真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「おマタせ!ピザ宅配 特注!スペルマトッピング」(1992/受審:新東宝ビデオ株式会社/監督:浜野佐知、の筈/出演:柴田はるか・栗原良・平本一穂)。
 間違つても美味しさうには見えないピザをカメラが舐め、往来をラッキーピザの配達員(柴田)が、小走りで配達する無造作か原初的なファンタジー。斯くも呑気なピザ屋見たことない、昭和の出前でもチャリンコに岡持ちくらゐ積むぞ。さて措き配達員の固有名詞は劇中呼称されないゆゑ、便宜上、以下ハーセルフの仮名で通す。はるかがミニスカで歩道橋を上がるロー・アングルと、案外斬新なのかも知れないピザの女体盛り、尺八を吹く様をピザの画とのカットバックで連ね、最後は改めてピザにタイトル・イン。タイトルも入れるのに、ピザをもう少し、旨さうに撮れないのかといふ釈然としなさは正直否めない。
 兎も角はるかが辿り着いた配達先が、並のAV部ではまづ撮らせて貰へまい、よもやまさかの東映化学(a.k.a.東映ラボ・テック)。但し、玄関左手の受付は無人。なる状況を、休日出勤した人が云々、はるかの滔々とした説明台詞で語らせる。ピザが不味さうなアバンに続き、てんで技巧を凝らさない導入にも苦笑―と疑問―を禁じ得ない。これ、山﨑邦紀の脚本なのかな。はるかがイマジンする、雷を落とすノーブロック店長役が覚えのない顔だが、もしかして森田一人?位置情報の詳細を頭に入れて来なかつた、はるかが勝手に中に入つて注文主である山田を捜してゐると、思ひきりカジュアルな管理人(栗原良/a.k.a.リョウ/a.k.a.ジョージ川崎/a.k.a.相原涼二)に呼び止められる。配役残り、一段落して登場する山田は平本一穂。東化の四階が、社員寮になつてゐるとかいふワンダーな設定。だからこれ、山﨑邦紀の脚本なのかな、如何せん逐一短絡的か即物的にすぎる気もしなくはない。
 手前味噌で恐縮だがjmdbのデータを別館が凌駕する、確定分だけで浜野佐知1992年第六作「《秘》性感逆ソープ」を皮切りに、同じく浜野佐知の1993年第八作「お姉さんのONANIE」(主演:国見真菜)と、今度は珠瑠美1994年第四作「過激!!同性愛撫 蜜の舌」。更に矢張り珠瑠美の1995年、第一作「痴漢電車 長襦袢を狙へ!」(主演:神代弓子《イブ》)・第二作「出張ONANIE 女課長の携帯バイブ」(主演:赤木佐智=赤木佐知)、そして第三作「人妻痴漢体験-まさぐる-」と、地味に驚愕のジェット・ストリーム・三作連続出演。何気に息も長く、最低六本はピンクに出てゐる―そのうち半分で主演―柴田はるかを擁したアダルトビデオ。なるほど没個性的なルックスが印象こそ薄い反面、口跡はまあまあ手堅い。底の抜けた、台詞しか宛がはれてゐない割に。ちなみに今作、アダルトビデオ通販サイトのARZONによると、発売日は92年の五月二十三日とされる。
 何れも実際に絡みが撮影されるのは旧旦々舎の、管理人はデリバリーを装つた窃盗事件、を口実にしての身体検査。山田も山田で、注文後三十分の制限時間をオーバーした埋め合はせに、「君の―オッ―パイも一緒に食べさせて」。創造性でチンコが勃つのかと開き直らんばかりの、各々清々しく類型的な方便ではるかに手をつける。女の主体性なんぞ正しく何処吹く風、管理人と山田にはるかが体よくヤラれた上、実はハゲ店長がはるかを売つてゐた無体でもあれ、人を食つたか小馬鹿にしたやうな他愛ないオチで締め括る。寧ろ、ミニマムな展開で首の皮一枚物語の体裁を整へると、平素のマシーンもといレイジ・アゲインスト・ザ・マンは一旦棚になほして、直情的な絡みをただひたすら直線的に叩き込み続ける。商業的な実用性に全てを賭けた、それはそれとして誠実な一作。AVにもAVなりの流儀があるのか、オノマトペを多用するほか、まるで脱力しきつた久須美欽一の如くへべれけに惰弱な貌を覗かせる。ピンクで見た覚えのない、栗原良初見のメソッドもそれはそれとして新鮮。単に、忘れてゐたに過ぎなくとも。柴田はるかの裸以外で最も琴線に触れたのが、はるかが山田も抜いた二段落ついたところで、白ブリーフ一丁の管理人が山田の部屋に、堂々とか極々平然と入つて来ては開口一番「君はピザの配達だけでなくて他に何を配達してゐるんだ?」。ど、どわはははは!他人の居住空間に下着一枚で現れる時点で既に大概な狼藉をも、栗原良の漲らせる徒な重厚感で頑丈か無理から固定。よしんば明後日か一昨日なシークエンスであつたとて、形にしてのける強靭な役者力に震へる。それにつ、けても。幾ら何でも底の抜けるどころか、尻子玉を抜く勢ひの超絶下らない言ひ草は、流石に山﨑邦紀の筆によるラインとは思ひ難い。これが、たとへば岡輝男辺りであつたなら逆に全くしつくり来るものの、当時の旦々舎と岡輝男に接点があつたのか、といふ以前に。目下確認可能な岡輝男のキャリアは、そもそも翌1993年以降である。


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