風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「ブギウギ」

2013-03-22 | 読書
面白い。
姜尚中氏も絶賛したと帯に書いてあるが
確かに坂東氏は新たな境地を見いだした。

坂東氏といえば「山姥」や「狗神」など
おどろおどろしい因習の世界を描く作家として知られ
意外に好きな世界として著作を色々読んできた。
が、本作はこれまでの作風とは全く違う。
戦中戦後の社会や人の考え方について、
差別や命、個人と社会の関係などの社会派小説としても
女性の生きるエネルギーを描く小説としても、
もちろん本格的なミステリーとしても面白い。
これぞエンターテイメント。

ところで社会について、個人の価値観について
国のあり方と個人との関係について
あるいは現代とは違う、当時のものの考え方について
示唆に富む文章が所々にあった。
国家の考え方や教育問題、人間の尊厳の問題、社会格差の問題など
現代社会のさまざまな病巣ともいうべき問題についても
それぞれの文章を読むと考えさせられる。
より右傾化社会を声高に唱える方々にこそ読んで欲しい。
そして日本人として自らを省みて欲しい。

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 人は、自分が上だとみなしたところから怪物と化していく。
 そして、自分より下であると見なすほど、
 その命は虫けらのように軽くなっていく。
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ナチスから見たユダヤ人や、
旧大日本帝国から見た他のアジア人だけではない。
現代における学校でのイジメも同根。
自由化、競争社会化で
一定のモノサシから外れた人達は
「負け組」と断罪され、下に見られていく。

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 戦争ってのもいつか終わると、妾は知っていた。
 そうじゃないか。
 いつだって、なんだって終わりがある。
 恋だって、月のものだって、人の人生だって。
 その証拠に、妾の人生も、もう終わりは見えている。
 負けようと、勝とうと、知ったことじゃない。
 その場限りの喜怒哀楽。
 終わりは終わり。それだけだ。
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勝ち組だ、負け組だと不毛な争いをしていても
誰にももれなく平等に終わりは来る。
限りある時間しか無い中、争うだけ無駄じゃないか?

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 恋をすると、女はすべてが変わる。
 考え方も生き方も。
 それまでの男なんか、きれいさっぱり消してしまい、
 まるで生まれてきたばかりの女のように、
 いけしゃあしゃあと純真無垢な顔をして、
 新しい男の前で新たな人生を生きはじめる。
 八百比丘尼は一人で八百年生きたが、
 普通の女は長生きする代わりに、
 恋をして、何回も生まれ変わるのだ。
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確かに(笑)
ワタシもそれで何度か痛い目に遭った(^^;

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 人は、自分の同心円上で命の重みを量るものなのだとか。
 自分に近い人であればあるほど、その命は重くなる。
 肉親、恋人、同じ村の者、同じ地方の者、
 同じ国の者にまで、同心円の輪は広がっていく。
 同じ国の者であるという線を越えると、
 とたんにその先はもう同心円ではなく、
 人も虫けらも同様に混在する世界となる。

 だが、その同心円の輪を
 できるだけ広げようと努力する者と、
 その輪を限定させて、その輪による命の分別に
 疑いすらも抱かない者との間には
 決定的に差がある。
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現代の日本には
後者が激増しているように思うのだが。

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 女たちにとっては、
 国が負けたことなんか、どうでもいいのだ。
 無条件降伏を前にして、
 大日本帝国の男たちは、国体を護持することを求めた。
 男たちは国の永続を求める。
 しかし、女はそんなことはどうでもいい。
 そもそも、帝国という概念からして、
 男たちの創りだしたものだから。
 大切なのは、生き延びること。
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だから作中の女たちは進駐軍に適応しながら
勝者である男を踏み台に生き延びていく。
敗者である日本の男たちは尊厳を失い頭を抱える。
体面や、意地や、尊厳など気にせず、
今を生き、純粋に幸福を追い求めるのは
女たちなのかも知れない。
やはり女はたくましい。

しかしこの作品、映画にすれば面白そうだな。
主人公の法城は山本耕史かな。リツは・・・渡辺直美?(笑)

「ブギウギ」坂東真砂子:著 角川文庫
コメント
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