左の肩甲骨の上の筋肉、棘上筋と棘下筋がすっかり萎縮してしまった。
肩跛行が続いていると、肩の筋肉を使わないので肩まわりの筋肉がおちてしまう(筋肉の量が減る)。
しかし、このようにはっきり限られた筋肉だけが萎縮するのは、この筋肉を支配する神経が損傷を受けて働かなくなったためだと思われる。
肩甲上神経は、脇から肩甲骨の前を回って、棘上筋と棘下筋を支配している(右)
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図は Rooney 先生の「馬の跛行」から。
JRAが出版した非売品書籍だが素晴らし い本だ。
古い本で今では間違いだと思われる記述もあるが、馬の体の構造と機能、そして障害が起こるしくみについての基本がやさしく解説されている。
一度は読んでおいた方が良い本だと思う。
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肩甲上神経麻痺は、肩甲骨の前への動きで肩甲上神経が当たると言うか、伸ばされると言うか、ダメージを受けて肩甲神経麻痺を起こす症例があると考えられていて、そのような場合には肩甲骨の一部分を削って神経を圧迫しないようにする手術が報告されている。
しかし、実際にはそのような症例はほとんどないのではと考えている。
肩甲神経をいためるのは馬同士がぶつかるとか、肢が後へ滑って神経を伸ばしてしまうとか、突発事故が多いのではないだろうか・・・・・・
上の馬も、見ている前で馬同士ぶつかったらしい。
神経がダメージを受けて麻痺しただけなら徐々に回復し、それに伴って筋肉も復活するかもしれない。
神経がブッツリ切れてしまっていたら、つながることは期待できないか、回復するのを期待するには時間がかかりすぎるかもしれない。
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かつて Equine Veterinary Education の Clinical Quiz に載った写真。
何でしょう?
出題者の答えは、肩甲上神経麻痺。
馬は肩甲上神経を傷めることがあって、その場合、支配されている棘上筋と棘下筋が萎縮する。治療方法として肩甲骨を削る手術もある、云々。と解説されていた。
ところが!
数号後の刊に、異論が載った。
この馬の写真では、棘上筋と棘下筋だけではなく、上腕三頭筋も萎縮している。
肩甲神経だけの損傷ではこうはならないので、この馬は橈骨神経(上腕三頭筋や橈側手根伸筋ほかを支配している)も損傷を受けたと思われる。
そして、だから、肩甲骨を削る手術の適応ではない。
どこが痺れているとか言ってくれない動物の場合、神経麻痺の診断はたいへん難しい。
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橈側神経麻痺についてはまた今度。
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とある山でへとへとになるまで「正月休み」して来た。
あんなに運動したのになんで体重減らないんだろ?
あんなに激しい運動をしたのに頚の調子が良くなったのはなぜだろう?
今日から仕事はじめました。
本年もよろしくお願い申し上げます。
Hig先生の持病は安静より運動でリフレッシュ&ストレッチが特効とお見受けします。
何れにしましてもご健勝のほど祈念いたしております。
ご紹介の「馬の跛行」巡り巡って何故か手許にあります。。
私が生まれた頃の発行です。
それにも拘らず勉強不足で恐縮ですが、神経の再生により機能回復が期待できる症例が存在するようでしたら、神経幹細胞の移植等は積極的な治療方法としての選択肢になりえるのでしょうか。
アスリートの生物である馬において注目されていく予感もしますが、如何なものでしょうか。
しかしながら号を追って誌上討論がなされるとは日本ではあまり見られない読者の熱さを感じさせます。
今年もよろしくお願いします。
もう手に入らない本ですから、手元にある人はラッキーだと思います。私は、実習に来た学生にはこの本を読むことを勧めています。
万能細胞、幹細胞移植は具体的な方法の開発が急がれているようですね。しかし、末梢神経や靭帯・腱は難しい組織なのかもしれません。血管が少なく、再生しづらい組織で、なおかつ機能があまりに特殊ですから。
日本ではマイナーですが、海外では馬獣医学のサークルは小さいものではありませんね。熱さ、厚さもまた然りです。
運動して調子がよくなられるというのは、相当お若いのでは(大変失礼いたしました、ただ、最近観た劇で「大人は休み時間休む、子供は休み時間遊ぶ。」という一節があったことを思い出しまして、、)
かつて肩甲上神経麻痺と診断した乗馬が一頭いました。
最初、右前がよくつまずく、常歩でも段差で右前が挙がりにくくよくひっかかる、という禀告でやってきましたが、正面から見てわかるほど、右肩の棘上筋と棘下筋が明らかに左に比べて落ちていました。いつから跛行?と聞くと「前からゴトゴトで乗っていた。」ということでした。
ビタミンB1,6,12の注射や電気針を試してみましたが、残念ながらあまりはかばかしい回復は見られなかったです。手術は(私もルーニー先生の本で知りましたが)経験不足で提案出来ませんでした。
その馬はまた、前脚の蹄が極端な不同蹄で、右がかなり小さかったです。もしかしたらかなり以前(成長期?)から、麻痺があって、それで右前の蹄が小さくなったのかもしれない、とも思いました。
もしそうならば、それまでは低い小障害の試合くらいは飛んでいたので、もしかすると装蹄や運動で負担を減らすように工夫できたのかもしれません(?)
トウ骨神経麻痺(トウ側?でしょうか?)の記事、ドキドキしながら楽しみにしております。
今年もよろしくお願いします。確かに、遊ぶ気力体力がなくなるというのは歳とったということなのでしょう。
肩甲上神経の麻痺で棘上筋・棘下筋が萎縮してもあまりひどい跛行にはならないようですね。患肢の蹄が小さくなるのはよくあるので、その馬は長期の「肩」跛行だったのでしょう。
橈骨神経麻痺の記事アップしました。