語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化

2016年09月18日 | ●佐藤優
   
 ①ゾーヤ・モルグン(藤本和貴夫・訳)『ウラジオストク日本人居留民の歴史1860~1937年』(東京堂出版 3,800円)
 ②創価学会沖縄青年部・編)『未来へつなぐ平和のウムイ(思い) 沖縄戦を生き抜いた14人の真実』(第三文明社 1,400円)
 ③青木孝平『「他者」の倫理学 レヴィナス、親鸞、そして宇野弘蔵を読む』(社会評論社 2,600円)

 (1)①は、ロシア極東のウラジオストクに居留していた日本人に関する興味深い研究だ。1930年代、スターリンによる反宗教キャンペーンが吹き荒れたが、ウラジオストクの浄土真宗寺院が受けた被害は小さかった。
 <ソ連では冷酷な反宗教キャンペーンが展開されていた。(中略)日本の仏教寺院の土地、建物、仏具や蝋燭でさえも没収された。しかし、のちにそれらすべては寺院に貸し出されることになり、布教を続けることが許された。というのも、おそらく、日本の仏教がロシア人のためではなく、日本人のためだけにあったからであろうと思われる>
 日本の宗教団体を弾圧することで、日本政府を刺激することを恐れていたのだ。

 (2)②には、創価学会の平和に対する強い「思い」(琉球語でウムイ)が伝わってくる。玉城信さんは日本兵によって弟が殺されたときの様子についてこう回想する。
 <「パーン」と銃声が聞こえたかと思うと、すぐ下の弟・繁三の「痛いよ~、助けて~」という声が聞こえました。
 (中略)このとき、弟は自分たちのいる壕から屋敷の母屋へ水を飲みに行ったようです。歌をやめない繁三に腹をたてたのか、知的障害なので面白半分にやったのか、兵隊が小銃を抜いて繁三のおなか にむけて撃ったのです。
 (中略)苦しくて泣き叫んでいる弟の大声で、いまにも敵機が降りてくるのではないかと、兵隊たちは不安がり、黙らせるために弟めがけてさかんに発砲し、とうとう、弟は射殺されてしまいました>
 創価学会を支持母体とする公明党沖縄県本部が、米海兵隊普天間基地閉鎖、辺野古移設反対を掲げるのは、沖縄民衆の思いに応えようとしているからだ。 

 (3)③には、青木孝平氏の強靱な思考力を見ることができる。
 <宇野『原論』における「資本の生産過程」は、『資本論』の労働価値説に対する徹底的な転倒の試みであり、その根源的な倒錯性を暴きだすものであるといえよう。すなわち、商品の価値なるものは、古典は経済学がいうような人間の労働が結晶し体化 embodied したものではないし、それゆえ、マルクスのように人間の労働が疎外ないし自己展開して資本に発展するのでもありえない。(中略)あらかじめ自らに属さない人間労働を「外部」から無理に「同」に還元するかぎりにおいてのみ成立するのである。ここにおける「他者」による「自己」の包摂は、なんら必然的根拠のないいわば歴史の狡知にすぎない>
 資本主義を成り立たせる労働力の商品化は、必然的な現象ではなく、偶然、歴史に登場したにすぎない。

□佐藤優「必然ではない労働力商品化 ~知を磨く読書 第166回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年9月24日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系
【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【片山善博】都議会改革は都... | トップ | 【食】への影響が甚大な台風... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ( 武尊)
2016-09-18 12:35:57
>創価学会を支持母体とする公明党沖縄県本部が、米海兵隊普天間基地閉鎖、辺野古移設反対を掲げるのは、沖縄民衆の思いに応えようとしているからだ。
 だったら公明党を自民党から引き剥がすべきという発言まで書かなければ、なんの意味もない文章。でも出来ませんよね。今や公明党がなければ成り立たない政党になってしまった、自民党。そしてそれを支える為に、米国でのカルト宗教指定を恐れて離れられない創価学会。
 これらを一般人に知らしめたくないんだろうな。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

●佐藤優」カテゴリの最新記事