英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
de la Mare, "The Sleeping Beauty"
ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「眠り姫」
キイチゴの香りで、空気が甘い。
シーツにつつまれて、彼女は眠る。
彼女の髪は、夕暮れの金色、
彼女の瞳は、夜明けの青。
いったい何回、姿を変える月が照らしたことか、
いつも変わらぬ、バラ色の彼女の顔を。
彼女の鏡もいつもそこに、
静かに、銀色に輝く日々のなか。
うすい羽の蛾が、軽やかに、
ひとりぼっちのベッドに飛んでいく。
コオロギは夕べの歌を歌う、
彼女の髪の、動かない影のどこかから。
暑さ、雪、風、洪水のなか、
彼女は眠る、美しく、ひとりで。
少し顔を出して、四月の芽が眠るように、
冬の精にとり憑かれた木々の上で。
* * *
Walter de la Mare
"The Sleeping Beauty"
The scent of bramble sweets the air,
Amid her folded sheets she lies,
The gold of evening in her hair,
The blue of morn shut in her eyes.
How many a changing moon hath lit
The unchanging roses of her face!
Her mirror ever broods on it
In silver stillness of the days.
Oft flits the moth on filmy wings
Into his solitary lair;
Shrill evensong the cricket sings
From some still shadow in her hair.
In heat, in snow, in wind, in flood,
She sleeps in lovely loneliness,
Half folded like an April bud
On winter-haunted trees.
* * *
英文テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
「眠り姫」
キイチゴの香りで、空気が甘い。
シーツにつつまれて、彼女は眠る。
彼女の髪は、夕暮れの金色、
彼女の瞳は、夜明けの青。
いったい何回、姿を変える月が照らしたことか、
いつも変わらぬ、バラ色の彼女の顔を。
彼女の鏡もいつもそこに、
静かに、銀色に輝く日々のなか。
うすい羽の蛾が、軽やかに、
ひとりぼっちのベッドに飛んでいく。
コオロギは夕べの歌を歌う、
彼女の髪の、動かない影のどこかから。
暑さ、雪、風、洪水のなか、
彼女は眠る、美しく、ひとりで。
少し顔を出して、四月の芽が眠るように、
冬の精にとり憑かれた木々の上で。
* * *
Walter de la Mare
"The Sleeping Beauty"
The scent of bramble sweets the air,
Amid her folded sheets she lies,
The gold of evening in her hair,
The blue of morn shut in her eyes.
How many a changing moon hath lit
The unchanging roses of her face!
Her mirror ever broods on it
In silver stillness of the days.
Oft flits the moth on filmy wings
Into his solitary lair;
Shrill evensong the cricket sings
From some still shadow in her hair.
In heat, in snow, in wind, in flood,
She sleeps in lovely loneliness,
Half folded like an April bud
On winter-haunted trees.
* * *
英文テクストはSongs of Childhood (1902) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/23545
* * *
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Raleigh, ("The thirfting Tantalus. . . . ")
ウォルター・ローリ (1554?-1618)
(「のどを渇かせたタンタロスは」)
(ホラティウスの『諷刺詩集』 1.1.68-70の英訳、
『世界の歴史』より)
のどを渇かせたタンタロスは、川の
水を飲もうとするが、それは彼から逃げていく。
なぜ笑う? 「タンタロス」の名を入れかえたら、
これはまさに君のこと。
* * *
Walter Raleigh
("The thirfting Tantalus. . . .")
(Horace, Satires, 1. 1. 68-70,
from The History of the World)
The thirfting Tantalus doth catch
At streames that from him flee.
Why laugheft thou? The name but chang'd,
The tale is told of thee.
* * *
タンタロスは、ゼウスの子で、リュディアかどこか
(諸説あり)の王。神々の秘密をばらした、自分の子を
殺して神々に食べさせようとした、などの罪のため、
永遠に罰せられることになった。
その罰は、湖のなか、首まで水に浸かって
立たされているが、のどが渇いて水を飲もうとすると、
湖の水がスーッと下に逃げる、また、頭上に木の実があって、
お腹が空いたときにそれをとって食べようとすると、
その木の実がスーッと上に逃げる、というもの。
タンタロスは不死なので、こうして一生飢えと渇きに
苦しむことになる。
* * *
ほしいものが目の前にあるのに届かない、
という苦しみのたとえ。
あるいは、富があるのに満たされず、さらなる富を
求める愚かさのたとえ。
(ローリは、こちらの例として上の詩を引用。)
* * *
英文テクストは、The History of the World (1614) より。
http://archive.org/details/historyofworld00rale
2行の詩を4行に編集。音節14/14の詩(いわゆるfourteener)を
8/6/8/6に。(ブラウザ上の一行に収まらないから。)
* * *
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剽窃行為のないようにしてください。
(「のどを渇かせたタンタロスは」)
(ホラティウスの『諷刺詩集』 1.1.68-70の英訳、
『世界の歴史』より)
のどを渇かせたタンタロスは、川の
水を飲もうとするが、それは彼から逃げていく。
なぜ笑う? 「タンタロス」の名を入れかえたら、
これはまさに君のこと。
* * *
Walter Raleigh
("The thirfting Tantalus. . . .")
(Horace, Satires, 1. 1. 68-70,
from The History of the World)
The thirfting Tantalus doth catch
At streames that from him flee.
Why laugheft thou? The name but chang'd,
The tale is told of thee.
* * *
タンタロスは、ゼウスの子で、リュディアかどこか
(諸説あり)の王。神々の秘密をばらした、自分の子を
殺して神々に食べさせようとした、などの罪のため、
永遠に罰せられることになった。
その罰は、湖のなか、首まで水に浸かって
立たされているが、のどが渇いて水を飲もうとすると、
湖の水がスーッと下に逃げる、また、頭上に木の実があって、
お腹が空いたときにそれをとって食べようとすると、
その木の実がスーッと上に逃げる、というもの。
タンタロスは不死なので、こうして一生飢えと渇きに
苦しむことになる。
* * *
ほしいものが目の前にあるのに届かない、
という苦しみのたとえ。
あるいは、富があるのに満たされず、さらなる富を
求める愚かさのたとえ。
(ローリは、こちらの例として上の詩を引用。)
* * *
英文テクストは、The History of the World (1614) より。
http://archive.org/details/historyofworld00rale
2行の詩を4行に編集。音節14/14の詩(いわゆるfourteener)を
8/6/8/6に。(ブラウザ上の一行に収まらないから。)
* * *
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Raleigh, ("Even such is Time")
ウォルター・ローリ (1554?-1618)
(「まさに時間とはそのようなもの」)
まさに時間とはそのようなもの。わたしたちの若さとよろこびを、
わたしたちのもっているものすべてを、質にとって奪い、
かわりに老齢と死だけを与えてくれる。
そして、暗い、静かな墓に、
この世をさまよいつくしたわたしたちの
日々の物語を閉じこめる。
しかし、そんな土、墓、からだが滅びた塵から、
主がわたしを立ちあがらせてくれるはずだ。
* * *
Walter Raleigh
("Even such is Time")
Even such is Time, which takes in trust
Our youth, our joys, and all we have,
And pays us but with age and dust;
Who in the dark and silent grave,
When we have wandered all our ways,
Shuts up the story of our days.
But from which earth, and grave, and dust,
The Lord shall raise me up, I trust.
* * *
処刑前夜にローリが書いたとされる詩。
(それ以前に書いていたものを焼き直して。)
* * *
このような、ありえないことを強く信じる気持ち、
あるいは、それをあえて信じようという意志は、
なぜか感情に訴えるもの。
キリスト教の魅力(の一部)はおそらくこういうところにあり、
またいろいろなかたちで人間の理解や現実を超えたものを歌う
ロマン派の詩も同様と思われる。
* * *
英文テクストは、The Poems of Sir Walter Raleigh (1814)
<http://archive.org/details/poemsofsirwalter00rale>
をベースに、そこの注や、BrooksーDavies, ed. Silver Poets of
the Sixteenth Century (1994) を参考に編集したもの。
* * *
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剽窃行為のないようにしてください。
(「まさに時間とはそのようなもの」)
まさに時間とはそのようなもの。わたしたちの若さとよろこびを、
わたしたちのもっているものすべてを、質にとって奪い、
かわりに老齢と死だけを与えてくれる。
そして、暗い、静かな墓に、
この世をさまよいつくしたわたしたちの
日々の物語を閉じこめる。
しかし、そんな土、墓、からだが滅びた塵から、
主がわたしを立ちあがらせてくれるはずだ。
* * *
Walter Raleigh
("Even such is Time")
Even such is Time, which takes in trust
Our youth, our joys, and all we have,
And pays us but with age and dust;
Who in the dark and silent grave,
When we have wandered all our ways,
Shuts up the story of our days.
But from which earth, and grave, and dust,
The Lord shall raise me up, I trust.
* * *
処刑前夜にローリが書いたとされる詩。
(それ以前に書いていたものを焼き直して。)
* * *
このような、ありえないことを強く信じる気持ち、
あるいは、それをあえて信じようという意志は、
なぜか感情に訴えるもの。
キリスト教の魅力(の一部)はおそらくこういうところにあり、
またいろいろなかたちで人間の理解や現実を超えたものを歌う
ロマン派の詩も同様と思われる。
* * *
英文テクストは、The Poems of Sir Walter Raleigh (1814)
<http://archive.org/details/poemsofsirwalter00rale>
をベースに、そこの注や、BrooksーDavies, ed. Silver Poets of
the Sixteenth Century (1994) を参考に編集したもの。
* * *
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de la Mare, "Winter"
ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956)
「冬」
雪と雲の陰のなか、
冷たい風が吹く。
甲高く、葉のない枝で、
燃えるような胸をしたコマドリが、
ひとり、今、歌う。
光の筋を失った太陽が、
一日の旅を終え、
引き潮のような最後の光を投げかける、
遠くまで広がるきれいな野原に、
白く、別世界のような。
闇が濃く集まり、
ひとつひとつ、火花を散らしながら、
霜の炎に火をつける。そして、すぐ、
この白く凍える泡の海の上に
白い月が浮かぶ。
* * *
Walter de la Mare
"Winter"
Clouded with snow
The cold winds blow,
And shrill on leafless bough
The robin with its burning breast
Alone sings now.
The rayless sun,
Day's journey done,
Sheds its last ebbing light
On fields in leagues of beauty spread
Unearthly white.
Thick draws the dark,
And spark by spark,
The frost-fires kindle, and soon
Over that sea of frozen foam
Floats the white moon.
* * *
4
コマドリの胸は赤い。
8 ebbing
第3スタンザの「野原=海」の比喩はここからはじまっている。
12-13
夜の闇のなか、霜が光るようすを、火花や火にたとえて。
14 sea of frozen foam
霜の降りた野原のこと。
* * *
英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031
* * *
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「冬」
雪と雲の陰のなか、
冷たい風が吹く。
甲高く、葉のない枝で、
燃えるような胸をしたコマドリが、
ひとり、今、歌う。
光の筋を失った太陽が、
一日の旅を終え、
引き潮のような最後の光を投げかける、
遠くまで広がるきれいな野原に、
白く、別世界のような。
闇が濃く集まり、
ひとつひとつ、火花を散らしながら、
霜の炎に火をつける。そして、すぐ、
この白く凍える泡の海の上に
白い月が浮かぶ。
* * *
Walter de la Mare
"Winter"
Clouded with snow
The cold winds blow,
And shrill on leafless bough
The robin with its burning breast
Alone sings now.
The rayless sun,
Day's journey done,
Sheds its last ebbing light
On fields in leagues of beauty spread
Unearthly white.
Thick draws the dark,
And spark by spark,
The frost-fires kindle, and soon
Over that sea of frozen foam
Floats the white moon.
* * *
4
コマドリの胸は赤い。
8 ebbing
第3スタンザの「野原=海」の比喩はここからはじまっている。
12-13
夜の闇のなか、霜が光るようすを、火花や火にたとえて。
14 sea of frozen foam
霜の降りた野原のこと。
* * *
英文テクストは、Collected Poems 1901-1918
in Two Volumes, Vol. 1 より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/12031
* * *
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