真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れた愛人 グンと突きあげて」(2001『愛人物語 くはへてあげる』の2014年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきりぼん/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:河村栞・若宮弥生・奈賀毬子・かわさきひろゆき・入江浩治・なかみつせいじ)。
 LPレコードやフォークギターの散らばる安アパートの一室、訪ねて来た河村栞と、目を丸くする部屋の主のかわさきひろゆき。佐藤徹(かわさき)は学生時代の友人・佐伯と自室にて待ち合はせたにも関らず、現れたのは佐伯と付き合つてゐるとかいふ黒木伸子(河村)であつた。佐伯は既婚者なのに、しかも斯くも若い娘と。まるで事態が呑み込めぬまゝ鳴つた佐藤の携帯を、伸子が奪ひ取り切つたところ―何で切るのかよく判らんが―でタイトル・イン。何事かヤバい状況になつてゐると思しき佐伯(なかみつ)は散発的にしか連絡を寄こさず、膠着する佐藤の部屋には三人仲良くギターを携へた佐伯と佐藤と、今は佐伯の妻・依子(若宮)のスナップ写真が飾られてゐた。
 配役残り入江浩治は、佐伯の所在を求め佐藤の部屋に乗り込むヤクザ。その場から兄貴分にかけた電話で、傍に佐藤がゐるといふのにチャカだ何だと無防備にベラベラ喋るのは、かわさきりぼんの書く脚本だから仕方がない。感動的なまでの三番手感を爆裂させつつ、三本柱唯一劇中現在時制の濡れ場をこなす奈賀毬子は、ヤクザの情婦・実夏。ヤクザと同じく佐伯を捜す刑事は、何故かjmdbではさとうおさむ(=佐藤吏)とされてゐるものの、実際には姿も声も広瀬寛巳。
 公開当時m@stervision大哥に木端微塵に酷評された、深町章2001年第五作。m@ster大哥が完結されたところにのこのここの期に遅れ馳せるのは気が重いどころか猛烈にしんどいのだけれど、それでも“ピンク映画は観ただけ全部感想を書く”。負け戦でも、戦はなければならない時もある、勝つた戦の記憶がある訳でもないんだけどな。火に油を注いでか傷口に塩を塗つてか、よもやかわさきひろゆきの自作曲なのか、窓枠に腰かけ耳を傾ける伸子の表情が、食傷のあまり白目を剥いてゐるやうに見えなくもない、夢を捨てきれぬ男を歌つた十八番を佐藤が浪々と、もとい朗々と披露するクライマックス。自らを青いと称することが許される歳でもないゆゑ、要は俺はバカだから、迸るが如くダサくて臭くてどうしやうもないシークエンスに、プリミティブさがグルッと一周したエモーションを感じた。毎度のこととはいへ出鱈目を吹くやうだが、これ深町章が撮つたと思ふから呆れるなり匙を投げかねないので、もしも仮に万が一一年早いがたとへば佐藤吏ないし森山茂雄の映画であつたならば、受ける感触も全く変つたものになつたのではなからうか。何れにせよ頑丈に残存する時代錯誤感と、来客が不自然に卓袱台に腰を下ろし続ける、無駄な上にクスリとも笑へない小ネタをさて措けば。


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