真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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ほくろの女は夜濡れる
さ行
/
2018年01月31日
「
ほくろの女は夜濡れる
」(2017/制作:ファミリーツリー/提供:オーピー映画/監督:榊英雄/脚本・助監督:三輪江一/音楽:雷鳥/撮影:早坂伸《JSC》/照明:大場郭基/録音・効果・仕上げ:丹雄二/編集:清野英樹/ヘアメイク:堀川貴世/スチール:富山龍太郎/特別協力:小沼秀剛・氏家英樹/監督助手:光平哲也・市川浩気/撮影助手:岡崎孝行・永仮彩香/照明助手:永川千歳/撮影協力:キアロスクーロ撮影事務所/仕上げ:東映ラボ・テック/特別協力:FAITH entertainment/出演:戸田真琴・可児正光・とみやまあゆみ・高橋美津子・山本宗介・木村保・羽柴裕吾・三輪江一・藤倉さな子・藤原絵里・松本高行・榊英雄・和田光沙・森本のぶ・川瀬陽太)。出演者中三輪江一と、藤原絵里から榊英雄までは本篇クレジットのみ。
指で紅を刷き、右目下の泣きぼくろに触れた戸田真琴が、髪を解きエレベーターに乗る。外回りと称して出撃した、多分求人誌か情報誌制作会社「ワーキングコーポレーション」営業の工藤朋美(戸田)を、気合の入つた遠い俯瞰で追ふ。比較的猥雑な一角にて、朋美は大学時代の一年先輩・成田潤(可児)とバッタリ再会。成田が満更でもない以上の風情を窺はせる一方、そゝくさかはした朋美がランデブーしたのは、フリーで営む売春の常連客・市川。体躯はダブつくものの、量産型裸映画的にも見劣りしない絡みを羽柴裕吾が務める一幕明け、朋美は市川に、サインペンで自身の体の好きなところに黒子を描くやう求める。不思議がる市川をポイントカードと誤魔化した朋美が、何が貰へるのといふ問ひに対し投げた答へは“新しい私”。市川が捌けた後(のち)、朋美は市川が描いた左腕の黒子に血が流れるまでボールペンを押し当て、実際の黒子に固定する。兎も角朋美帰社、市川に釦を引き千切られ実は前の肌蹴たブラウスに、社内でも社長を“パパ”と呼ぶクソ倅の平林正彦(山本)が目を留めるや、派遣社員の手塚結衣(とみやま)が朋美を別室に救出。仔細はマルッと割愛すれど、結衣は朋美の裏稼業を把握してゐた。
配役残り藤倉さな子と藤原絵里は、ワーキングコーポレーション女子社員AとB、ビリング下位の藤原絵里の方が映える。榊英雄は、成田が朋美とのデートに使ふバー「WOKINI」のマスター。森本のぶは朋美に―仕事で―付き纏ふ、金融会社「Mキャッシュローン」の取立・白井で、三輪江一は朋美を買ふ男・二ノ宮。そして高橋美津子が、リアル泣きぼくろを娘に羨ましがられる、朋美の源氏名と同じ名の母・沙耶佳、川瀬陽太は朋美の継父・幸雄。夫婦生活の最中に朋美が帰宅する件と正真正銘即座の二連戦で、幸雄が朋美の破瓜を無理矢理散らせた事後、カメラがパンした先が沙耶佳の遺影とかいふザクついた展開には軽く度肝を抜かれ、白井への完済時、朋美が体を売つて返した借金が、実は幸雄のものであつた旨が暗示される。木村保は、成田とは同級の大学時代からの―更に以前からかも知れんけど―友人・原島亮太。高橋美津子が本格的な対面座位を披露しながらも、乳尻は頑として死守する穴埋めか、刹那的に飛び込んで来る和田光沙は、朋美を失つた成田が呼ぶデリ嬢・アヤカ。最後に松本高行が特定不能、同名の編集マンだとすると、年齢的に正彦親爺のワーキングコーポレーション社長。でなければ、カンニング竹山似の売春客要員か。
今年どうするのかは当然知らないけれど、個人的かつ勝手な印象では案外継戦してゐる榊英雄ピンク映画第四作、OPP+題が「コクウ」。誰一人幸せになどするものかといはんばかりに、一欠片の救ひもなく振り抜かれるドス黒いドラマは、煙草でいふガツンと来る重さを以て見応へがある。尤も、ピンクに於ける榊英雄の初日を認めると同時に、時代認識と称した単なる嗜好としては、決してその貫徹された暗さに、必ずしも首を縦には振り難い。もう北風には、吹かれ厭いた。冴えないオッサン主人公に、何故かカワイコちやんが次々と膳を据ゑて呉れる。よしんば最も通俗的で低劣なファンタジーの類であつたとて、せめて小屋の暗がりに身を潜める時くらゐは、憂世のどうしやうもない酷さ醜さ、冷たさを忘れさせて欲しい。さういふ心的態度を惰弱なり逃避と断ずる潤ひや器量を欠いた人間観なり映画観に、当サイトは断じて与するものではない。清水大敬近年のそれはそれでそれなりに王道娯楽路線を、頑なに支持するのもその所以である。裸映画的には平林が立場の弱い結衣の足元を見る形での、二年間でグッと色気を増したとみやまあゆみの濡れ場をもつと観たかつた心は大きく残す反面、肌から綺麗な戸田真琴の裸は、思ふ存分目一杯堪能させて呉れる。山宗と川瀬陽太が要所を頑丈に締める以上、場数の足らない男優部の逆マグロぶりに興を殺がれる、昨今まゝ散見される悪弊に匙を投げさせられることもない。ところが、それもそれで朋美―の裸―に費やした尺が、諸刃の剣的に徒をなしたのか。成田と幸せを掴み、損ねるにせよ、要はヒロインが一目散に奈落の底に落ちる一直線の物語にしては、既に随所で触れた、殆ど完全に放置される結衣周りの外堀にとりわけ顕著な清々しくスッ飛ばされる諸々に加へ、後述するラスト間際の性急といふか何といふか、ザックザクも通り越したズッタズタの繋ぎには、七十分でもまだ足らぬのかとの呆れに似た疑問も禁じ得ない。仮に幾分更に長いOPP+版ではその辺りの不足も解消されるにせよ、
山﨑邦紀が好き勝手し倒した結果の一般映画版
を、
アタシの映画
ではないとまで言ひ放つた浜野佐知の逆説的なジャスティスを持ち出すまでもなく、ピンクと一般映画を秤にかけて、一般を取るのだとしたらそれこそ正しく本末転倒の極み。言語道断と難じるほかなく、OPP+なんぞやめてしまふに如くはない。文字通り何時も何時も繰り返す繰言もさて措き、てつきり“コクウ”が“虚空”かと思ひきや、アクセントが後ろにずれる“黒雨”であつた旨が判明するど鮮烈なラスト―この点に関しては、タイトル・インがオーラスにつき、一般映画題の方がなほ一層衝撃的にさうゐない―は激しく胸を撃ちかけつつ、ただその戦法で攻めるには、如何せん主演女優の発声が心許ないのは返す返すも残念無念。
もう一点疑念が過つたのが、債務を清算した返す刀で全身の黒子除去手術を受けた朋美が、成田に初めて肌を晒、さうとした直後に、カメラが可児正光と正対する位置に回り込む無駄なカット割り、あれは一般映画の文法ではあるまいか。既に戸田真琴の裸身を出し惜しむ段にはとうにない以上、一息のエモーションに突撃すべきではなかつたかに映る。
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