因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『UNDER GROUND』

2006-09-25 | 舞台
*脚本・演出 タニノクロウ 下北沢ザ・スズナリ
 庭劇団ペニノの新作。実は1月公演の『ダークマスター』が初めてのペニノ体験だったのだが、これには茫然とするばかりで言葉にならず、今回も開演前、後ろの席から「今回は一時間ちょっとくらいだ。それ以上長いとお客さんが具合悪くなるらしいよ」という会話が聞こえ、いったいこれからどんな目に遭うのかと恐怖さえ感じたのだった。
 
 ひとことで言うならば、「外科手術とジャズ生演奏のコラボレーション」であろうか。「コラボレーション」という言葉は生まれて初めて使ってみた。ぴたりの表現とは言い切れず、安易に使いたくはないのだがとりあえず。

 古びた手術室に三々五々看護士たちが集まり、手術が始まる。スタッフは女性ばかりで、なぜか医師はいない。舞台上手にはジャズバンドが位置しており、手術の様子に合わせるような合わないような演奏が続く。役名「指揮」にマメ山田が扮し、はじめはレントゲン写真やカルテをみて、医師らしきことをしているのだが、手術には手を出さず、ジャズバンドに合図を送ったり、途中なぜか水着に着替えて足ビレをつけてみたり、開腹した患者の体内に釣り糸を垂れてみたりの不可解行動をする。手術部分に関しては、古びてはいるものの相当リアルなセットと小道具で、血が流れたり内臓がどんどん出てきたり、テレビドラマ『ER』顔負けである。看護士たちの台詞も最小限の手術用語?がかわされるだけである。途中患者が死にそうになり、手術室はパニックに陥る。ジャズバンドは煽るような大迫力演奏になり、場内は異様な雰囲気に。

 自分の演劇に関する既成概念がことごとく壊されていくようであった。それが決して不愉快ではなく、心身がどんどん覚醒して、身を乗り出すように楽しんでしまった。終演後の場内は「何だったんだろうね、あれは」とあっけにとられつつも、熱気と充実感に満ちた雰囲気であった。この不思議な高揚感。これでわかったと安心すると次は痛い目に遭うかもしれず、しかしそれすら楽しみになっている自分に驚くのだった。



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