真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「私の後家さん 濡れ上手」(1998『隣の後家さん ハメられ志願』の2007年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:坂本太/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/撮影助手:周富良/照明:野田友行/助監督:羽生研司・三輪隆/製作担当:真弓学/メイク:大塚春江/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》/効果:東京スクリーンサービス/出演:小泉硝子・中村京子・扇まや・村上ゆう・杉本まこと・山本清彦・白都翔一・前川勝典)。照明助手に力尽きる。
 線路沿ひの道路、閑古鳥の鳴くおでん屋台。女主人の五代夏美(小泉)が「花の命は短くて」、「苦しきことのみ多かりき」と気障に黄昏ながらも、「ま、いいか」と気を取り直したところでタイトル・イン。
 タイトル明け、最低でも二ヶ月の米国出張に旅立つ夫・松岡益男(杉本)を、妻の千春(村上)が寝かせない夫婦生活。小出しされる情報をそのままに先に進むと、居間では何故かテントを張り生活する夏美が、閉口しつつもついついアテられ自慰に耽る。翌朝、千春は出戻りの妹に邪険にする一方、出がけの益男はトボトボ屋台を引く夏美に、矢張り後家でもある経営コンサルタント・黒田春子の名刺を渡す。そんなこんなで、こちらも後家の石川理絵子(中村)の迫力ある野菜オナニーと、室内から室内を捉へるにも関らず簾越しに抜く画に坂本太の頑強な嗜好が感じられる、春子(扇)と情夫・平林潤造(前川)の情事が重量級の同時進行、然し濃い面子だ。他方借金取り・友坂利夫(白都)の望まぬ来訪を受けた夏美は、振れぬ袖の代りにホテルにでも入るのかと思ひきや、致すのが松岡家居間のテントの中である無造作には驚いた、千春は何処に行つた。兎も角訪ねて来た夏美に、春子は大明後日指南。ロケーションの詳細がよく見えないが、屋台をガレージのやうな空間に引き込むと、後方には更に何故かライトバン。最初の客として現れた平林は、おでんを注文することもなく―劇中おでんを食するのは、結局仕込み途中の夏美本人のみ―ライトバンの車中で、そもそも何故か何故かセーラ服姿の夏美と先生と生徒設定の上で事に及ぶ。山本清彦は、屋台と称した要は売春窟の客要員・小田俊平。車中で女を抱く男達が勢ひ余つて天井に頭を派手にぶつけるのは、演出なのかリアルなのかが絶妙に判らない。
 歴戦のアルチザン・坂本太の1998年第一作を改めて整理すると、亡夫の遺した借金とおでん屋台を抱へ姉夫婦宅に居候する若後家。などといふ闇雲な設定のヒロインが、義兄に紹介された経営コンサルタントの薮蛇な勧めに思ひのほかおとなしく従ひ、コスプレおさはり屋台―と劇中では称されるが、正確にはコスプレ本番屋台である―を大絶賛違法開業する。ただでさへあちこち飛躍の大きな物語が、しかもさしてエクスキューズに心を配るでもなく水の低きに流れるが如く進行して行く展開には、裸映画としては全く順風満帆の反面、素といふ意味での裸の劇映画としてマトモに取り合はうとすると、大胆過ぎる省略に清々しさにも似た眩暈を覚えなくもない。コスプレ屋台には春子に続き、第三の後家・理絵子も満足なイントロダクションすらスッ飛ばし平然と参戦。濡れ場の連打はそれはそれとして充実してゐるものの、如何せんマッタリともたれて来ないでもない頃合を見計らひ、ここは欲求不満の伏線もひとまづ十全に敷設済みの、千春をも引き込む終盤の盛り上がりは、それなりには手堅い。但し、そこからまさかの夏美V.S.益男戦を叩き込み、予想外の結末に落とし込まうとする力技は流石に苦しい。夏美は亡き夫からの解放と、益男は千春の変貌。双方の思惑が―春子も利用した計画の末に―目出度く叶つたとかいふ着地点は、映画的な流れを狙つた節は酌めぬではないが、それまでに夏美と益男との間には、世間話程度の遣り取りしか設けられてはゐない以上、ちぐはぐさは甚だしく、木に竹を接ぐにもほどがある。とまれ最終的には、さうかう野暮を言ひ募るのも、勃たなくなつてからでいいではないか。兎にも角にも銀幕に花咲く、微かにシャクレてもゐる顎はさて措き、本当に透き通りさうな小泉硝子のキュートな魅力が素晴らしい。現時点で“小泉硝子”でグーグル検索を仕掛けてみると、現存する硝子製作所ばかりが出て来てまるで要領を得ない辺りも御愛嬌。中村京子と扇まやが二枚並ぶと些かならずクドさも感じさせつつ、小泉硝子と、訳アリ過積載の妹に意地悪く接する姉に扮した村上ゆうとの丁々発止は、裸抜きのシークエンスであつてもキラキラと輝く。後述する、「痴漢電車 指いぢめ」に於いては川口真湖と桃井桜子の組み合はせで同様に送られる、かういふ素直な可愛らしさは案外、坂本太が陽性映画を撮る際の、何気に隠れた決戦兵器でもあるのではないか。バンの中にまで三方に吊つてみせる、坂本太の簾―あるいは時に蚊帳―への偏愛も微笑ましく、決定力を有した主演女優に恵まれた如何にもらしいエロ映画のポップ・チューンを、軽やかに楽しむのが吉といふべきなのであらう。
 ところで新旧題、後家と後段は判るが“隣”だの“私”だのと、一体誰の視点なのか。

 詳細は不明なれど、今作を小倉にて観戦した二日後の六月十九日、ツイッター上で坂本太監督の訃報―亡くなつたのは前日―に触れ愕然とする。享年五十歳、関係者の方々にとつても急な話であつたやうだ。僅かに観た範囲内ではあるが、坂本太作といふと正調娯楽映画の名に値しよう傑作痴漢電車「痴漢電車 指いぢめ」(1996/脚本:佐々木乃武良/主演:川口真湖)や、与太ではなく吉田祐健がウォーレン・オーツを髣髴とさせる、ピンク版「ガルシアの首」こと「マル秘性犯罪 女銀行員集団レイプ」(1999/主演:平沙織)が特に印象深い。生前の偉大かつ膨大な戦績を偲び、謹んで哀悼の意を表するものである。


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