真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性感治療 股ぐらの処方箋」(2019/制作:映像集団マムス/提供:オーピー映画/監督・脚本:佐々木浩久/原作:滝川杏奴《日刊スポーツ連載》/撮影:鏡早智/録音:小南鈴之助・臼井勝/編集:大永昌弘/スチール:阿部真也・宮沢豪/特殊メイク:土肥良成/VFX:大木円盤/音楽:ゲイリー芦屋/助監督:島崎真人/監督助手:中田円凛/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/協力:上野オークラ劇場・若杉佳彦・鈴木隆人・菊沢天太・井坂雄哉・ボランティアエキストラの皆さま/出演:早川瑞希・西村ニーナ・しじみ・野田博史・加藤幹人・折笠慎也・飯島洋一・高橋洋・白石雅彦・加藤賢崇・吉行由実・さくらみゆき)。クレジットの掉尾に“ケーシーさんに捧ぐ”とあるのは、それはベンに対してなのか高峰なのか。
 公園を白衣で歩いて来る早川瑞希の、名乗るところから始まる清々しいイントロダクション。柳沢凛子(早川)の父・諭吉(高橋)は天賦の才を讃へられた開業医であつたが、内科の診察室に何故か分娩台を設置。死後の世界の実在を論じ被験者(多分演出部)に臨死体験の人体実験を施した挙句、医学界から追放される形で失踪する。凛子が内科と糖尿病科で医院を再開したものの、扱く、もとい至極当然に患者が来る訳もなく。窮した凛子が白衣の下を悩ましく包む黒下着はおろか、お乳首様や大股開きまで気前よく披露してのける、ネット・メディアの過激な取材を白石雅彦カメラマンに受けてタイトル・イン。パヤパヤ気の抜けて起動する、メイン・テーマは満更でもなかつた、のだけれど。
 これといつた物語もないゆゑチャッチャと登場順の配役残り、国沢実2015年第二作「スケベ研究室 絶倫強化計画」(脚本:高橋祐太/主演:竹内真琴)以来、四年ぶりピンク二戦目の西村ニーナは爆乳も通り越した、まるで山のやうに盛り上がつた偉大なオッパイを誇る看護士・松井絵里奈。動かざること、西村ニーナの乳の如し。飯島洋一はエロ取材にホイッホイ釣られた、日本酒とあんぱんがやめられない糖尿クラスタ・井川。役に立たなくなつた逸物を勝手に露出、触診を熱望する井川に手を焼いた凛子は、絵里奈に指示し処置室に軟禁。飯島洋一の最低でも三十六年ぶり―本人談―ともなる絡みを介錯するしじみ(ex.持田茜)は、処置室に現れるもう一人の看護士・お吉ちやんこと吉子。乳児時に両親含め乗員乗客が全員死亡したインドでの航空機事故を生き残り、狼に育てられたとかいふありがちな出自で、満月の写真を見せられると草彅剛みたいなメイクの狼女に変貌して発狂と紙一重の発情。藪蛇にアダマンチウム?まで生やした上、恐らく極度に肥大化した陰核で目の前にゐる人間を男女問はず犯すチャチい飛び道具。折笠慎也は主夫感覚の、凛子のヒモ・一馬、劇団員。腹から出てゐるにしては、口跡が妙に聞き辛い野田博史は凛子のクリニックに出入りする、「全自動製薬」の営業マン・近藤。親から嘱望された医学に挫折した過去を持ち、正体不明の人工授精器の開発に一昨日か明後日な執念を燃やす。加藤幹人は、三次元の女には勃たないナイーブな患者・純一。こちらは三本前の佐々木浩久大蔵上陸作「絶倫謝肉祭 奥まで突いて!」(2017)以来二年ぶりピンク二戦目のさくらみゆきは、二度目の来院で純一が伴ふ、彼女の夢野奈々子。吉行由実は十六歳なのに、呪ひで吉行由実の顔にさせられた少女老婆、あんまりだろ。正直無駄な仕事をした風に思へる加藤賢崇は、謎の切り株映画を上映してゐる上野オークラの支配人。男女込みホワイエの十一人―incl.原作者―に加へ、場内には更に多数の上野大隊を投入。とこ、ろで。何でまたこの期に加藤賢崇が湧いて来たのかとも思つたが、ゲイリー芦屋と同じ所属事務所といふコネクションの模様。亡霊に近い、感覚も覚える名前ではある。
 前作「好色男女 セックスの季節」(主演:栄川乃亜)の二週間後に封切られた、佐々木浩久ピンク映画第四作。聴診器よりも自然に女体が花咲く、診察室で桃色治療が繰り広げられる愉快で底の抜けた艶笑譚。これまでの、山内大輔の代替品じみてもゐる安いバッド・テイストなり憤懣やるかたないゴダールかぶれを排した、初の王道娯楽作。といふ、趣向自体を酌むには吝かでもないのだが。
 折角脱いでゐるのに、白目を剥いたしじみが「うがーぬがー」と間抜けに空騒ぐシジヴァリンのパートは、半裸の主演女優が上野オークラで大露出を敢行してゐながら、ピンク離れした大人数も巻き込んで茶も濁し損なふパピプペポーンの件と同罪、詰まらなくすらない虚仮威し未満。純一と近藤に関しては各々小団円を迎へつつ、最終的には寄る辺を否定しての、凛子と一馬の別れが不用意に後味を燻らせる。シジヴァリン初戦を除いて頑なに絡みを完遂に至らせないのは、それは潔しとせず描かないのか、それともそもそも描けないのか。殊にさくらみゆきの登場場面に際しては、美少女戦士を爆乳ナースがバイブ拷問する。空前絶後にドリーミンなシークエンスを構築したにも関らず、カメラは頑なにフラットか中途半端な距離を堅持。クライマックスの、近藤を華麗に強チンする凛子先生にアテられた絵里奈が、自らシジヴァリンを発動させる件も全く同様。絶好の見せ場を用意しておいて撮影部は満足に寄りもせず、演出部も踏み込まず。性懲りもなく持論を繰り返すが、女の裸を椅子や机と大して変わらないやうにしか撮らない撮れないの別は最早どつちでもいい濡れ場に、全体何の値打ちがあるといふのか甚だ理解に苦しむ。大蔵は我々を、乳尻が映れば涎を垂らして歓喜する、条件反射でピンクを観てゐるとでも考へてゐるのか。ついでに美人ではあれ主演女優の表情筋は動きに乏しく、展開の転換を逐一暗転で事済ます、一本調子の粗雑か稚拙な繋ぎは山本淳一の筆卸作と同レベル。持ちネタなのか何なのか知らない以前に興味もないのはさて措き、酔狂で片付けられる高橋洋―といぬちゃん―は兎も角、藪蛇に連れて来られた吉行由実の扱ひには、御当人が嬉々としてゐるだけに複雑なレイジも禁じ得ない。愉快で底の抜けた艶笑譚に話を戻すと、同じ布陣と脚本とで、新田栄の方が百億倍満足に観られるものを仕上げて来たにさうゐない、と思ひかけ、幾ら何でもそれは新田栄に非礼極まりないとマリアナ海溝よりも深く反省した。例によつて当サイトは、観るにせよ見るにせよ、これまで佐々木浩久に関して一本たりとて素通りしてゐる。毎度毎度この手の引き合ひに出して申し訳なくも別に思つてゐないが、髙原秀和ほどの負のベクトルの絶対値にさへ欠く、斯様な正しく箸にも棒にもかゝらない映画撮つてて佐々木浩久は大丈夫なんかいなと、グルッと一周して軽く心配した。心配するに及んで改めてググッてみたところ、驚くといふよりも呆れる勿れ、映画・Vシネ・テレビにウェブ媒体まで押並べて、佐々木浩久のフィルモグラフィーは絶倫謝肉祭以前で一旦停止してゐる。何をかいはんや、といふ話でしかない、榊英雄以下ではないか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 若妻不法監禁/... 痴漢電車 発... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。