*三島由紀夫『近代能楽集』より トーマス・オリヴァー・ニーハウス演出 ベニサン・ピット
ドイツ気鋭の演出家ニーハウスによる上演。ほとんど裸舞台、上手奥に椅子が積み重ねられている。冒頭、幅の狭い舞台の上を出演俳優が奇抜な衣装に身を包み、テンポの良い音楽に合わせてまるでファッションショーのように歩いていく。これから何が始まるのか興味をかき立てられる斬新なオープニングである。
さらに物語の重要なモチーフとなる巨大な箪笥が舞台上には登場しない。俳優は舞台から客席を覗き込んで、箪笥の吟味をする。観客はまるで自分たちが箪笥の中に潜んでいるかのような気分になってくるのである。イメージを観客の想像力に委ねる「引き算の手法」。
ところがその他に「足し算」が多く見受けられるようで、疑問が残った。踊り子清子役の中島朋子と古美術商の塩野谷正幸以外の俳優のコロス的に使うところや、その中の一人を聖セバスチャンに見立てるところや、終幕清子が使った口紅を残りの人物が回し塗り(?)したあげくキスをしたりなど、意図がわからない場面がいくつもあった。
もっとも気になったのは音楽の使い方である。どの場面でどんな音楽だったともはやきちんと思い出せないのだが、せっかく俳優の台詞に聞き入っているのに、妙に情緒過多な音楽が流れ、感興を損なう。
十年前(!)にみたデヴィッド・ルヴォー演出の近代能楽集『葵上』を今も鮮やかに思い出す。これがほとんど三島作品初体験だったにも関わらず、自然に受け入れることができた。そのあと同じ作品を日本人による演出で何本かみる機会があったが、そのどれよりも印象深い。
単に個人的好み、相性の問題ではないような気がするのだが。
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