真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「スペルマーダー 嵐を呼ぶエクスタシー」(2017/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:藍河兼一/撮影助手:赤羽一真/録音:小林徹哉/助監督:福島隆弘・いちろう・粟野智之/編集:酒井編集室/スチール:本田あきら/音楽:與語一平/整音・効果:シネキャビン/特殊造形:はきだめ造形/タイトル:杉田慎二/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/協力:Abukawa corporation LLC.・中野貴雄・太三/出演:佐倉絆・橋下まこ・桜木優希音・折笠慎也・天木零士・永川聖二・岡村ショウジ・GAICHI)。
 指開き手袋でギュウッと握り込んだ拳を、ブワッと開く。ナイトメアな夢オチ風に警備員の桐崎綺羅(佐倉)が意識を取り戻すと、そこは物置に毛を生やしたやうな殺風景な一室。綺羅はベッドの上に半裸の状態で、傍らにはガスマスクの男が絶命してゐた。激しく混乱する綺羅は、経緯を思ひださうとする。勤務先のイケメン・平野誠(折笠)とラブチューを交し一旦別れた綺羅の背後に、ガスマスクのレイパーズ(後述)が。件の謎部屋―大体何故ベッドが―に連れ込まれ、綺羅は犯される。遺体をどう処理したのかといふ巨大な疑問は豪快にスッ飛ばし、綺羅は依然頭を悩ましながらも普通に帰宅。ガスマスクの下は、見覚えのないオッサン(GAICHI)だつた。綺羅を出迎へた二人暮らしの父親・丈一郎(天木)は、綺羅が殺しの遺伝子を所有してゐるだなどと、突拍子もない大風呂敷を広げる。「殺、し・・・・?」と綺羅が当然再度首を傾げ、安Vシネみたいなスッカスカのタイトル・イン。ググッても何も出て来ないゆゑ、変名かも知れない天木零士の印象をザックリいふと、ハンサムな国沢実。それとアバンでは辿り着けない細部、綺羅が籍を置く警備会社の社名が、虻川警備保障。国沢セキュリティーで国沢実を叩き上げの社長にでもすればよかつたのに、無理から作んないと出すとこないけどね。
 黒いファブリーズ風の噴霧避妊薬「キルピル」でレイパーズが中に出した精子を殺した丈一郎は、綺羅に類型的、もとい衝撃的な出生の秘密を語る。二十一年前、政府の極秘機関で丈一郎は研究職に就いてゐた。配役残り、真希波・マリ・イラストリアスと同じメガネでドヤァ!と大登場をカマす桜木優希音は、丈一郎の同僚・雪村冴絵。最強の人間兵器を生み出す殺しの遺伝子、その名も“スペルマーダー”を開発する。ところで、“スペルマーダー”を体内に持つ人間を作り出すのが、十月十日かゝる一苦労。まづ原液を、結構なデカさの注射器で男―ここでは丈一郎―の尻にお浣腸。精液の中で活性化させた上で性交、受精する必要があるとする、女の裸を銀幕に載せる鉄の意思が清々しい桃色方便。即ち、さうして冴絵と丈一郎の間に生まれて来たのが、綺羅といふ次第。橋下まこは、誠と同居する女子大生か短大生の妹・マミコ。風呂上がりに兄の眼前バスタオルが肌蹴るのを欠片も厭はない、ファンタジーを何気にやつてのけるカットには、観客の他愛ないか下賤な琴線を爪弾くことに全てを賭ける、国沢実のピンク映画監督として至極全うなスピリットが窺へる。永川聖二と岡村ショウジはレイパーズ要員とされるが、マスクをヒッ剥がした中身は何れもGAICHIとなると、しかも大きく動く中大して変らない背格好だけでどれが誰だと見切るのは流石に難しい。改めて最初から顔出しのGAICHIは、レイパーズの強化型モンスター。恐らく衣裳・小道具―もしくは美術―方面の中野貴雄は兎も角、太三が何処かに見切れてゐるのだとすればロストした。
 2016年第三作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(主演:桜木優希音)の寺西徹、前作「「ピンク・ゾーン 地球に落ちてきた裸女」(主演:阿部乃みく)にあつては町田政則。引き続き、SF(スーパー・ファンタ)系国沢組が何気に継続中の、ベテラン男優部サルベージ。国沢実2017年第三作今回の第三弾は、復帰自体は清水大敬2017年第二作「ハミ尻ダンプ姐さん キンタマ汁、積荷違反」(主演:円城ひとみ)が先行するGAICHIことex.幸野賀一。2018年も、山科薫にたんぽぽおさむと企画ないし縛りは活きてゐる。山科薫は常連の清大組以外でも案外チョイチョイ出てゐるが、たんぽぽおさむは確かに大復帰だ。
 映画の中身に話を戻すと、桜木優希音最初の濡れ場込みで、自身が“スペルマーダー”を有する顛末を事細かに聞かされた綺羅は、回想明けの第一声で「なんでパパの初体験の話を」と的を得たツッコミ。膝サポーターが完全に皿の下にずれてゐるだらしなさは減点材料でもあれ、馬場ルックの丈一郎とスク水綺羅の特訓風景は、大胆不敵なオープンで乳尻もしつかり披露しつつ、振り切れた馬鹿馬鹿しさがキラッキラ輝く。佐倉絆の素で顔文字感のある浮世離れたキャラクターが、地に足の着かないシークエンスでこそ素晴らしく活きる。綺羅を二十四時間モニタリングする丈一郎は娘の裸で自動的にマスをかき、エクスタシーで覚醒する筈の“スペルマーダー”が、どうして誠との婚前交渉では目覚めなかつたのか。実も蓋もない最短距離の真相は、男のつらさをさて措けば捧腹絶倒。どうかしたのかと思はせるほど高橋祐太が絶好調、枝葉を飾るギャグが打率十割で走りまくる。佐倉絆と桜木優希音の戦闘服あるいはプロテクター、宇宙船的な正体不明のロケーションと、精一杯ビジュアル面でも健闘。するも、のの。如何ともし難い安普請を流石に回避しきれない展開の貧しさに、物語自体そもそも平板な人間兵器譚が力尽きかけた時。まさかの大技、愛の遺伝子“スペルマリッジ”のクロスカウンターで劣勢を一気に挽回。桜木優希音と天木零士の絡みが、サイコーの思ひつきを形にしたfeat.GAICHIの佐倉絆V.S.折笠慎也をも易々と超え得る、最長不倒のエモーションを撃ち抜く真のクライマックスにならうとはよもや思はなかつた。壊れたまゝ救済されず仕舞ひのマミコの扱ひには一抹の後味の悪さも残すにせよ、執拗にオッパイを拝ませるオーラスに免じて、些末な難癖は放棄してしまへ。コンビ結成時の勢ひが失速した感も若干否めなくもなかつた国沢実×高橋祐太のコンビが、再び軽やかかつ力強い羽ばたきを見せた快作。何度でも同じ与太を吹くやうだが、国沢実は下手にシリアスな映画を撮らせると何処までも沈むか塞いで行く傾向といふか性向の持ち主につき、スッカーンと底の抜けてゐるくらゐでちやうどいいのではあるまいか。


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