因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

KAKUTA 朗読×演劇、二作品同時上演

2009-04-05 | 舞台
 桑原裕子の処女戯曲を改訂した『さとがえり』と4人の小説家の短編を緩やかに繋いだ朗読劇『帰れない夜』を交互上演する試み。公式サイトはこちら ザ・スズナリ 12日まで
『さとがえり』はストレートプレイ、『帰れない夜』は小説の朗読形式で、前者がありえない設定とはいえドタバタのほのぼの家族劇であるのに比べると、後者はがらりと雰囲気が違う。どちらも「帰る」ことがキーワードになっていて、家族や親戚、古くからの友達のいる懐かしい場所へ帰ることのささやかな幸せをみせる『さとがえり』に対して、愛を求めながら愛に縛られること、過去に帰れないことの身を裂かれるような悲しみ、失った愛がもたらした取り返しのつかない不測の事態が描かれる。こちらは相当に怖い。ホラーである。自分は後者が好み。
『帰れない夜』については、取り上げた短編をどれも読んでいなかったことが幸いして、ほんとうに恐ろしい思いもし、またしんみりと考えさせられたり、久々に客席で泣いたりもした。どれも重く深い作品である。この公演が「リーディング」ではなく、「朗読」とうたってあることを改めて考えた。地の文を語る俳優がいて、台詞部分を俳優が演じるという手法は、2007年の『神様の夜』で堪能しており、今回もその形をとる。小説を読むというひとりで行う閉じられた行為が、舞台で俳優が読まれるのを聞き、俳優が動き、話す様子を観客がみることによって、その場にいた人々が作品の世界を共有することができる。違う作家による4編の小説を、オリジナル部分『帰れない夜』が緩く繋いでいく手法にも改めて感じ入った。題材を選ぶセンス、それらを無理なく繋いでひとつの舞台に構成する桑原裕子の力、この手法をほぼ完全に自分のものにしており、俳優やスタッフもそれに充分に応えていることが感じられる。

『帰れない夜』の4つの物語に共通するのは、喪失感であろうか。愛の喪失、絆の喪失である。愛が強いあまり、自分を愛さない相手をも死に陥れる話、愛する家族を失った辛さに耐えられない話、自分に愛がなかったことを悔やんで、ひたすら愛を求める話。誰もが逃れられない死に対する諦念を知る辛さ。これらをつなぐオリジナル部分はできれば愛を信じて終わるものであってほしいと願い、そうなりそうだったが果たしてぞっとするような終幕であった。この終わり方をどう捉えるか、まだ心は迷っている。

 やはり二作品とも体験できたことを幸せに思う。帰ることのできる喜びを、帰れない絶望が覆す。またその逆もあって、まるごと人生なのだから。
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