童話の新刊です。
「ちいさなおはなしやさんのおはなし」(小峰書店 2012年12月)
あるところに、ちいさなおはなしやさんが、
ちいさなねことすんでいました。
ちいさなみせに、ちいさなかんばんをだして、
ちいさなおはなしをうってくらしていました。
出だしから、おや? 昔話かい? と思われるかもしれませんが、
じつは、そうでもあり、そうでもなし。
64ページの幼年童話の体裁だけど、主人公は自立した女性だし、
猫の話でもあり、お料理っぽくもあり、「大男」とかも出てくるという・・(笑)
この話を最初に書いたのは5年くらい前で、ちょうどそのころ、
とあるきっかけからグリム童話を集中的に読んでおり、
ああいう昔話のような「語り伝え」の形式をとりいれて
何かできないかな、ということをふと考えたのでした。
それは、いわゆる「創作民話」のような意味ではなく・・
声で語り、耳で聴く「おはなし」ということ。
絵本として見ても楽しめ、文章のみでもきちんと成り立ち、
「読み聞かせ」だけでなく「語り」にも使えたらいいな・・
と、まあ、とっても欲張りなことを考えてみたわけですね。
この本が、全部ひらがなで書いてあるのはなぜかというと、
漢字=目で読む表意文字に頼らず、ひらがな=耳で聴く表音文字の
「音」を基準としてつくりたかったからなのです。
えーと、詳しいことは、長くなるので、場所をあらためて書きますが、
とにかく4年か5年かかって、やっぱり絵本じゃなく童話にしようとか、
うろうろ迷い道に入ったり、袋小路に入ったり・・
結局のところ、当初の目標とはいくらか違う方向になったものの、
ようやくいちばんふさわしい形に落ち着きました。
(わたしとしては珍しいことですが、初期原稿の段階で
実際に現役の「語り手」さんたちに読んでいただき、
ご意見をうかがってみる、ということをしました。
こういう「リサーチ」がいつも役に立つとは限りませんし、
今後もめったにすることはないと思うのですが、
今回はその中からとても重要なヒントをいただくことができました。
さんごさん、ミリさん、ウルファさん、お話会のメンバーのみなさま、
ご協力ありがとうございました!)
こがしわかおりさんの絵が素敵なんです。
キャラクターがみんなしっかりしていて、個性的で。
主人公の着ている服は手縫いの木綿に違いなく、
柔かくていかにも着心地がよさそうだし、
お店で使うビンは回収して再利用しているらしい。
ビンを持って買いに行くと値引きになったりするのだな。
あ、この「たびびと」さんは、どことなくスナフキンの雰囲気。
などなど、さらさらした気持ちのよい植物系の世界で、
どこまでも想像がひろがっていきます。
こがしわさんは、ブックデザイナーとしても活躍されている方で、
この本もイラストと装幀を合わせてお願いすることができました。
1場面に2~3パターンのイラスト案を考えてくださったりして、
どれも捨てがたく、編集者さんと楽しく悩ませていただきました。
最後のほうの絵を見たときに、初めてわたしは気がついたのですが、
・・そうか、これって、「ラブストーリー」だったのね?!(笑)
ああ、ほんと、本をつくるのって、面白いですよ。
ちいさなおはなしやさんのおはなし | |
竹下文子/作 こがしわかおり/絵 | |
小峰書店 |
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