風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「水を抱く」

2016-02-25 | 読書

いつも心に闇を抱え、壊れかけている人を描く石田さん。
特に自らの体を痛めつける女性は痛々しいが、
相変わらず彼女たちを見る石田さんの目は優しい。
(心が壊れた男を描く目は厳しい 笑)
現代社会の中では誰しも
大なり小なり心に傷を持っているからこそ
石田さんの作品は支持されているのだと思う。
主人公自らの心の傷という作品は読んでてキツいけど
石田さんは第三者の優しい目で彼女たちを見る。
「娼年」でも。本作でも。
痛々しくて、ヒリヒリするような哀しいラブストーリー。
「解説」の壇蜜さんの文章もすごくいい。

科学や技術の発展により便利になったという現代。
真面目に、真剣に生きようとする人ほど傷ついていく
この時代は果たして生きやすいのか、生きにくいのか・・・

「この世界が年を追うごとに息苦しくなるのはなぜなのだろう。
 この調子では、この国に生きるすべての人が
 おたがいを敵として憎み合うようになる日は近いかもしれない」

「男は地位と金、女は若さと処女性。
 わたしたち、だんだんビンボーになってきたんだね。
 むきだしだもん。
 生きていくのに、なにが重要なのか。
 その価値観が全部むきだし」

「昼は明るく働いていても、夜は恐怖に震えている。
 あるいは自分自身も怪物になる。
 そんなたくさんの男と女のことを想像してみる。
 自分が生きているこの時代は、
 なんておかしな時代なのだろう。
 大声で笑うか、隠れて泣くか、
 ほかにどんな顔をすればいいのかわからない」

「水を抱く」石田衣良:著 新潮文庫
コメント
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