真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「3人の痴女 電車の中で」(1992『痴漢電車 熟女の太股』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:原田兼一郎/撮影助手:斉藤博/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:橋本杏子・久保新二・南城千秋・しのざきさとみ・久須美欽一・荒木太郎・小川真実・杉本まこと・深田みき)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。あと出演者で、ポスターにのみ飛田翔。
 袖摺り合ふも他生の縁、とは申しますが。満員電車に揺られる現代人には、“袖摺り合ふ”だなどと悠長なことはいつてられません・・・。大略そんな感じの、名調子のナレーションにより綴られる三篇のオムニバス。このナレーションが、誰によるものなのかが判らない。声色を変へた久保新二に聞こえなくもないのだが、この人さういふ芸もあるのかなあ?
 第一篇、英単語の参考書片手に満員電車に揺られる長髪イケメン高校生のヒトシ(南城)が、痴女(橋本)の毒牙にかかる。女に引き摺られるまゝ電車を降りたはいいものの、駅を出たところで強面のお兄さん(この人が飛田翔?)登場。いはゆる美人局に、ヒトシは有り金全部を奪はれる。一年後、浪人生になつたヒトシは、母親とは離婚した大学教授の父親・ハタヤ(久保)から、結婚する予定であるといふ女性を紹介される。実はハタヤの教へ子でもある、女子大生のカスミを前にしたヒトシは目を疑ふ。カスミこそは、一年前にヒトシが酷い目に遭はされた痴女であつたのである。「俺はあの女を、あの女を、絶対に・・・・」、“認めない”と続くものかと思ひきや、「絶対に強姦してやる」と無茶苦茶な決意を胸にカスミを呼び出したヒトシではあつたが、気勢を制せられると連れ込みで精を絞り取られ返り討ちに。「親子が兄弟になつてどうするんだよ」、と投げやりなヒトシのモノローグで締める。
 橋本杏子といふ人は、正直小生のリアルタイムよりは完全に以前の女優ではあるが、判り易く欲情に潤んだ芝居ぶりは、近いところでは泉由紀子に似てゐるやうな気もする。必死にイケメンを演じようとしてみせるのが微笑ましい南城千秋は、その実実にユニークな顔立ちをしてゐる。
 第二篇、アキコ(しのざき)の母親は既に亡く、父親(久須美)と二人暮らし。劇中設定年齢は因みに二十七なのだが、しのざきさとみが恐ろしく若い。父親は婚期を逃し気味のアキコが気が気でなく、アキコ自身も男一人の父親を気にかけつつ、矢張り幾許かの焦りは感じてゐた。満員電車の車中、アキコは隣り合つた純情青年(荒木)を、ついつい軽い気持ちで逆痴漢する。電車を降り後を追つて来た青年と、アキコはホテルに。ぎこちない青年に、アキコは尋ねる。「あなた童貞ちやん?」、「一応、童貞です」、「何よ“一応”つて、童貞ちやんがカッコつけなくてもいいぢやないの」。“何時もの癖で”と後門に挿入しようとする巧みな伏線を挿んだ上で、事が済むと青年は衝撃的な事実をカミングアウトする。何と青年は、ゲイであるといふのだ。目を白黒させるアキコに、青年はヘテロ・セクシュアルの素晴らしさに目覚めたと交際を申し込む。勿論、現在のゲイ・パートナーとは別れた上で。次の日、ちやんと青年が別れられたかしら、と満更でもない風情で上機嫌で帰宅したアキコは、更なる衝撃的な光景に驚愕する。父親の和室では、別れ話を切り出した青年を、父親が後ろ手に縛り上げ責めてゐたのだ、ついでに二人とも全裸。青年のゲイの相手とは、何とアキコの父親であつた。激昂したアキコが、二人に悪口雑言の限りを投げつけて終り。電車パートに入る前の、「親の説教と冷酒は後で効く」といふナレーションが染みる。冒頭母親の遺影を手に、「お前が最後の女」と語りかける父親のショットもラストに巧みに繋がる。伏線の貼り具合、短篇ながら起承転結に於ける転の飛翔力と結の更にそれを上回る破壊力。この第二篇が最も、そして素晴らしく充実してゐる。
 第三篇、「ホモがゐるならレズもゐる」、と随分にもほどがある御機嫌な切り口にてスタート。車中でお気に入りの娘・フユミ(深田)を見つけるた、真性ビアンのマキコ(小川)は痴漢行為を仕掛ける。小川真実の、若さ以前にメイクと髪型とに、時代が感じられる。俄に意気投合した、二人は同棲を始める。も、要は元々ビアンではなかつたフユミが、男に興味を持つと自分の下を去つてしまふかも知れない、と危惧するマキコは気が気でない。一計を案じて、マキコは付き合ひのあるスケコマシ(杉本)に接近する。フユミを誑かし金を巻き上げ、男にすつかり幻滅させて欲しいといふのである。するとスケコマシ曰く「その女、コマしていいのか?」、黒い杉本まこと(現:なかみつせいじ)がスパークする。普通ならば読点のところで、句点ばりにタップリと間をもたせるのが今も変らぬ杉本節。慌てて否定するマキコを、スケコマシは代りに抱かせて呉れるやう求める。仕方なく、マキコは渋々嫌々応じる。とはいへ結局、一世風靡セピアのやうな装ひでフユミに近づいたスケコマシではあつたが、フユミの純真さに情を絆され、騙して金を巻き上げるのを途中で放棄する。男が出来たフユミは、マキコの下を離れる。一方、そんなマキコではあつたが、スケコマシに抱かれた結果男の味を覚え、彼との電車内痴漢プレイに燃えるのであつた。
 勢ひで逐一を一通りトレースしてのけたが、軽妙なナレーションにさりげなくも丹念に彩られた三篇は、工芸品の趣すら感じられる。偶々同時に上映された、加藤義一処女作「牝監房 汚された人妻」(2002)も踏まへると、十年の時を超えた小川真実と杉本まことの濡れ場を一時に味はへるといふのも、それはそれとして感慨深いものがある。

 あくまで未確認ではあるが、今作、以前に一度「痴漢電車 人妻・ハイミス・熟女編」と旧作改題されてゐるかも、即ち今回は、二度目の新版公開となるのやも知れない。
 
 付記< ものの弾みでex.DMM復習したところ、ナレーションの主は何てことない、普通に久保チンである


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