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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

シアタートラム ネクスト・ジェネレーションvol.11 らまのだ『青いプロペラ』

2018-11-29 | 舞台

*南出謙吾作 森田あや演出 公式サイトはこちら 1,2,3,4,5シアタートラム 12月2日終了
 2015年の旗揚げ公演から着実にステップアップした劇団が、シアタートラム ネクスト・ジェネレーションvol.11にお目見えとなった。初演の渋谷EDGEよりはるかに大きなシアタートラムの空間をどう活かすか。初演からのメンバーはお二人、あとは新しい配役で、まさに新生「青いプロペラ」と言えよう。 

 本作の大きな軸は、町の台所として長く営業していたスーパー・マルエイが、大型ショッピングセンターの進出に何とか負けまいと奮闘しながら、否応なく傾いていく様相。もうひとつの軸は、従業員の人間模様である。前者には、どうにもあか抜けないお惣菜のアイディアや、それでも何とか踏みとどまろうと、若い店長はじめ、涙ぐましいまでの努力と、そうはしながらも、どこかで諦めているかのようなやりとりに、地方都市の変容が炙りだされている。そして後者については、冒頭から早々に、若い店長と、総菜部のチーフで、彼より年上の子持ちのシングルマザーの関係が示される。店長は赴任してまだ1年足らずだが、おそらく再婚するつもりの交際であることを匂わせる。精肉部のサブチーフである三十前後の男性は、何かというと周りの女性をくどく。さらに出入りの運搬業者の四十代の男性も、マルエイの女性の一人にご執心であり、厄介な人間模様が展開されるのである。いわゆる恋バナ(というには皆さん結構な年齢だが)から離れたところに、精肉部チーフの五十代の坪井(猪俣俊明)がいる。マルエイもまた、かつて地元の商店街に打撃を与えており、坪井は家業の精肉店が傾き、父親を亡くした背景を持つ。

 物語のパーツがいくつもあり、それをどう展開し、納めるのか。

 さまざまに工夫を重ね、朝礼ではエイエイオーを気勢を上げ、何とか店を存続させようと奮闘するが、それは控室に置かれた青い羽の古い扇風機をだましだまし使い続けることに等しい。題名の「青いプロペラ」とは、この扇風機のことであり、登場する人々の様相を象徴するものである。それが終盤では店長が自腹で最新式のエアコンを買い(それもライバル店で!)、皆が「涼しい」と喜ぶ場面のアイロニーが、もっと強く出てよいのではないか。

 ラストシーンでは舞台正面奥のシャッターが上がり、そこには木々が揺れている。閉店したマルエイの跡地と捉えることもできよう。カーテンコールを行わない潔さは好ましいが、この趣向を受けとめかねて終演後は困惑しきりであった。

 個々の場面の台詞のやりとりは大変おもしろく、稽古がじゅうぶんに行われていること、方言の習得はもちろん、俳優一人ひとりが自分の役だけでなく、相手役の存在を重んじ、相手のことばをよく聞いて、丁寧に会話を構成していることが伝わってくる。

 たとえば坪井(猪俣)と八木(福永マリカ)のおにぎりランチの場面など、秀逸である。福永は鵺的公演での猟奇的でエキセントリックなイメージが強烈な俳優で、本作の配役を意外に思ったが、頭の回転が速く、自分より年長のパート社員とも如才なく付き合い、しかし仕事については遠慮なく的確に(的確すぎることも)意見を言う。といって才気走ったり相手を見下すような嫌なところが全くないという、これはなかなかむずかしい造形と思われるが、実に自然に伸び伸びと演じていて、これからどんな作品に出演するのかが、とても楽しみな俳優のひとりとなった。

 レジ係の絹川(今泉舞)は、入社して日が浅く、若いこともあって、周囲にあまり心を開いていない。表情も乏しく野暮ったい印象の娘なのだが、実は冷静に店の状況を理解しており、感じたことを適切な表現で発言する(例:会議のための会議のための会議)。店の経営さえ良ければ、将来有望な社員になれそうだ。また劇中唯一のモノローグは、彼女によって語られる。それも本作の重要モチーフであり、これまでのタイトルであった「ずぶ濡れのハト」についてのモノローグなのだ。舞台と客席とをつなぐ重要な場面である。その役割を担う人物の落としどころは、どこになるのだろう。

 すべての事象について結論があり、解決が必要なわけではない。現実にはものごとは曖昧なまま、流れていくことは少なくない。しかしながら、そういった現実から、何を、どのように舞台にするのか。それに対する作り手の視点を知りたい。人物の相関図、関係性の変容、それにつれて店がますます傾いていく様相の描写が、点描の域をあと一息突破して、ささやかでもよい、この町の、このマルエイの従業員控室でしか起こらないドラマが見たいのである。

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