因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

続『かうしてPrologue』

2007-10-27 | 舞台
 ゆうべの続き、2本めの『かうして豆は煮えました』について。舞台はどうみても日本ではなさそうだ。中央に木製のテーブルと椅子、上手にはベンチが下手には小さな台所があり、お鍋や大きな木のお匙など、可愛らしい雑貨屋さんのよう。奥から男の子(小野健太郎)が飛び出して、お鍋に空豆を入れる。お鍋からほんとうに湯気が立ち上っていて、まさに題名とおり、豆が煮えるまでの短い時間のお芝居である。

 どこかの国の王女さま(宮田早苗)が宴会の席で大変お行儀の悪いことをしてしまったため、国の法律に従って首を切られるのだそうだ。死刑が嫌な王女さまは(あたりまえか)お城から逃げ出し、男の子の家に迷い込み、「お昼の鐘が鳴り終わるまで自分を匿ってほしい。そうすれば死刑にならないですむから」と頼む。勇敢な男の子は留守のお母さんのベッドに王女さまを隠し、次々に訪れる珍客から王女さまを必死に守ろうとする。まるで「おとぎのへや」のようなお話で、知らなければこれが久保田万太郎の作品とはとても思えない。俳優は1本めの『Prolouge』とまったく同じ顔ぶれなのだが、配役表をよく見ないと誰が誰だかわからない。

 特に男の子役の小野健太郎(Studio Life)。まっすぐに切りそろえた前髪、チロリアンテープの縁取りのついたブラウスに膝丈のおズボンと大変可愛らしい服装で、1本めの粋な大工さんがどうしたらこうなってしまうのか。子ども役をちゃんとした結構な大人が演じているわけで、勇敢な男の子だが、目つきはちょっとアブナい感じである。家を訪れるお客たちがそろいも揃ってへんな人たちばかりで、盲人の訓戒にはなるほどと納得させられるが、この人はほんとうは見えているらしく、どうも胡散臭い。フォークギターによるまったく音程の合わない『どんぐりころころ』に陶酔の表情を浮かべる男の子。こいつ、ぜったい普通じゃないぞ。無意味に手の込んだ立派な衣装といい、妙におもちゃっぽい小道具といい、全編冗談のようなお芝居なのである。おかしいのを通り越して、あっけにとられてしまう。のびのび演じる俳優たち、いや、やりたい放題と言うべきか。

 『Prologue』には俳優が遊ぶ余地はまったくないと言ってよい。特に大事件が起こるわけでもなく、動きも少ないが、現代の生活様式ではあまり体験することのない仕草や台詞は、俳優に相当の負荷、鍛錬を要求することと思う。その厳しさに挑む俳優の姿は清々しく、「がんばれ」と心の中で秘かに応援したくなるほどだ。うってかわって後者は久保田万太郎をみるのだという緊張から解放され、「やりたいだけ好きにおやりませ」とリラックスできる。ほかのカンパニーでの上演をみたことはなく、これからもおそらくみることがないような予感がするが、「こういう作り方もできる」ことを提示する舞台成果であったと思う。久保田万太郎はこういうものだという既成概念から、自分を解き放ってくれた。貴重な体験である。本公演は「秋のクボマンフェスティバル第1弾」と銘打ってある。ということは第二弾があるのですね?今からわくわくと楽しみである。是非実現しますように。

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2 コメント

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ふうさま、ぶろぐへのお運び&コメントありがとう... (因幡屋)
2007-11-03 00:53:03
ふうさま、ぶろぐへのお運び&コメントありがとうございます!自分はなかなかご縁がなくて、Life公演にはずっと以前1度行ったきりなのです。今回は3人も客演されていますが、公演の地味な内容にしては何だか客席が華やかだなぁと感じたのはそのせいなのですね。小野健太郎さんのお名前のところだけ、劇団のリンクをさせていただきました。半端なフォローですみませぬ。記事を楽しんでいただけてとても嬉しいです。またお越し下さいませ。
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こんにちは。二度目の書きこみです。わたしは、小... (ふう)
2007-10-28 15:35:32
こんにちは。二度目の書きこみです。わたしは、小野くん、青木くん、奥田くんが所属するStudio Lifeという劇団のファンなのですが(なかでも青木くんはお気に入り)、近ごろ劇団員の外部出演が多すぎて全部に手がまわらず、この公演も泣く泣くあきらめた次第です。Lifeファン以外の方の冷静かつ丁寧な観劇レポ、大変興味深く拝読させていただきました。ありがとうございました!
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