呼吸器外科などという科目があるのかどうか知らない。しかし、競走馬の診療の中では「のど鳴り」は避けて通れない。
呼吸器の能力は競走タイムに直結するという研究報告もある。すなわち競走馬は呼吸器系の能力を最大限使っており、それが妨げられると競走能力が落ちてしまう。そこで手術でなんとかできる可能性のある「のど鳴り」は何とかしようということなる。
右上の写真は、喉の手術を行っている者には衝撃と納得を与えた。昨年のAAEPで発表されたのだが、喉頭形成手術の後もパフォーマンスが良くない馬に、左の披裂軟骨以外の部分の虚脱が認められたという写真。
左の披裂軟骨は手術により開いた状態で固定されているのに、右の披裂喉頭蓋飛皺襞と左の声帯が虚脱している。
Tiebackがうまくいっているのにパフォーマンスが改善されない症例については納得できる理由を。声嚢・声帯切除はのど鳴りの音は変えても、パフォーマンスは改善しないと考えていた者には驚きを与えた。
こういうことを防ぐためには、喉頭形成術 Tie back にあわせて声嚢摘出や声帯切除 cordectomy も行ったほうが良いということになる。
私の尊敬するケンタッキーの馬外科医は、「Tie backの成功率は50%だ。それ以上の成功率を報告している者もいるが、そんなことはない。」と言っていた。たいへん率直で正直な意見だ。
彼は1年に一度、喉の手術のために呼ばれて日本へやって来る。昨年12月に来たときも、このAAEPでの報告の話をしたら、Tie backにあわせて声嚢・声帯切除をしていった。
私も今日からTie back 3連チャン。そして来週にもう1頭。少しでも100%に近づけるよう秘術を尽くそう。秘術・新兵器についてはまた今度。
新生仔低酸素虚血性脳脊髄症(この病名は普及しないかも。NMS;新生仔不適応症候群の方が言い易いから。)の子馬は退院して行った。 もう戻ってくるなよ!
帝王切開した母馬も退院して行った。
腹膜炎の育成馬は状態悪化し、安楽死することになった。
life and death.
合掌。
私も1歳では基本的にTie backは勧めていません。調教、競走できるところまで辛抱して、それからかなと思います。しかし、それまで待っていられない状況の馬では行っています。
JRAの調査でも大型の牡馬に喉頭片麻痺は多いそうです。難しい問題ですね。