語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教

2017年01月23日 | ●佐藤優
   
 ①的場昭弘『「革命」再考 資本主義後の世界を想う』(角川新書 840円)
 ②八木沢敬『「正しい」を分析する』(岩波書店 2,200円)
 ③鵜飼秀徳『無葬社会 彷徨う遺体 変わる仏教』(日経BP社 1,700円)

 (1)①は、ソ連崩壊が資本主義に与えた影響についてこう述べる。
 <一時的にソ連・東欧の崩壊、中国の資本主義化で、一気に自由主義が拡大します。これによって低賃金でつくられた製品が世界に蔓延します。そして工場移転によって半周辺国、周辺国は突如として経済成長します。一方で、先進国では工場移転による空洞化、賃金の低落化が起こり、中産階級の崩壊という現象が次第に起きています。中産階級という意識を持った国民が先進国で多かったのは、皮肉なことですが、ソ連東欧の崩壊よりも前のことです。崩壊以後は、むしろ貧困が再来し始めた。>
 革命の危険性がなくなると、資本主義諸国では、労働者保護や福祉が軽視され、資本が自由に運動するようになるので、格差や貧困が拡大するのは当然の流れだ。

 (2)②は、「正しさ」を解明することに徹底的に拘ったユニークな作だ。
 <地球や水星は、わたしたちが地球や水星のことを考えているかぎりリアルに存在するが、そうでなければリアルに存在しない。こう主張する立場を「観念論」と言う。地球や水星について確証しなくても地球や水星について考えることはできるので、観念論は懐疑論より物体にリアリティーをあたえやすい。と同時に、観念論は懐疑論より物体からリアリティーを剥奪もしやすい。確証可能性はいったん確立されればかんたんには失われないが、考えるということは即座にできる反面、即座にやめることもできるからである。ということは、わたしたちはつねに地球や水星のことを考えているわけではないので、地球や水星はリアルに存在したりしなかったりを繰り返している。つまり、リアリティーに入ったり出たりしているということになる。このいわば「存在論的軽さ」が、観念論に面倒を引きおこす>
 との説明を読むと、現代も観念論が最強の思想的力を持っていることが分かる。

 (3)65歳以上の一人暮らし+夫婦のみ世帯」を孤独死予備軍と定義すると、2030年にはこの範疇に入る人たちが2,700万人になる・・・・という問題と真剣に向き合ったのが③だ。
 <死は逃れようがないが、僧侶が死の意味を説くことができれば、寺院も仏具店も葬儀社もきっと蘇る。1500年、日本仏教の歴史とともに歩んできたモノづくりやサービスの現場にも活気が生まれる。ひいては地縁の回復にもつながる。
 寺院の盛衰は、多くの業界の命運とともにあることを、仏教界は自覚しなければならない>
 こういう鵜飼氏の指摘はそのとおりだ。仏教だけでなく、すべての宗教に根本的改革が求められている。

□佐藤優「現代も強い力を持つ観念論 ~知を磨く読書 第183回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年1月28日号)
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