語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口

2016年11月14日 | ●佐藤優
   
 ①池上彰『アメリカを見れば世界がわかる』(PHP研究所 1,300円)
 ②古市憲寿『古市くん、社会学を学び直しなさい!!』(光文社新書 760円)
 ③斎藤ウィリアム浩幸『超初心者のためのサイバーセキュリティ入門』(文春新書 800円)

 (1)①において、米共和党から大統領となるに至ったドナルド・トランプ氏は、モンロー主義との文脈で捉えられている。
 <アメリカは南北アメリカ以外、つまり、ヨーロッパには干渉しないという一国孤立主義をとりました。第一次世界大戦後、国際連盟の創設が提唱された際も、アメリカ議会はモンロー主義を掲げて反対しました。第二次世界大戦でも、当初はドイツ軍がヨーロッパ諸国を蹂躙するのを傍観していたのです。
 「アメリカ・ファースト」は今に始まったことではありません。トランプの主張も決して突飛なものではないのです。
 こうしてみると、怪物のように思えたトランプも、生まれるべくして生まれてきたようにも思えます>
 トランプを戯画化して見ないことだ。

 (2)②は、ユニークな社会学入門書だ。古市氏が12人の社会学者にインタビューをしている。山田昌弘氏との間では、こんなやりとりをしている。
 <山田 (中略)僕の印象で言うと、日本でいちばんの社会学的研究をしている人々は官僚ですよ。
 古市 官僚?
 山田 だって現実の社会問題を分析して、そこから原因、結論や政策をくみ取る仕事を毎日しているわけじゃないですか。
 古市 たしかにそうですね(笑)。
 山田 ただ、官僚は4~5年でつねに異動するので、一つのことにずっと専門で関わることはできない。そこはアカデミックな社会学者と違う点かもしれません。
 古市 じゃあ必ずしもマートンやルーマンを読まなくても、社会学者になれるということですか?
 山田 いや、そういう理論的な本を読むことも社会学者にとっては大切です。学生に説明するときにも、社会学理論や社会学史のように、社会学全体を基礎づけるような社会学と、社会の現実的な問題に向き合う社会学という二つがあるという話をします>
 確かに官僚には二流の社会学者という面がある。

 (3)③は、超初心者とうたっているが、実務に直ちに応用できる質の高い内容だ。
 <職場に誰のものかわからないUSBメモリーが落ちていたらどうしますか。
 それを拾って自分のパソコンに挿してみて、中身を確認しようとしたら、もうツーアウトです。これもよくある企業スパイの手口。悪意のあるUSBは、コンピューターに挿してしまったその時点で、中にあるウィルスを自動的に拡散し始めるのです。正体のわからないUSBは、中身を見ようとせずセキュリティの管理部門に持っていかなければなりません>
 これはプロのスパイがよく使う手だ。

□佐藤優「プロのスパイがよく使う手口 ~知を磨く読書 第174回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年11月19日号)
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