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2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~

2017年07月11日 | 批評・思想
★クリストファー・ベックウイズ(斎藤純男・訳)『ユーラシア帝国の興亡:世界史4000年の震源地』(筑摩書房 4,200円)
 
 (1)米国のトランプ政権による失態が続く中、中国は着実にユーラシア大陸における覇権の確立を目指す動きを進めている。
 〈例1〉ロシアのプーチン大統領をはじめとする約30ヵ国の首脳を集めて開催した「一帯一路」に関するフォーラム。
 〈例2〉上海協力機構の会合
 こうした中、いわば“全ユーラシア史”のような骨太の書籍が出版されたのは興味深い。

 (2)著者は、ユーラシアの歴史に新たな視点を与えることで定評のある米インディアナ大学の教授。本書は彼の著作の初の邦訳だ。
 彼の主張を要約すると、一般的な世界史で言われている「中央ユーラシア人」たちは、決して侵略的な騎馬民族や遊牧民などではなく、生活の安定や周縁国との交易を積極的に求めていた・・・・というもの。
 本書の特徴を三つ。
  (a)“扱う範囲の大きさ”。記述は、家畜の飼育を本格化させた紀元前2000年前の「インド・ヨーロッパ人」の動きから始まり、その後の流れを多数の言語の資料を扱いながらサポートする。各地に残された二輪車や英雄伝説など、話を進める上でのシンボルの使い方も巧みだ。
  (b)その“逆説的な視点”。最大のものが、中央ユーラシアに住んでいた人々は極めて侵略的であったという過去のイメージを完全に否定している点だ。歴史というものは往々にして勝者の視点で書かれる。著者は、むしろ「野蛮」(バルバロイ)であったのは「周辺帝国」(ギリシャ、ローマ、ペルシャ、中国など)だ、と主張する。
    地政学の理論を初めてまとめた地理学者マッキンダー(英国)も、ユーラシア内陸からの遊牧民による侵略をロシアやドイツの台頭に重ね合わせていたが、こうした西洋のユーラシア脅威史観は偏見であることが資料から浮かび上がる。
  (c)当地域の“未来の暗さ”を暗示している点。後半では、将来の明るい見通しとして、政治面ではEU(欧州連合)、技術面ではインターネットの普及が希望となる、とするが、最近では英国のEU離脱やネットが政治の分断に効果を発揮していることから、本書が提示する楽観的な未来像は微妙だ。原著が2009年に刊行されて以降、中国の台頭やロシアのウクライナでの軍事行動なども起きている。本書で示される暗い歴史が復活したと感じられるほどである。

 (3)非常に分厚な本格的な歴史書だが、文章は極めて明晰だ。固有名詞が多いのは難点だが、壮大な歴史を鳥瞰する視点を得られる点で、高価であるものの、世界史好きにはたまらない一冊だ。

□奥山真司(IGIJ(国際地政学研究所)上席研究員)「遊牧民は「野蛮」ではなかった 俗説を覆すユーラシアの通史 ~私の「イチオシ収穫本」~」(週刊金曜日 2017年7月15日号)
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