★丹羽宇一郎『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』(東洋経済新報社 1,620円)
(1)一冊の書はときに生命体になりうる。本書はまさにそうだ。
(2)伊藤忠商事名誉理事、元中国大使、日中友好協会会長、それに幾つかの大学で教鞭をとる。著者はいわば日本を動かす指導層の一人だが、「現代」を生きる私たちに戦争の本質をあえて直截に語っている。
日本人は未だ戦争や歴史の意味を知らないのではないか、依然として主観的願望を客観的事実にすりかえているのではないか、その体質を変えなければ「我々はひとつ間違うと、たちまち戦前の日本人に戻る可能性がある」との懸念が示される。そのためには人に学び本に学び体験に学べ・・・・と忠告する。
(3)著者自身、まず戦争体験者の体験を聞き、そして現代の戦争とはどのようなものかを知らなければ、という位置に立つ。
日本が起こした日中戦争や太平洋戦争の実態とはいかなるものだったか。そして、中国、北朝鮮の軍事戦略の分析と安易な日本国内の軍事論の危険性を、著者はひとつずつ確かめて警鐘を鳴らす。
(4)光る寸言が幾つも目につく。
「日本人の中国嫌いは世界でも異常だ」
「彼ら(注:かつての日本軍のエリート)は失敗しても責任を問われない。結果、見通しの立たないような作戦でも平気で立案する」
「日本軍は殺人集団であり、略奪集団」「当地(注:レイテ)に眠る人々にとっては戦後はまだ終わっていない」
「内心日本が負けることはわかっていたのだ」
「国力とは、その国の国民の質と量の掛け算である」
「敗北の現代史を学ぶ」
(5)安全保障と防衛力を同一視して論じる誤りから、企業経営の責任のあり方まで、幅広く提示しながら、日本は安全保障上、「敵」をつくるべきでなく、むしろ軍事とは別の論理をもつ特別な国になれ、という結論を導きだしている。
歴史を知らずに大人になり有権者となる不幸・・・・という指摘は、まさに著者の肺腑の言と解するべきだろう。
□保阪正康(ノンフィクション作家)「(書評)歴史を知らずに大人になる不幸 『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』 丹羽宇一郎〈著〉」(朝日新聞デジタル 2017年10月29日)
「(書評)『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』 丹羽宇一郎〈著〉」
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【参考】
「【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~」
「【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~」
「【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~ 」
「【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~」
「【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~」
「『【本】『世界をまどわせた地図』」
「【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~」
「【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
「【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~」
「【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~」
「【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~」
「【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~」
「【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~」
「【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~」
「【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~」
「【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~」
「【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~」
「【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~」
「【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』」
「【本】中国から見た邪馬台国とは」
「【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~」
「【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』」
「【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』」
「【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~」
「【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~」
「【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』」
「【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~」
「【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~」
「【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~」
「【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~」
「【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~」
「【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~」
「【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~」
「【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~」
「【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~」
「【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~」
「【本】国谷裕子『キャスターという仕事』」
(1)一冊の書はときに生命体になりうる。本書はまさにそうだ。
(2)伊藤忠商事名誉理事、元中国大使、日中友好協会会長、それに幾つかの大学で教鞭をとる。著者はいわば日本を動かす指導層の一人だが、「現代」を生きる私たちに戦争の本質をあえて直截に語っている。
日本人は未だ戦争や歴史の意味を知らないのではないか、依然として主観的願望を客観的事実にすりかえているのではないか、その体質を変えなければ「我々はひとつ間違うと、たちまち戦前の日本人に戻る可能性がある」との懸念が示される。そのためには人に学び本に学び体験に学べ・・・・と忠告する。
(3)著者自身、まず戦争体験者の体験を聞き、そして現代の戦争とはどのようなものかを知らなければ、という位置に立つ。
日本が起こした日中戦争や太平洋戦争の実態とはいかなるものだったか。そして、中国、北朝鮮の軍事戦略の分析と安易な日本国内の軍事論の危険性を、著者はひとつずつ確かめて警鐘を鳴らす。
(4)光る寸言が幾つも目につく。
「日本人の中国嫌いは世界でも異常だ」
「彼ら(注:かつての日本軍のエリート)は失敗しても責任を問われない。結果、見通しの立たないような作戦でも平気で立案する」
「日本軍は殺人集団であり、略奪集団」「当地(注:レイテ)に眠る人々にとっては戦後はまだ終わっていない」
「内心日本が負けることはわかっていたのだ」
「国力とは、その国の国民の質と量の掛け算である」
「敗北の現代史を学ぶ」
(5)安全保障と防衛力を同一視して論じる誤りから、企業経営の責任のあり方まで、幅広く提示しながら、日本は安全保障上、「敵」をつくるべきでなく、むしろ軍事とは別の論理をもつ特別な国になれ、という結論を導きだしている。
歴史を知らずに大人になり有権者となる不幸・・・・という指摘は、まさに著者の肺腑の言と解するべきだろう。
□保阪正康(ノンフィクション作家)「(書評)歴史を知らずに大人になる不幸 『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』 丹羽宇一郎〈著〉」(朝日新聞デジタル 2017年10月29日)
「(書評)『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』 丹羽宇一郎〈著〉」
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【参考】
「【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~」
「【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~」
「【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~ 」
「【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~」
「【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~」
「『【本】『世界をまどわせた地図』」
「【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~」
「【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
「【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~」
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