風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「さよなら渓谷」

2012-02-03 | 読書
この著者の作品は
初めて読んだ芥川賞受賞作「パークライフ」以来
「東京湾景」「初恋温泉」と読んできた。
どれもちょっとクールでちょっと切ない物語。
特に「パークライフ」と「東京湾景」は
都会的な雰囲気が全体に流れている。

最近またこの作者の本を読み始めた。
「パレード」「悪人」そしてこの「さよなら渓谷」。
これまで抱いてきたこの作者の作風の印象が変わり、
それによってドミノ倒しのように
過去読んだ本のイメージまでもがガラリと変わった。

最近読んだ3作は日常の中に潜む犯罪を描く。
人の心のキズ、寂しさ、後悔、罪悪感、
そして世間の目と押し付けられたレッテル・・・。
特にこの作品において
現在進行中の犯罪は単なる物語の引き出しであり
だんだん明らかになっていく中心人物2名の
これまでの人生の軌跡が苦しく、切なく迫ってくる。

話題となった「悪人」から2年後に書かれた本作。
まったくシチュエーションも登場人物も違うけれど
「悪人」に続く物語のように見えて仕方ない。

「さよなら渓谷」吉田修一:著 新潮文庫
コメント
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