梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

活かされる失敗・活かされない成功(その1)

2018年04月21日 06時19分02秒 | Weblog
今月の日経新聞“私の履歴書”は、ジャパネットたかた創業者の高田明氏です。実父が経営するカメラ販売店から独立し、徐々にラジオやテレビによる通信販売事業に乗り出して18年が経過し、会社も急成長し年商も700億円を超えていた時期です。そこに突如として顧客情報流出問題が発生します。

流出した顧客情報は51万人分、6年前からだと判明。そして3ヶ月後警察の捜査で、2人の元社員が逮捕されます。高田氏は、責任は全て社長の私であり、甘い認識と想像力の欠如と猛省して、自主的に2ヵ月近く営業を自粛します。その結果、販売の機会損失は150億円に上りました。

これを契機として社内の情報管理体制の構築に乗り出します。また高田氏は、信頼していた社員が何故との思いから、『何のための会社か』『お客様や取引先に何をすべきか』といった経営理念を社員と共有することの必要性を痛感します。「事件での対応を危機管理のお手本と評価する専門家もいるが、これは美談ではなく、私にとって人生最大の汚点であり、それは100年経っても消えることはない」と、氏は断言しています。

同じようなことで今世間を騒がせているのは、米フェイスブック(以下FB)の個人情報の大量流出です。利用者数は20億人に達し、今回の流出件数は8700万人とのことです。FBにとっては2004年の創業以降初めて直面する苦境ですが、歪んだ急成長もここにきて明らかにされています。

「ユーザーを増やすこと。ページ滞留時間を増やすこと。毎月の目標はただそれだけだった」「トップのザッカーバーグと一握りの側近、その彼らが示す成長目標は絶対。未達などあり得ない。20億人という利用者はやみくもに成長を追った末の数字だ」。新聞の記事に書いてあった、FBのOBの言葉です。

20億人までユーザーが増えれば、広告媒体への価値も増大します。つまりFBは大量の個人データを基に広告で稼ぎ、無料でサービスを提供しているのです。売上高に占める広告収入は98%に達し、17年12月期の営業利益は約2兆2千億円と言われています。

20億人への影響力から半ば「公の空間」となったのに、プライバシーを守るルールは後回し、金儲け主義に走ってきた。このようなFBの実態が浮かび上がります。

ジャパネットたかたを一代で育て上げた、高田氏は3年前66歳の時に、長男に経営を譲りました。退職後は、社内で何の役職にもつかずに会議にも一切出たことがないそうです。「会長か顧問にもならずに正解だった。そうなったら社員がみな私の処にくるようになり、二重構造は弊害を生む。トップは一人でいい」と、氏は言い切ります。前述の「顧客流出問題は、私にとって人生最大の汚点であり、それは100年経っても消えることはない」。この教訓は後継者にもしっかりと受け継がれることでしょう。

FBのザッカーバーグについて言えば、今回の個人情報の流出は、本来けん制が効くはずの取締役もイエスマンしかいず、悪い情報が入らない「裸の王様」なっていた恐れを指摘されています。しかしこの不祥事が、若きトップの再起への変身のチャンスになればとの、期待の声もあります。

活かされる失敗があれば、活かされない成功もあります。日本の歴史において、大国との戦いに大成功を収めたにもかかわらす、その驕りや気の緩みから大きな失敗を招いた例を、最近私は身近に感じました。 
 ~次回に続く~
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