にして山家氏の懸念が当たったことを示している。
 こうした山家氏の主張を知るため、まず四つの危機説に対する氏の批判を、順を追って見てみよう。

●実証できない、実在しない、論理的に説明できない

 最初は、構造危機説である。山家氏は、構造危機説は「実証されていない。実証されていないばかりか偽りの説ですらある」と言う。理由は、第一に「今回の日本経済の不況の長さ、そして深さは日本経済の構造に問題があってのことではない。それはバブルの破裂、円高という大きな衝撃が日本経済に与えられたためであり、加えて、天候異変、大震災などの被害も加わったためである。これらの衝撃の影響も薄れていくにつれ、日本経済が不況脱出へと向けて動き出したのがその何よりの証拠である」。すなわち、構造危機説は「偽りの説である」とする。第二に「日本経済の構造自体が、こうした衝撃を受ける下で、そして長期に及んだ不況の下で大きく変化してきている。先に見たのは(註 詳細は省く)、統計で明らかに捉えられるものに限ったが、その他の面でも構造変化が生じているものと思われる。この点でも構造変化を起こさない限り日本経済の先行きは云々という、構造危機説は偽りの説である」と断定する。
 次は、空洞化危機説である。山家氏は、次のように言う。「現在、現実に生じていることは、戦後日本経済の中で生じてきた産業構造の変化、他国に比べてより優れた生産性をもつ産業の台頭による旧来型産業の衰退という、大きな流れの延長線上にあることなのである。現在の日本経済においては、半導体その他資本財産業の著しい勃興が見られる。それら商品の輸出が伸び、その結果として円高が進んでいる。そのために自動車等の輸出環境が厳しくなってきているーーー。それはかつて、繊維産業に生じ、鉄鋼産業に生じたことではないか。言い換えれば、基幹産業は時に応じて、これまで変わってきたし、今も変わりつつあるということである」。それゆえ、「現状は、自由貿易体制の下で、起こるべきことがこれまでと同様に起こっているのであり、こと新しく空洞化危機が発生しているということではない」と判断する。
 次は、高コスト危機説である。高コスト危機説とは「物流、エネルギー、電気通信、金融サービス等々、主としてサービスの分野において、日本の物価は高い(「内外価格差が大きい」)、これらは日本の産業にとってはコストでもあるから、日本経済は高コスト経済である」ととらえ、「この高コスト経済という構造を変えていかないと、国際競争に耐えられなくなって製造業は海外に出ていってしまい、日本経済は脆弱化する」いう説である。しかし、山家氏は「日本経済が高コスト経済であるわけではない。購買力平価よりもかなり高い円相場で換算するから、高コストに見えるだけなのである」と指摘する。そして、「高コスト危機説は、その言うところの高コストを解消させることが新たな高コストを生むという論理矛盾を内包しているのであり、論理上も破たんしている、と言えよう。見かけ上の高コストは日本経済の危機でも何でもない。日本経済の、とくに貿易財産業の生産性の高さの表れ、競争力の強さの証明と見るべきであろう」という見解を述べる。
 構造危機説の背景にあるのは日本経済の長期不況、空洞化危機説の背後にあるのは円高の急激な進展、高コスト危機説の登場を促したのは円高に伴う内外価格差の拡大であった。しかし、これらの三つの危機説は、実証できないか、実在しないか、論理的に説明のできないものである、として山家氏は斥ける。

 次回に続く。