アメリカ軍などによる日本占領とは、どんなことであったのか。きちんと書いている本はない。真実に近いと思われるのが、山田風太郎の『戦中派焼け跡日記』である。日本人が悔しい思いをしたことが、ストレートに語られている。戦後の明るさを強調する進歩派の考えとは、まったく異なる。敗戦から間もない昭和21年1月17日の日記では、東京駅でのことが綴られている。「駅前の広場にも新駐兵が歩いていた。日本の女を連れたのが多い。ビルのあちこちに畳2畳もありそうな星条旗が碧空に翻って、それを仰いでいたら、可笑しいことに、目に涙がにじんできた」。そして、山田風太郎は新聞にも絶望したのだった。「今の日本の新聞は何処の国の新聞か分からない。今の日本の壇上には叫ばれる口、今の日本の紙に書きなぐられる筆は何処の国のものか分からない。寂しい。寂しい。あんまりひどい。あんまり惨めだ」。私が学校で教わったのは、敗戦によって日本は民主化されたとの一点張りであった。しかし、それは一面しか伝えていないのである。研ぎ澄まされた作家の感性は、暗黒の惨憺たる日本の現実を直視した。そこで聞こえてくるのは「飢餓の呻きと『戦争犯罪人』への罵倒と、勝利者への卑屈な追従の声ばかり」であった。それから70年近い歳月が経とうとしているのに、憲法9条の改正一つできず、日本人はそこから抜け出せないのである。
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