因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

中野成樹+<del>フランケンズ、</del>,の短々とした仕事 その2『家族でお食事 夢うつつ』

2007-12-14 | 舞台
*原作T・ワイルダー『ロングクリスマスディナー』誤意訳・演出 中野成樹 公式サイトはこちら STスポット 16日まで

 短い稽古期間で、短い作品を作ろうという試みの第2弾。第1弾の『冬眠』がとても楽しかったので、今回の公演を心待ちにしていた。壁にはタンタンの美しい切り絵が。色も柄も細やかで目が覚めるようだ。椅子が数脚とテーブルがあるだけのシンプルな舞台だ。ある家族がクリスマスの夕食をする。その場面が四世代90年にわたって続いていく物語である。

 舞台を作るとき、さまざまな制約や障害があると想像する。外国語で書かれた作品を日本語に翻訳するときに生じる埋めがたい違い、外国人を日本人が演じる不自然さ等々に加え、稽古期間が充分に取れない、予算が少ない、稽古場の確保が難しいというハード面の困難もあるだろう。それをそのままマイナスとするか、プラスに転じるか。作り手の腕の見せどころだと思う。当日チラシ掲載の「ごあいさつ」には、今回の公演に対する中野成樹の意気込みや葛藤などが飄々とした調子で記されている。熱さと軽やかさが同居していて、こちらも肩の力を抜いて楽しむことができた。

  《ここより舞台本編について、若干詳しい記述に入ります。未見の方はご注意ください。》

 アメリカのある家族の話である。若夫婦が新居に夫の母を呼び寄せて、初めてのクリスマスを祝う食卓に始まり、夫婦に子供が生まれ、親が亡くなり、子供が成長し…という話が静かに続く。これまでみた中野成樹の舞台に比べると遊びの部分が少ないように感じたが、人が生まれやがて死んでいく営みが淡々と示されている様子には、今がまさにクリスマスシーズンであることもあって、思いもよらず厳粛な気持ちにさせられた。クリスマスはどこの国でもいつの時代でも毎年やってくる。日本はキリスト教国ではないが、これまでの日々に感謝し、新しい日々のために祈る気持ちは理解できると思う。

 中野成樹とフランケンズの作る舞台は、ある意味では一種の型がある。しかしその型を見せることじたいが前面に出るのではなく、何十年あるいは100年も以前に外国で書かれた作品から何かを掴み取り、何かを信じていることが伝わってくるので、毎回新鮮でわくわくと楽しいのである。今年の横浜の劇場通いはたぶん今夜が最後だろう。クリスマスにはもう少し早いが、小さなプレゼントを受け取ったような気持ちである。

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