真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「悶絶!快感ONANIE」(1991/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:鈴木敬晴/撮影:稲吉雅志・小山田勝治/照明:清野俊博・南園智男/助監督:森本英紀/編集:酒井正次/音楽:やじろべえ/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/制作:秋月康/出演:南野千夏・伊藤舞・下元史朗・杉浦峰夫・伊藤清美)。出演者中伊藤清美が、VHSジャケには伊藤晴美、自由奔放な世界だ。
 後々襖に描かれたものであると判明する、ヌルい地獄絵に赤い照明が揺らぐ。ボンデージで締め上げられた乳と股間を、主演女優の悲鳴が追つて二十秒そこらの手短なタイトル・イン。改めて普通の色調でシャワーを浴びる南野千夏に俳優部クレジット起動、一転再び赤々しい伊藤舞の体と体を洗ふ伊藤清美の手元のクローズアップに、スタッフが続く。地獄絵で知られる日本画の大家・葦田が再婚、葦田家に入つて十五年のメイド・岸本小夜(漢字は大体推定/伊藤清美)と、葦田の娘・絵美(伊藤舞)がイントロダクションがてら“新しい奥様”森田霞(南野)に関する会話を交す。特注の花嫁衣装と称して、霞にボンデージが贈られるジャブを放つた上で、小夜が平静さを失はない一方、絵美は父親に対する独占欲込み込みで財産目当てと新しく家に入る後妻に悪態をつく。この件、果たして狙つたのか不作為が生んだ瓢箪から駒か、フェードアウトした―筈の―南野千夏が舞と清美のダブル伊藤の画に、ウッスラ残つてゐるのがまるで心霊写真の趣。画家としての限界に慄く葦田(下元)の姿挿んで、霞を一見使用人かと思ひきや、後に書生的なこの人も画家である旨が明らかとなる山下(杉浦)が車で迎へに行く。その頃葦田邸では下元史朗と伊藤清美が、「何が欲しい?」、「旦那様の心」。「身を焼き尽くすぞ、地獄に堕ちて」、「いいのそれでも」だ云々と、マッタリ演技合戦。絡みに水を差す藪蛇なハレーションも姦しく、軽薄な耽美が形にならない序盤には、正直挫けさうになる。
 鈴木敬晴(ex.鈴木ハル)1991年第一作にして、敬晴名義第三作。葦田が霞を屋根裏的な創作部屋に入れての、新婚初夜風の営み。霞がボンデージの上からパンストを穿いてゐるのに激昂した葦田は、“充血した肉のエネルギーがお前の心を動かしてゐるのに過ぎない”にも関らず、“愛が肉を動かしてゐるのだと”錯覚してゐると難癖をつけ始めたのに続き、矢継ぎ早に“肉は精神と分離して初めて壮絶な美となり得る”、“充血した肉のエネルギーのみに興味”があると御高説。美肉がボンデージに締め上げられるSEが、縄が軋む音にしか聞こえない間抜けな音効もある意味側面支援に、先には「人妻 口いつぱいの欲情」(1989/鈴木ハル名義/主演:川奈忍)、後には「現代猟奇事件 痴情」(1992/主演:浅野桃里)と、コッテコテな、あるいは穏当な如何にも量産型娯楽映画らしい量産型娯楽映画も撮る傍ら、鈴木敬晴が時に派手に仕出かす観念論ピンクが壮絶に幕を開いた日には、挫けるのも通り越し頭を抱へ、かけた。ところが伊藤舞がエクストリームに火蓋を切り、残りの二人も追随する看板を偽らないハードオナニーを豪快な噴射剤に、よくよく考へてみればよくある落とし処にも思へ、裸映画的にも派手に拡げた風呂敷を、下元史朗の役者力も借り予想外の結末に落とし込む最終盤には綺麗なカタルシスに心洗はれた。最終的に、折角葦田が見事に畳んでみせたのに、南野千夏の覚束ないモノローグで失速するオーラスについては、蛇に足を描いた御愛嬌とでもいふことにしてしまへ。

 大事な一幕を忘れてた、劇中葦田が常用する、巨峰か何か大きな葡萄。小夜は「愛してゐるなら受け容れられる」と、霞の蛤に旦那様の好物を詰め込む葡萄責めを敢行。当然じたばた抵抗する霞に対し、伊藤清美がサラッと撃ち抜く超絶の名台詞が「そんなに力んだら愛が潰れちやふ」、これには痺れた。


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