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土佐藩が薩摩藩と大政奉還に向かって会談を行う。武力で倒幕せんとする大久保利通(及川光博 意外な配役です)や中岡慎太郎(上川隆也)には、根底に「いったん権力を握ったものがそう易々とそれを手渡すはずがない」という幕府に対する強い不信感と下級武士として長年虐げられてきた者が持つ確信がある。対する龍馬は一貫して「戦はしない」と主張し、あの後藤象二郎(青木崇高)も、「戦をするぞとぎりぎりまで相手を追い詰めて、戦をしないで相手に勝つのが良策ではないか」と西郷吉之助(高橋克実)に迫る。
戦をせずに大政奉還を果たし、新しい日本を作るにはどんなことが必要か。船中八策は、龍馬が考え出した「新しい日本の仕組み」を記した希望の道筋である。
断るまでもなく、本作は坂本龍馬が主人公なのだから、何につけて何があっても彼がヒーローなのである。他の人物の描き方、俳優の演じ方は難しいと思う。文字通り船の中で龍馬は書状を書きつづり、「これを容堂公にお見せしたい」と後藤に差し出す。まるで宿題が出来た小学生のような笑顔で。後藤はそれを読み、「もっときれいな字で書きなおせ。これでは容堂公にお見せできない」(台詞は記憶によるもの)とだけ言う。読んだのはごく短い時間である。よくよく目を通したわけではない。しかしそのときの後藤の表情や短い言葉から、彼が龍馬の書状に衝撃を受けたことがわかる。すごいじゃないかなどと褒めるのは土佐藩ご参政のプライドが許さない。龍馬は後藤にほとんどタメ口に近いもの言いをして、後藤はそれを咎めもしないが、みていてハラハラする。後藤が下士であり、恨みを抱いていた龍馬を次第に認めていく様子が少しずつ伝わってくる。後藤象二郎役は悪役的なポジションであるが、この複雑な役柄を青木崇高がみるたびに確かに演じているのがわかる。
で、龍馬と後藤の歩み寄りに対して、完全にとばっちりを受けているのが岩崎弥太郎(香川照之)であろう。後藤のいいようにこき使われ、土佐商会の借金は増えるばかり。弥太郎はグラバーにイギリス式の商売の仕方を学ぼうとする。
中岡に向かって龍馬は船中八策をひとつずつ読み上げながら、「これは何々さんから聞いたことだ、何々先生の教えだ」と正直に明かす。木戸貫治、高杉晋作、勝麟太郎はもちろんのこと、久坂玄瑞や横井小楠、河田小龍など、ドラマ前半で龍馬に影響を与えた懐かしい人々の名前もあがる。「どれも受け売りではないか」と穿った見方はやめよう。船中八策は、これまで出会った多くの人々から受け継いだものを、龍馬が自分なりの言葉で具体的に記したものと考えたい。
上士も下士もない、武士も商人もお百姓も身分の違いに関係なく、日本の国作りに関われる。母が身をもって示した「憎しみからは何も生まれない」という教え。皆が笑って暮らせる国。
夢の実現は、ひとりひとりを粘り強く説得し、あちこち走り回り、たとえば書状一通にしても丁寧に気持ちを込めて記すなど、地味な仕事をひとつずつ積み重ねた末に、思いがけない助け手が現れたり、単純な話、お天気が味方したり、まさに人智と天命、どちらがどこまでと線引きできないほどに合致した結果訪れるものかもしれない。
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