馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

Tie back and Cordectomy

2006-03-08 | 呼吸器外科

Photo_14   呼吸器外科などという科目があるのかどうか知らない。しかし、競走馬の診療の中では「のど鳴り」は避けて通れない。

呼吸器の能力は競走タイムに直結するという研究報告もある。すなわち競走馬は呼吸器系の能力を最大限使っており、それが妨げられると競走能力が落ちてしまう。そこで手術でなんとかできる可能性のある「のど鳴り」は何とかしようということなる。

右上の写真は、喉の手術を行っている者には衝撃と納得を与えた。昨年のAAEPで発表されたのだが、喉頭形成手術の後もパフォーマンスが良くない馬に、左の披裂軟骨以外の部分の虚脱が認められたという写真。

左の披裂軟骨は手術により開いた状態で固定されているのに、右の披裂喉頭蓋飛皺襞と左の声帯が虚脱している。

Tiebackがうまくいっているのにパフォーマンスが改善されない症例については納得できる理由を。声嚢・声帯切除はのど鳴りの音は変えても、パフォーマンスは改善しないと考えていた者には驚きを与えた。

こういうことを防ぐためには、喉頭形成術 Tie back にあわせて声嚢摘出や声帯切除 cordectomy も行ったほうが良いということになる。

私の尊敬するケンタッキーの馬外科医は、「Tie backの成功率は50%だ。それ以上の成功率を報告している者もいるが、そんなことはない。」と言っていた。たいへん率直で正直な意見だ。

彼は1年に一度、喉の手術のために呼ばれて日本へやって来る。昨年12月に来たときも、このAAEPでの報告の話をしたら、Tie backにあわせて声嚢・声帯切除をしていった。

私も今日からTie back 3連チャン。そして来週にもう1頭。少しでも100%に近づけるよう秘術を尽くそう。秘術・新兵器についてはまた今度。

P3020005 新生仔低酸素虚血性脳脊髄症(この病名は普及しないかも。NMS;新生仔不適応症候群の方が言い易いから。)の子馬は退院して行った。 もう戻ってくるなよ!

帝王切開した母馬も退院して行った。

腹膜炎の育成馬は状態悪化し、安楽死することになった。

life and death.

合掌。


2 コメント

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昨年馴致始めたらいきなり喉なりでした。手術しよ... (ペペ)
2006-03-09 06:35:09
昨年馴致始めたらいきなり喉なりでした。手術しようとしましたが、北海道の獣医さんにまだ1歳の12月では早いといわれました。そういうものなんでしょうか?今月か来月に手術するつもりなので、先のAAEPの報告をふまえ手術方法も聞いてみたいと思います。大きい馬って本当に喉なりになりますね。
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>ぺぺさん (hig)
2006-03-09 21:10:56
>ぺぺさん
私も1歳では基本的にTie backは勧めていません。調教、競走できるところまで辛抱して、それからかなと思います。しかし、それまで待っていられない状況の馬では行っています。
JRAの調査でも大型の牡馬に喉頭片麻痺は多いそうです。難しい問題ですね。
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