閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

立春

2009-02-04 21:29:59 | 日々
紅梅も咲き始め、ほんのり春めいた夕方。
窓の外を見たら、縁側にじゃこがぽつんと座っていました。

風の匂いでもしらべるように頭を上げて ひげを立て、
しばらくあっち、こっちと顔を動かしていましたが、
やがて「あ、わかった」というふうに腰を上げ、
すたすたと早足に歩き出しました。
スイセンの咲く庭を抜け、ちょっとだけ立ち止まり、
すっと左に曲がって…消えた?

あわてて追いかけていくと、いたいた。
ずうっとむこう、アトリエの横の、川岸の石垣。
枯れ草の中でなにやらごそごそ。
「じゃこじゃこ!」
呼んだら、ちらっとこっちを見て、人は通れない隙間を
まるで野生動物のようにすばしこく駆け抜けて…

あっというまに見失った。

それから1時間。
待っていたけれど、じゃこは戻りません。
これまで縁側より遠くには行かなかったのに。
もうダンボールハウスには入らなくなり、
居間の椅子のひとつを「じゃこ基地」にして、
一日中そこにいたのに。

なぜだかわからないけれど、
もう帰ってこないような気がしました。

じゃこ、自分のおうちを思い出したのかも。
すっかり体力もついたし、いまなら帰れると思ったのかも。
それならそれで、しかたないよね。
うちの猫という契約がしてあるわけではないし。
行きたいところに行ければ、それがいちばん幸せだよね。

暗くなり、東の山の上に明るい半月が出たころ。
2階の雨戸を閉めて、下へおりたら、
椅子からぽとんと飛び降りた小さい影。
あれ? じゃこだ!
いつのまに帰ってたの? ただいまも言わないで。
とととっと小走りで台所にきて、足にまつわりつくように
ゴハンの催促をしています。

じゃこだって、お散歩ぐらいするんだよー。
久しぶりにお散歩して、おなかすいちゃったよー。

ゴハン食べて、それからていねいに毛づくろいをして、
くつろいだ姿勢で眠りました。

じゃこにはもう「自分のうち」で「自分の庭」になったんだ。
立春の日のことでした。
コメント
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