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2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【佐藤優】トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~日本も敵になる?~

2017年02月09日 | ●佐藤優
 
  ★ピーター・ナヴァロ『米中もし戦わば』(文藝春秋、2016)

 (1)ドナルド・トランプ米国大統領が新設の国家通商会代表に任命したピーター・ナヴァロによる中国に関する情勢分析と近未来予測が本書(2015年原著刊)に記されている。
 ナヴァロは、中国の休息な軍拡は、同国の悪意に基づくものではない、と主張する。〈経済的動機、膨張主義的動機、国家安全保障上の動機がこのように重なり合っていること、防衛と攻撃の境界がはっきりしないことを考えると、現在の状況の説明として、少なくとも一つの妥当な解釈が浮かび上がってくる。中国の軍事力は、最初は国土と自国の経済的利益を守るための純粋に防衛的な理由で補強されたのかもしれないが、今では近代的で攻撃的な軍事力へと危険な変貌を遂げ、いずれは世界に展開する能力を持つようになるだろう〉
 このような状況は、きわめて危険だ。
 中国が悪意に基づく明確な国家戦略を持っているならば、それを脱構築する方策も見つけやすい。しかし、中国が主観的には国土保全と経済権益の防衛という認識で、「何となく」急速な軍事力の増強を事実として行っているならば、そのことを中国に認識させ、政策を変更させるのは至難の業だからだ。

 (3)だから、ナヴァロは一種のショック療法を中国に対して適用することが妥当だ、と考えているようだ。彼の危険な発想は、次のようなものだ。
 <急速に台頭する中国によって引き起こされた深刻な安全保障上の脅威に平和的に対抗するには、第一に、経済的・軍事的その他の対抗策について政治的な合意ができていなければならない。だが、自由で開かれた民主主義国家においてこうした政治的合意に到達するの至難の業だと思われる。経済的利害は対中貿易との関わり方によって異なるし、利益団体は大義のために団結するより対立し合う道を選びがちである。独裁的な中国政府は外国の中国報道に強力なメディア統制を敷き、西側のジャーナリストや大学は一貫して自主規制をおこなっている。
 この分裂状態こそが、「対中戦争の可能性について考えるべきだ」という政治的合意の形成を西側の民主主義諸国、特にアメリカで長い間阻んできた元凶である。言うまでもないことだが、現実から目を逸らすというこうした状態がこのまま続けば、物語の結末はわれわれ全員にとって苦いものとなるだろう。
 もちろん、今ならまだ間に合う。戦争より遙かにましな、平和的な方法で問題を解決する道はある。真実が明らかになり、リスクの大きさ、壊滅的被害の及ぶ範囲の大きさを中国人とわれわれ双方が完全に理解できるようになりさえすれば、希望はみえてくる。平和が栄えるためには、この真実が自明の理となる必要がある>

 (4)どの国でも軍参謀部やインテリジェンス機関では、戦争のシミュレーションを日常的に行っている。しかし、米国政府が、米中戦争をシナリオに入れ、その上で中国との懸案の平和的解決を図るというのは机上の空論だ。
 ナヴァロは、「今ならば軍事的に米国が優位を保てるので対中戦争のシナリオを提示することに問題はない。それで中国が怖じ気ついて、米国との戦争を諦める可能性が充分ある。仮に中国が対米戦争に踏み切るとしても、米国は中国を叩きつぶすことができるので、それで構わない」と考えている。
 トランプ大統領がナヴァロの対中戦略を採用するようなことになれば、中国は、米国が本気で戦争シナリオを描いていると見なし、アジア太平洋地域の情勢が著しく緊張する。そのような状況は日本の安全保障にとっても好ましくない。

 (5)ナヴァロは日本に対する警戒心も隠さない。
 <それでは、「日本核武装」シナリオはどうだろう。唯一の被爆国として、日本は核兵器の保有には強い拒否感を持っているが、同時に、高性能の核兵器を速やかに製造・配備するだけの技術力もほぼ確実に保有している。
 過去60年以上にわたる原子力発電の経験から、日本は、速やかに原子爆弾を開発するだけの専門技術も核物質も充分に持ち合わせている。時間をかけて小さな原子爆弾を開発しているイランや北朝鮮などとは違い、日本なら、ほとんど一夜のうちに最大級の原子爆弾をいくつでも製造してのけるだろう。
 この予測から浮かび上がってくるのは、アジア地域におけるアメリカの戦力投射の最も重要な機能は核抑止力による平和維持だという事実である。日本や韓国は核保有国にならずにアメリカの核抑止力に頼る方が、アジアで核戦争が起きる可能性は遙かに小さくなる、とほとんどの専門家が考えている。だが、いったんこのアメリカの核の傘の信頼性が疑問視されれが、核拡散に歯止めがかからなくなり、何が起きるかわからない状態になってしまう>
 ナヴァロの理解では、「一夜のうちに最大級の原子爆弾をいくつでも製造してのける」であろう日本も潜在的な脅威なのである。

 (6)トランプ政権には人種的偏見がある。
 トランプ大統領がロシアとの関係改善に意欲的なのは、ロシアを「白人国家」と見なしているからだ。
 その裏返しであるが、トランプ大統領の中国やアラブ諸国に対する強硬姿勢の背後には、これらが「非白人国家」であるという要素がある。トランプ大統領の腹心であるナヴァロもこのような人種的偏見を持っているようだ。ナヴァロの対中強硬論が、知らぬ間に対日警戒論に変化する可能性を過小評価してはならない。
 20世紀初頭の米国では、黄化論が流行し、中国人排斥に続いて日本人排斥が起きた。米国で再び黄化論が台頭しそうな、嫌な予感がする。

□佐藤優「日本も敵になる? トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~名著、再び ビジネスパーソンの教養講座 第25回~」(「週刊現代」2017年2月18日号)
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