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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方

2016年09月11日 | ●佐藤優
   
 ①小林雅一『ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃』(講談社現代新書 800円)
 ②堀江貴文『ウシジマくんvs.ホリエモン 人生はカネじゃない!』(小学館 1,300円)
 ③児玉小枝『赤ちゃんネコのすくいかた 小さな“いのち”を守る、ミルクボランティア』(集英社 640円)

 (1)①は、最新のゲノム研究に関する状況を一般読者に分かりやすく説明している。
 <19世紀に活躍した英国の人類学者フランシス・ゴールトン(進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの従弟)らの件食うに端を発する行動遺伝学は、人間の「知性」や「性格」などに代表される各種の個性が、遺伝的要因によって、どの程度まで、そしてどのように育まれるかを明らかにする学問だ。しかし、この分野の研究は1920~1930年頃、ドイツのナチズムに象徴される優生学(遺伝的に優れた民族だけが生存すべきとする考え方)と同一視されることにより、第二次世界大戦後の1940年代後半~1950年代には「人種差別的で非人道的」などの理由から急速に廃れた。だが1980年代から1990年代にかけて、再び研究の勢いを盛り返してきた>
ということであるが、ゲノム研究に対する倫理面のアプローチをおろそかにすると「21世紀の優生学」が生まれる危険がある。この認識を小林氏は持っている。

 (2)②は、真鍋昌平氏の漫画『闇金ウシジマくん』を題材に、堀江氏が実践的人生論を展開するユニークな作品だ。
 <『闇金ウシジマくん』では、仲間を裏切る様もリアルに描かれている。だが総じて、裏切ったヤツは何らかの報いを受けている。
 現実では、どうだろうか。信用関係にあった人をひどく裏切って、うまく成功したという話はけっこう聞く。しかし、裏切った側は、必ず報いを受けているわけではないようだ。転落した人もいるが、割と多くはケロッと復活して、また怪しい、ビジネスを続けていたりする。意外と、そんなものだ>
 外務省での佐藤優の経験に照らしても、裏切って成功した人は確かにいる。しかし、報いを受け、潰れた人の方がはるかに多い。

 (3)③は、熊本市における動物愛護の取り組みについて記した感動的なノンフィクションだ。
 <8年前までは、ほかの自治体と同じように赤ちゃんネコをガス室で殺処分していた熊本市が、なぜ、現在のような“殺処分ゼロ”を実現できたのか--。
 その答えのヒントは、赤ちゃんネコをとりまく人たちの“想い”のなかにありました。
 「殺したくない!」という職員さんたちの想い。
 「助けたい!」という梅崎さんの想い。
 「命をすくうお手伝いがしたい」「赤ちゃんネコを育てたい」という、ミルクボランティアさんたちの想い>
 官民が協力して住民の想いを実現していくという民主主義の実例について、本書から学ぶことができる。

□佐藤優「「21世紀の優生学」の危険 ~知を磨く読書 第165回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年9月17日号)
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