真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「溢れる淫汁 いけいけ、タイガー」(2019/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影・照明:渡邊豊/照明助手:渡邊千絵/録音:清水鉄也/助監督:菊嶌稔章/監督助手:泉正太郎/美術協力:いちろう/スチール:本田あきら/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/特殊効果:森本浩/特殊造形:土肥良成/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/協力:はきだめ造形・Abukawa corporation LLC./出演:佐倉絆・橘メアリー・原美織・小滝正大・折笠慎也・細川佳央・西村太一・鶴田雄大・白石雅彦・森田武博・松井理子・和田光沙・稲葉奇一朗・郡司博史・澄田義之・野村榮・三浦誠・入深かごめ・周磨要・十松弘樹・松本格子戸・四谷誠一郎・安藤ヒロキオ)。クレジットが無闇にやゝこしい、出演者中白石雅彦と森田武博に、稲葉奇一朗から四谷誠一郎までは本篇クレジットのみ。逆に横須賀正一が、ポスターにのみ名前が載る。スタッフに関しても目を疑つたのが、録音と特殊効果が清水鉄也と森本浩といふのはどうにも怪しい。
 赤い満月に、佐倉絆の声で「罪深い魂は、終りのない夜に落ちた」、適当な文句のモノローグが被さつてタイトル・イン。漫然とした開巻は、良くも悪くも引つ繰り返る。ガード下で客を引く立ちんぼのマリ(原)が、初老の男(国沢実)とフィギュアを肌身離さないオタク(白石)に相次いでフラれる。憤然とするマリに、塗りの雑なピエロ(切通理作)が風船―とビラ―を手渡す。マリが往来に出ると、アンドロイド型ダッチワイフを発売するポーラボーン社を、公害企業と糾弾し署名を集める和田光沙と松井理子に遭遇。パン女にとつてもポーラボーンは商売敵であるやうに思へ、協力してあげればいい気もしつつ、マリはピエロに貰つた風船に“バカ”と書いて夜空に飛ばす、情けない特撮で。一方、折笠慎也をクールなリーダーに、ならず者(細川佳央・鶴田雄大・西村太一)がヒャッハヒャッハ屯する廃工場的なロケーション。単車を音だけ鳴らして、黒いエナメルのバイクスーツに豊満な肉体を包んだジュン(橘)が現れる。ヒャッハーズを誘惑したジュンは、三穴責めをも受け容れるエクストリームな初戦に突入。ところが「ガオー」と虎の咆哮とともに犬歯の発達したジュンが折慎の舌を噛み切るや、全身タイツを悩ましく膨らませる爆乳の破壊力で辛うじてエロい―チャチい被り物の―虎女に変身、三馬鹿も一人づつ血祭りにあげる。その場に、こちらは赤いバイクスーツのマナ(佐倉)が大登場。ロケットパンチ的な得物と、香水みたいな薬物の噴射でマナはジュンの機能を停止させる。
 配役残り、マナの赤いバイクスーツに、黄色のオニツカタイガーを合はせた格好の小滝正大が元々はアニメ作家であつた、ポーラボーン社マナ計画オブザーバー・風早タクマ。安藤ヒロキオはマナ計画のリーダー・蛇塚信一郎博士、傍らのポーラボーン社研究員Cが泉正太郎。風早が設定込みのキャラクターデザイン始め、実質大半を手掛けてゐたアニメ「風の天使マナ」は、ポーラボーン社の映像部門廃止に伴ひ頓挫。失意の内に消息を絶つた風早は三年前、「風マナ」の海賊盤を万引きし逃げる最中、当時3D開発部門主任研究員の蛇塚と出会ふ。ポーラボーン社が見据ゑる大胆すぎる未来が、アニメからアンドロイド型ダッチワイフへの移行。それ、何足飛ばしなんだ。兎も角風早は、蛇塚に乞はれマナ計画に参加する。マナはロールアウトされた試作一号機で、正式名称は表記不明のマナ01。森田武博と清水鉄也は、ポーラボーン社研究員AとB、Aが画面右。ところでジュンはといふと、マナ01に辿り着く過程で廃棄された、ジャンクパーツが勝手に合体進化して自動生成。だから何だそれといふのも強ひてさて措き、ジュンの最初の犠牲者となる、レス・ザン・ホームの人は森本浩。ジュンにメソッドを学習させるヒッチハイカーが横須賀正一で、三浦誠は停めたが最後、バイクも命も奪はれるライダー。ジュンを一度は木端微塵に始末した、前作にも出て来たランチャーならぬハイパーメガバズーカ砲を構へる蛇塚を扇の要に、研究員Cと奇捜研―奇怪事件捜査研究所―装備のプロップを構へる国沢実の二役目は、ポーラボーン社研究員D。わざわざ無駄な混乱を呼ばずとも、正直ここ―もしくはガード下の一人目―は、別の人間の方が望ましいやうに映らなくもない。その他残る名前は、冒頭の署名活動往来くらゐにしか、人影らしい人影も見切れない。あれだけ派手な面相で、松本格子戸が一体何処にゐたのか。あと、マナ01が入れられる牢の巨漢看守が、菊りんでなくジョージ★シライに見えたのは節穴の迷ひ?
 それこそサルでも判る一枚目の影から、しかも過去最大の飛び幅で衝撃の二枚目が飛び込んで来る国沢実2019年第一作。不用意な陰陽論をオッ広げた結果、ジュンのみならず、マナ01まで虎化する所以は埒も明かぬか他愛ない方便ばかりさんざ捏ね繰り回した末に、全く以てちんともぷんとも理解不能。端から満足に作れない画を、誤魔化さうとする素振りを仄めかしさへしないどころか、堂々とかのうのうと開き直つてのける駄を通し越した堕カットの数々は、傾げた首が肩を叩く大いに考へもの。商業映画が果たしてこれで観客から木戸銭を取れるのか、取ることが許されるのか。終にぽくヤキの回つた国沢実に分別がつかないのであるならば、大蔵が責任を持つて裁断を下すべきではあるまいか。反面、筋金入りゴリッゴリの童帝オタク男が、自身の理想を具現化した美少女セクサロイドと、ラッブラブでエッサカホイサカな同棲生活を満喫する。惰弱な琴線をフルコンタクトするファンタジーとしては一欠片の迷ひもなく、遺憾なく橘メアリーの馬力を発揮するには如何せん国沢実の艶出力が心許なくはあるものの、佐倉絆と、ラベンダービーナスもとい原美織を可愛らしく撮る、線の細さと紙一重の繊細さは、数少ないワン・ノブ・持ち味。ペローンと前を開(はだ)けオッパイを見せた状態から、マナがキュッとバイクスーツのファスナーを絞る。一撃必殺の最も肝要なショットは、流石の国沢実も忘れはしない。木に三番手を接ぐものの弾みでマリをも味方に、何が何だかな闇雲さでジュンが復活、マナとの決着を誓ふ。如何にも大ボス的なポーラボーン総裁(女声の主不明)の存在も含め、続篇を匂はせるだけ匂はせる、もしくは匂はせるために匂はせる無責任なオーラスは片腹痛くもあれ、ヤケクソな勢ひでマナと風早が明後日か一昨日に爆走するランナウェーイは、ニューシネマを魔改造したが如き破れかぶれな疾走感に溢れはする。尤も、あるいは最終的に。雌雄を決するのは国沢実も国沢実で、切通理作も切通理作な性懲りもなさ。数十年の幾星霜変つてゐない安普請以前に、国沢実の処理能力も考慮してゐない、考慮してゐるとは凡そ認め難い画的にも物語的にも身の丈を超えた情報量が引き起こすオーバーフローが、この二人の辞書に学習といふ単語のない致命傷。ざつと見た感じ、国沢実に切通理作とのコンビを解消する気配も窺へなく、果てしなく長いトンネルを抜け―かけ―るのに、四捨五入すると十年辛抱させられた加藤義一同様、九月でデビュー二十五年も目前のこの期に及んでの暫し、国沢実が一皮剝けるのに我々は麒麟よりも首を長くして待つてゐなければならないのであらうか。この期に及ぶにもほどがあるといふのと、何時までも、あると思ふなその“暫し”。

 もうかれこれ、国沢実の新作を観るのも一年以上間が開いてゐるゆゑ、改めて整理しておくと。2016年第三作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(脚本:高橋祐太/主演:桜木優希音)の寺西徹で度肝を抜き、なほ一層吃驚した町田政則。清大の後塵を拝したGAICHI(ex.幸野賀一)と、ここで一括るのは些かならず微妙な山科薫。そして掛け値ないたんぽぽおさむと続いた、恐らく今回で一旦打ち止めとなる模様の、国沢組近年恒例ベテラン俳優部サルベージ。そこで今作の、エキストラであるにも関らずな飛び道具は渡邊元嗣2010年第二作「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(脚本:山崎浩治/主演:早川瀬里奈)以来、九年ぶりでピンクに還つて来た横須賀正一(a.k.a.しょういち)、だけでなく。実はその直前シレッと森本浩が、関根和美のデコトラ漫遊記第二作「馬を愛した牧場娘」(2003/小松公典と共同脚本/主演:秋津薫)以来実に十六年ぶり驚愕の大帰還。そもそも森本浩自体のフィルモならぬ、モモグラフィーが片手で足るのもあり、かうなつて来ると最早、全体国沢実は何処から森本浩を連れて来たんだといふレベルの話ですらある。


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