真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 引き剥がせ」(1993『新痴漢電車 指師で開きます!』の2013年旧作改題版/企画:セメントマッチ/制作:オフィスバロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:切通理作・五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重/監督助手:梶野考・広瀬寛巳/撮影助手:小山田勝治/照明助手:江口和人/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:木戸原留美・しのざきさとみ・井上あんり・杉原みさお・扇まや・杉本まこと・山本竜二・神戸顕一・池島ゆたか・山ノ手ぐり子・的場研磨・林田義行・太田始・真央元・佐々木恭輔、他・小林一三)。出演者中、山ノ手ぐり子から佐々木恭輔、他までは本篇クレジットのみ。
 電車を抜いてタイトル・イン、女子大生の笹井奈津子(木戸原)が、山本竜二の電車痴漢に苦悶する。電車カットを二つ挿んで再び車中、異常に本格的に出来てゐる、架空の特撮番組「ウルトラマイティ」の放映リストに目を落とす今村文人(小林一三=樹かず/現:樹カズ)が、女A(井上)に痴漢する。奈津子とは対照的に、井上あんりは満更でもない御様子。我々は痴漢するに際しても、二枚目と差別されなければならないのか。今村が作成した「ウルトラマイティ」のリストを、依頼した編集者の田中(神戸)が褒める。今村と奈津子は交際関係にあり、立ち居地が絶妙に不鮮明な今村は公務員試験に合格し、奈津子は明確に結婚を見据ゑてゐた。とはいへ、今村は田中から勧められたライターへの道に心が揺らぎ、そもそも、交際も五年になるといふのに今村が手を出して来ないゆゑ、未だ処女の奈津子は劇中終始白衣で通す先輩女史(山ノ手)に相談する。
 配役残り、裸映画に於いて裸も映画も支配するしのざきさとみは、ベランダで致してゐるところを奈津子に目撃される、今村の隣人・京子。池島ゆたかが、そのお相手・池田康男、旦那なのかそれ以外なのかは語られない。扇まやは、今村が痴漢する女B。登場順からすると、乗客部隊を除けばこの人まで山ノ手ぐり子(=五代響子/現:五代暁子)よりも先の杉本まことは、福祉関係の学部に通ふ奈津子がボランティアでお世話する、足を骨折した入院患者・加藤。どちらでオトすのか注目した奈津子と加藤の一戦は、奈津子の―電―車中の夢オチ。山ノ手センパイの示唆から飛び込んで来るタイミングが超絶に完璧な杉原みさおは、今村が痴漢する女C。何気に、今村はディスコミュニケーションが服を着たオタクの癖に彼女はゐるは痴漢で狙ふ女はアシッドな女ばかりだと、高いのか低いのかよく判らない対異性スペックを誇る。的場研磨以降佐々木恭輔、他までは、男女込み込みで潤沢な乗客要員、但し太田始しか確認出来なかつた。見るからに変名臭的場研磨が、誰あるいは何者を指すのかは不明。
 池島ゆたか1993年第四作―薔薇族入れると第五作―は、今村のモラトリアムを元凶に、袋小路に陥つた若き二人をイイ感じに捌けた大人達が時にさりげなく時に無造作に時に力技でサポートする、案外綺麗な青春映画。共同脚本に切通理作を迎へたのが当然功を奏したのであらう、今村のオタク造形の充実にも、目を見張るものがある。唯一ないし最大の疑問は、純然たる枝葉の山竜と奈津子は頑なに回避する今村の性欲の―しかも双方向になることは拒む―発散として以外には、電車痴漢が始終の帰結に一切関らない点。確かにいい映画なんだけど、痴漢電車である必要は別にないよな。と、呆れかけるのは早とちり。成長し安定した今村の姿を、強引に痴漢電車に捻じ込むラストには感心しかけたが、それでもなほ早とちり。今村にオタク文化への未練を滲ませる、人目も憚らず少女マンガを読み耽るデブに満を持して高田宝重を投入するオーラスには、杉原みさお登場時を上回る鮮やかなインパクトに度肝を抜かれた。骨組みのしつかりした物語を、杉原みさおと高田宝重、二人の飛び道具が更に頑丈に補強する痴漢電車の佳品。贅沢をいふと、ぎこちない美少女の木戸原留美がもう少し手放しで可愛ければ、御当人含めもう少し人々の記憶なり歴史にも残り得たのかも知れないのに。

 付記< 後々判明した的場研磨の正体は、高田宝重の変名


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