獣医さんの聴診器は特別な力があると思われているところがある。
しかし、体の中の音を聞きやすくしているだけのものだし、買おうと思えば誰でも買える。
もう20年以上使っている私の聴診器(右)。
失くしたり、壊したりしやすいものだが、大事に使うならチョッと良いものを使ったほうが良いだろう。
疝痛馬では蠕動音がうんぬんされることも多い。
基本的なことなのだが、実はどんな音が腸のどの部分のどんな音なのかキチンと調べた成績はない。
馬の疝痛の名著「The Equine Acute Abdomen」には、
急性腹症の診断と予後判定の章に聴診の項があり、
・正常馬では1分間に2-4回の撹拌音(mixing sounds)と、2-4分に1回の推送音(progressive sounds)が聴こえる。
・ほとんどの疝痛症例では推送音が減弱し、重症の消化管疾患(絞扼、あるいは非絞扼性梗塞)ではすべての音が聞こえなくなっている。
と書かれている。
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2006年になって、馬の蠕動音の聴診について研究が報告されている。
The effects of feeding and fasting on gastrointestinal sounds in adult horses.
成馬において給餌と絶食が胃腸音へ与える影響
J. Vet. Internal Med. 2006, 20, 1408-1418.
・絶食すると撹拌音も推送音も減弱し、再給餌すると明らかに増加する。
・馬の状況を教えられていない被験者は、撹拌音の増加に気づかなかった。
・左側背方1/4は絶食中も再給餌後も他の部位に比べて静かだった。
・右側腹方と右側中央は他の部位よりも音が盛んに聴こえた。
・腸管音の回数の聞き取りには聴診者による差が相当ある。
などのことが示されている。
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文永堂の獣医内科学の教科書には「馬の疝痛」の章に
「聴診によっても蠕動が聴取できないのは、腸管運動の減弱を意味する。聴診音から腸管の部位を判別することは難しいことが多い。右膁部での回盲部の通過音の聴取は最も重要で、ガスのある盲腸底へ液状物が流れ込む間欠的な有響音が聴取できれば、閉塞多発部位である回盲部の通過を推察できる。」
と記載されている。
書いたのは勉強熱心で臨床経験豊富な獣医師なのだろう・・・・(笑)。
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腹部の聴診は最終肋骨に沿って、尾側上(背)方から頭側下(腹)方へ聴診していくことが推奨されている。
図はSchmaltzの解剖の本から。
左から第18胸椎、
第2腰椎、
第5腰椎部での断面。
聴診部位では腹腔のほとんどを結腸・盲腸が占め、
しかも腹壁に密着しているので、聴診音は盲・結腸の音がほとんどだということが解剖構造からも想像できる。
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しかし、この横断面の解剖図。
どこがどの部位かわかりますか?
獣医科学生だったころ、超音波診断装置の画像を見て、断面図だというのがなかなか理解できなかった。
CTやMRIがあっても診る目がなければ役に立たないのかもしれない。
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道の向こう、霧の中には馬がいる。
しかし、真っ直ぐには進めない。
右か左か。
日本かUSAか。
いずれにしても、馬の獣医師への道は広くて楽な道ではないかもしれない。
良く考えて、決めるのも、努力するのも、その結果を引き受けるのも、自分だ。
バイノーラルとお見受けいたしますが、チューブが短くて困ったことはございませんか?
私は以前聴診器を変えたときに耳が持っていかれました!
もう少しチューブの長い聴診器が欲しいですが、聴診器を変えると音が変わるので気軽にできないです。
機材の年季こそ腕の証かと。
最後の写真珍しい?道路標識ですね。
一本道で霧がかかると北海道では丁字路はぶっちぎってしまうのですね。。
馬の聴診ができるというのも獣医師にとって普遍的な能力の一つであるべきなのでしょうけれども、それが特殊能力であるとするなら何とも寂しいです。
耳を澄ませば聞こえると誰かが詠んでいたような気がしますがこれは聴診ではないですね(笑)
人用聴診器ですからチューブは短いですね。海外には大動物用にチューブの長いものがあったと思いますが、今でも手に入るかどうか。
人の聴診器が使いにくいのは実は耳の角度かなと思っています。脇の下へ入れて使うときには先が薄いものの方が良いですね。
最新の文献の結論は、「人の聴診はあてにならない。機械で記録して分析した方が良い。」です(笑)。
機械で測れない所を人間が察知出来る事はある意味大事な事もあると感じます。
記録も参考にして、でも見た目も大事な事だと理解して双方を大事にして診断できる事が結構大事だと思います。
動物を触った事の無い獣医さんが増えてきている学校で、データーはすごくよく読める人は多いです。目の前の動物も診ましょうよと思います(*^_^*)
患畜をよく観ることや、飼い主の話をよく聞くことの重要性はときどき思い知らされます。
客観的なデータ化できる所見も、目と手と聴診器でできる診断もたいせつですね。
私も実は疝痛の診断で一番あてにしているのは痛みの強さと持続です。