語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~

2018年01月16日 | ●佐藤優
 12月9日、米国上院情報委員会は、ブッシュ前政権下におけるCIAの、テロ容疑者に対する取り調べの実態に係る報告書を発表した。
 <1週間も眠らせなかったり、家族に危害を及ぼすと脅したりするなど過酷な拷問が繰り返されたが、「情報を得るのに効果的ではなかった」と結論づけた。>【注1】

 米国議会(特に上院)は、外交に関して、日本の国会よりも遙かに強大な権限を持つ。だから、CIAもこの報告書を無視できない。ジョン・ブレナン長官が釈明に追われている。
 <AP通信によると、CIAのブレナン長官は、最も過酷な尋問は2002~03年に実施され、尋問は07年まで続いたと認めた。39人は過酷な扱いを受けたという。承認されている尋問手法を逸脱した事例があったとも認めたが、尋問は米国に有用な情報をもたらし、国際テロ組織アルカイダ指導者のオサマ・ビンラディン容疑者の発見、殺害にも役立ったと説明した。
 2001年の同時多発テロの後、「テロとの戦い」を掲げたブッシュ前政権は、テロ容疑者を米国外の秘密施設などで拘束。CIAが水責めなどの過酷な尋問手法を用いることも容認していた。ブッシュ前政権は、再度のテロ攻撃を阻止するため、重要な供述を引き出すのに必要な措置と判断したとされる。
 (中略)オバマ大統領は9日の声明で「過酷な尋問は米国の価値観に合わず、米国の地位に重大なダメージを与える。我々はこうした手法に二度と頼ることはない」などとした。>【注2】

 この件に係る日本の報道は、拷問とリンチの区別ができていない。

 拷問は、プロの尋問官が、被疑者が隠している事実を自白させるために行う仕事だ。拷問を行わないインテリジェンス機関は一つもない。被疑者本人に危害を加えなくても、被疑者が愛する妻や子どもを連れてきて、爪を剥がす、耳を削ぐといった拷問を加え、「話さなければなぶり殺しにする」と言って脅せば、たいていの被疑者は知っていることを全部話す。
 また、旧ソ連や東ドイツでは、相当レベルの高い自白剤が開発されていた。
 むろん、米国や英国のインテリジェンス機関もこういう薬を持っている。こういう薬を使い、プロの尋問官が徹底的に責めれば、必要な情報は全部とれる。
 だから、現在のインテリジェンス機関では、「拷問に耐えろ」などという不可能なことは教育しない。クオーター(区画)化の原則によって、スパイには断片的情報した与えない。知らないことはいくら激しい拷問にあっても自白できないからだ。

 他方、リンチは敵に対する腹いせだ。尋問官が被疑者に不必要な苦痛を与えることだ。リンチはしばしば行き過ぎて、相手を殺してしまう。
 1週間眠らせていない人間から、正確な供述をとることはできない。
 水責めの恐怖から逃れるために、尋問官に迎合した嘘を供述したりもする。
 そういう不正確な情報は、インテリジェンス機関には百害あって一利もない。

 功を焦ったCIAの尋問官のリンチが露見した、というのが真相だろう。

 【注1】記事「CIAの拷問「効果なし」 テロ尋問、偽の証言も 米議会報告」(朝日デジタル 2014年12月10日)
 【注2】記事「対テロの暗部、公に 米CIAの「拷問」詳述
(朝日デジタル 2014年12月13日)

□佐藤優「「拷問」を行わない諜報機関はない ~佐藤優の人間観察 第94回~」(「週刊現代」2014年12月27日号)
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