因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

龍馬伝第39回『馬関の奇跡』

2010-09-26 | テレビドラマ

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 今夜から龍馬伝は最終章に入る。薩長同盟から倒幕、大政奉還への道、それは龍馬がこの世での人生を終えるときが近づいているということだ。新しい章の冒頭は毎度おなじみ、大財閥に成りあがった岩崎弥太郎が坂崎紫潤の取材を受ける場面にはじまる。龍馬を英雄視する記事に弥太郎は不満と怒りをあらわにするが、母親の美和(倍賞美津子)は息子を諌め、「岩崎弥太郎には坂本さんのことを語る義理があるはずだ」と諭す。この龍馬伝は岩崎弥太郎の龍馬に対する複雑にねじくれた感情をベースにしている。嫉妬、羨望、恨み、嫌悪がありながら、どうしても忘れることができない。一種の愛とも言えよう。咳きこんだ弥太郎はわずかに血を吐く。激動の幕末を生き抜いて成功を収めた彼の人生もまた、もうあまり長くはない。

 第1回の冒頭、「龍馬の話を聞かせてほしい」と願い出る坂崎に、「自分はあの男が大嫌いだ」と敵意むき出しに叫ぶ弥太郎が涙を浮かべていたことを思い出す。あの涙は何の涙なのだろうか。今回弥太郎は長崎を訪れ、引田屋の座敷でお元(蒼井優)に会うが、「憎しみからは何も生まれない」(←訂正しました)という龍馬のことばを弥太郎がずっと忘れずにいたことが示される。お元が「みんなが笑って暮らせる国にする」という龍馬の言葉を、「おめでたい人だ」と言いながらも、その一言に希望を抱いていたのと同じように。そう簡単に世の中が変わるわけがないじゃないかと絶望しているのに、そんな世の中になればどんなに幸せだろうという気持ちが抑えきれない。「坂本さんは人の心をざわめかせる」とお元はつぶやくが、失いかけていた小さな希望に火を灯してしまうのが龍馬なのだろう。

 龍馬たち亀山社中は長州軍に合流し、高杉晋作(伊勢谷友介)率いる奇兵隊の人々と交わりをもつ。武士ではなく、農民や商人などが身分の上下に関係なく力を合わせて生き生きと必死で働く様子に、新しい世の中を築きたいという思いをいっそう強くする。数の上では圧倒的に不利な長州軍が夜の闇に乗じて幕府軍を奇襲し、勝利を収める場面は地鳴りのような音楽、スローモーション映像が効果をあげて、大スクリーンでみる映画のような迫力だ。

 9月26日付朝日新聞に暉峻淑子氏が次のように語っている。「日本人も一歩踏み出して行動を起こしてほしい。同時代を生きる人間の義務です。一度力を合わせて社会を動かすを自信がつき、生活も楽しくなります。豊かな生活を求めて競争に勝ったところで、不幸だけが増えては意味がありません」。龍馬と奇兵隊の人々が酒を酌み交わす場面で言われたとしても違和感なく聞けるだろう。同時代を生きる人間の義務か・・・。

 再び弥太郎の話。龍馬が長州軍に加勢していくさをしたと聞かされた弥太郎は激怒する。ほんとうに龍馬を嫌っているなら、「そらみたことか」とせせら笑って終わりであろう。「あの嘘つきが」と怒るのはずっと「喧嘩をしないで世の中を変える」と言っていたのになぜだ?と思うから、心の底で、龍馬の言うことを信じようとしていたからではないだろうか。
 

 

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