語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方

2016年10月24日 | ●佐藤優
 ①秋田浩之『乱流 米中日安全保障三国志』(日本経済新聞出版社 2,200円)
 ②小佐野重利・京谷啓徳・ほか『西洋美術の歴史4 ルネサンスⅠ 百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』(中央公論新社 3,800円)
 ③池上彰『はじめてのサイエンス』(NHK出版新書 780円)

 (1)①は、日本の内政と国際情勢に通暁している優れた新聞記者の腕を感じさせる作品だ。
 <あらかじめ用意した長期戦略どおりに進もうという発想は、国土や国力に恵まれた米国や中国など、一握りの大国に許されたぜいたくといえるだろう。
 そんな現実を踏まえると、日本に求められるのは、一見すると矛盾した2つのことだ。まずは世界情勢を見定め、明確な戦略を描くこと。第2に、その戦略にしがみつくわけではなく、情勢が変わったらすぐに次善策に切りかえられる「しなやかさ」も備えることだ>
 この認識を政治家と外務官僚が共有すべきだ。

 (2)②は、歴史全体の中で美術史を記述していこうとする。
 <15世紀初め、イタリアは西欧の政治的な出来事にそれまでにもまして巻き込まれることになる。「アヴィニョン捕囚」後の教会大分裂が一旦結着し、1420年、教皇マルティヌス5世のときに教皇庁はローマに帰還する。そして50年、莫大な収益をもたらす壮麗な聖年を敢行した教皇ニコラウス5世によって、都市ローマ復興のための整備美化事業が大々的に始まる>
 本書を読むと、コンスタンツ公会議によるカトリック教会の統一回復なくしてルネサンスは起きなかったことがよく分かる。

 (3)③は、理科系の教養が現代人に不可欠であることをひしひしと感じさせる。
 <東京電力の技術部門にいる人たちは、理系の人ばかりです。東京電力にも文系出身の人はもちろんいますが、彼らの多くは総務・人事・営業部門に配属されていて、技術部門にはほとんどいません。
 (中略)加えて、政治家や記者の多くも文科系出身です。彼らは技術者たちの話を噛み砕いて、わかりやすく伝えようと努力しました。しかし、うまくいかないことも少なくなかった。その結果、多くの国民が「よくわからない」状況に陥ってしまったのです。
 (中略)解決策はもちろん、あります。理科系と文科系のパイプ役をつくって、その人たちが国民なり利用者なりに説明すればよいのです。
 それにはまず、理系の話を文系にも理解できる言葉に置き換えるコミュニケーターを、政府や各企業が養成することが必須でしょう。コミュニケーターがその役割をしっかり果たせば、国や企業の危機管理能力を高めることにもつながります>
 最新の科学技術情報を提供されても、専門的知識のない大多数の国民はその内容を理解することができない。マスメディアの重要な機能は、専門家と一般の人びとの間の媒介(メディア)にあることだ。

□佐藤優「現代人に欠かせない教養 ~知を磨く読書 第171回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月29日号)
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