閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「ピン・ポン・バス」について

2013-07-03 17:25:48 | Q&A

ご質問です。

>「ピン・ポン・バス」を図書館で借りてきて、
>子どもがとても気に入ったため、このほど購入しました。
>ところが、図書館の本で読んでいた文章が、
>買った本では抜けているのに気づき、びっくりしました。
>繰り返し読んで、子どももほとんど暗記していたのに・・
>どうして削除されてしまったのでしょうか。

これは閑猫堂に直接いただいたご質問ではないのですが、
出版社にときどき寄せられる「よくあるご質問」のひとつですので、
一度ここで作者からお答えしておこうかと思います。

絵本「ピン・ポン・バス」1996年初版の16ページの文章は
次のようになっています。

 はんたいいきの バスと すれちがいます。
 こっちの うんてんしゅさんと
 あっちの うんてんしゅさんが、
 しろい てぶくろを はめたてを
 ちょっとあげて あいさつ。


白い手袋をはめた手をあげるところが、かっこいいなぁと・・
子ども心にときめいた経験のある方は少なくないでしょう。
じつはわたしもそうでしたので、バスの絵本をつくるにあたって、
この場面は最初からぜひとも入れたかったのでした。

ところが、この絵本が出てから7年後の2003年に、
東京バス協会というところから、
「すれ違い時に手をあげる挨拶を禁止する」
という通達が出されたことをニュースで知りました。

たとえ一瞬でも前方から目をそらし、ハンドルから片手を離すのは、
乗客の生命をあずかるプロとしてよろしくないのではないか・・
仲間同士の挨拶や情報交換よりも安全運転を優先すべき・・
というのが禁止の理由だったようです。

わたしでも(運転下手なわたしでも!)すれ違いのときに対向車に
待ってもらったり譲ってもらったりすると、挨拶します。
離れているし窓ごしなので、声は聞こえませんし、
手をあげたほうが相手に伝わりやすいと思います。
挨拶でなくたって、エアコンつける、オーディオつける、窓開けるなどなど、
車に乗っている人は、誰でも普通にしますよね?
ましてプロの運転手さんなら、それくらいで運転に支障はないはず。

・・と、思っても、ダメと決まった以上は、しかたありません。
だけど、絵本はもう出てしまっているし。
禁止されてることを絵本でしているというのは、やっぱりまずいし。
大変悩みましたが、編集者さんとも相談した結果、
文章を変更することになりました。

 はんたいいきの バスと すれちがいます。 
 こっちの うんてんしゅさんと 
 あっちの うんてんしゅさんが
 ちょっと あいさつ。

「手をあげて」という部分を抜かしました。
(うーん、やっぱり、ちょっと寂しいけどな・・)
絵は変えていないので、白手袋の手をあげたポーズのままです。
だけど「手をあげる・・とは言ってませんので」という・・
まあなんというか、ちょっと苦しい言い逃れですけども、
「最小限度の変更」で、こういうことになりました。

本の最後のページ(奥付)を見ていただくと、
「〇〇年〇月初版〇刷」という記載がありますが、
「2003年の9刷」までが変更前、それ以降が変更後のものです。

(2012年に印刷データのデジタル化にともない、
「改訂版1刷」という表記になりました。ちょっとややこしいですが、
これは絵や文章を変更したという意味の「改訂」ではありません)

古い本が今でも図書館にあるため、新しく購入された方が
「あら?」と思い、もう覚えちゃってたお子さんが「どうして?」と
不審がり、「印刷ミスでは」というお問合せもたまにあるようで、
大変申し訳なく思っています。

今では「手をあげて挨拶」は見られなくなった・・かというと、
そういうわけでもないらしく、地域によって、バス会社によって、
路線によって、したり、しなかったり、いろいろのようなので、
興味のある方は自由研究のテーマに、いかがでしょうか?

「ピン・ポン・バス」はおかげさまでロングセラーになっています。
ちょっとした違いにすぐ気づくほど「読みこんで」くださっているのが、
作り手としては、何よりもありがたく嬉しいことに思えます。

 

ピン・ポン・バス
文・竹下文子
絵・鈴木まもる
偕成社 1996年

 

ついでに。
「ぼくのしょうぼうしゃ」1993年初版の9ページの乗用車は、
助手席でお母さんが子どもを膝に抱っこしています。
これは当時の「うちの車」そのまんま、だったのですが、
その後、シートベルトやチャイルドシートが義務化されましたので、
現在流通しているものは絵を修正してあるはずです。
お持ちの方は確認してみてくださいね。

 

ぼくの しょうぼうしゃ
文・竹下文子
絵・鈴木 まもる

偕成社 1993年

 

コメント
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