真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫ごつこ 淫らに燃えた妻<オンナ>たち」(昭和63『人妻不倫願望』の2008年旧作改題版/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志/照明:佐藤幸郎/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:柴原光・毛利安孝/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:舞坂ゆい・日高優・結城れい子・荒木太郎・池島ゆたか・直平誠・日比野達郎)。(今回)新版ポスターでは、脚本が山邦紀・・・・あれ?
 正直、二十年後の現在の目からは甘酸つぱい思ひも禁じ得ない、光線式のコンバット・ゲームに興じる麻木子(舞坂)・俊介(池島)の荒牧夫妻と、ちづる(結城)・幹男(直平)の芹川夫妻。ところが四人は入り乱れがてら次第にそれぞれの配偶者の目を盗んでは、いはゆるW不倫の上を行くクロスカウンター不倫、あるいは結果論的スワッピングを展開する。芹川と戯れる麻木子の姿に、草むらの中に潜んだ大学生の芳起(荒木)が熱い視線を注ぐ。芳起は、アルバイトする個人スーパー「ジャンプ」を訪れる専業主婦の麻木子に、熱烈もストーカー気味に通り越した愛慕を注いでゐた。ジャンプ店内に見切れる、芳起同僚の矢張り同年代の若い男は、誰なのか全く不明。定石からいふと、柴原光か毛利安孝か。芳起はOLの姉(日高)と二人暮らし、ここで話を反らすが、正直なところ、日高優と結城れい子の配役に関しては、ビリングからの完全なる推定である、手も足も出せなかつた。話戻して、仕事に疲れた姉―固有名詞は呼称されないゆゑ不明―は風呂上りに芳起の前で肌も隠さず、その日も連れ込んだ恋人(日比野)と、隣室には芳起もゐるといふのに激しい情事に耽つた。そんな姉の姿に反発を覚える芳起は、潤ひに欠いたキャリア・ウーマンに対し激しい憎悪を燃やし、返す刀で、専業主婦への偏愛を更に一層募らせる。一方姉は、内向的で抱へ込んだ屈折を静かに、然し確実に強く醸成させる弟を心配してもゐた。専業主婦を徒に崇拝視すらする芳起は、芹川との間に働いた不貞に正義だか性義の鉄槌を下すべく、終に麻木子を拉致する。
 浜野佐知の映画だからといつて、夫と夫の親友を共々相手に、自由奔放に性の快楽を謳歌する麻木子が主人公かと決めつけてしまふのは、誤つた先入観。舞坂ゆいと日高優の―多分結城れい子の、出番は明確に少ない―攻撃的な濡れ場の合間合間を、未だ若い、のか今とあまり変らないのかに関しては大いに議論も分かれさうな荒木太郎が、ウジウジしながらフラフラするばかりの展開は、本筋が一向に見えず、中弛むといへば確かに中弛む。オッパイの大きな舞坂ゆいの首から上は品がなく、美人の結城れい子はオッパイが寂しい。対照的に二物を与えぬ、天の残酷さも心憎い。ところが、捕らへられた麻木子が額面通り意外な真実を芳起に明かしてからが、列車がトンネルを抜けるが如く、晴れ晴れとした結末へと向け映画が俄かに快調に走り出す。昨今の頑強な浜野佐知の姿からは意外にも思へるが、今作は実は芳起を主役に据ゑた、青年から大人へと至る過程をテーマとした、ど直球の成長物語なのであつた。悪意のみを以て眺めるならば手の平返した転向といへなくもないが、歪み、自閉した偏向が補正され芳起の世界が開けて行く中で、弟を案じる姉の視点は健全さの象徴として有効に機能し、大人になつた芳起を迎へ入れる、麻木子・荒牧・ちづる・芹川の四人も、殆ど戯画的なまでに頼もしく描かれる。宴席に招かれたものの、依然所在なさげな芳起に対し、芹川と荒牧がわざわざ二度に分けてそれぞれ乾杯を促すシークエンスの意図は、直後のイメージ風食事ショットに於いて、他の四人と同じく旺盛に料理を口に運ぶ、成長した芳起の姿へと帰結する。狙ひ通りの形になつた映画といふのは、実に清々しい。役者荒木太郎天性の変態性を武器に、溜めに溜め込んだ閉塞感を、模範的に鮮やかな起承転結の転で抜くと、一息に畳み込んで磐石に幕を引く。時代の流れの中に埋もれがちなエロ映画に一見見えなくもないが、何気に完璧な構成に支へられた、ストレートな青春映画の良作である。

 門外漢なもので短いカットから車種までは判別しかねるが、今作では、荒木太郎が中型の単車を運転するのが見られる。さういふ姿に、これまで見覚えはなかつた。ところで、旧題は本篇に軽やかに似(そぐ)はず、新題は新題でさりげなくプロットを割つてゐる。


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