弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

GT-R開発者水野和敏氏

2011-01-20 21:32:18 | 趣味・読書
日産GT-Rの開発責任者は水野和敏さんです。2009年秋にその水野和敏さんにフェルディナント・ヤマグチ氏がインタビューした記事が日経BPオンラインに掲載され、私は日産GT-R開発者水野和敏氏で記事にしました。

その日産GT-Rが、発売から3年ぶりでモデルチェンジしたそうです。フェルディナント氏がその新しいGT-Rに試乗した上で、1年ぶりに水野氏にインタビューした記事がこちらです。

暗いニッポンを吹き飛ばせ! 「水野劇場」第2幕、阿吽が分かるチームが強い 第73回:日産自動車 GT-R【開発者編】その1

フェルディナント氏がコーナーにオーバースピードで突っ込み、ちょっと危険なゾーンまで行ってしまったのですが、スパっと曲がって何事もなかったかのように次のコーナー目指して立ち上がっていくんだそうです。
公道を走っても、2007年のモデルよりも速いのに乗り心地が良くなっているとのことです。水野氏は「そう、速いけど乗り心地が良い。そこを感じて欲しかった」と答えます。

水野氏によると、最初のGT-R登場時には、お客様に分かり易いものとしてまずは圧倒的なキャラ作りをしました。ポルシェとも違う。フェラーリとももちろん違う。既存のクルマとは全然違うじゃない、というキャラを明確に立てました。そして、3年経ってから完成の領域に持っていく、と。

ここから、水野氏の「組織vsチーム」談義が始まります。
水野氏によると、言葉と数字でつなごうとするのが“組織”であるのに対し、水野氏が作っているのは組織じゃなくてチームなんだと。
(引用はじめ)「組織とチームは全然違う。言葉とか数字を超えて、残りの4割の感性でつなぐのがチームです。だからチームは“合宿”をするんです。組織というのは、普通の会社で朝9時に出社して夜6時に終わってはいお疲れさんって帰るという成り立ちです。
でもチームは、言葉とか、数字とか、理性のコミュニケーションツールを超えて、感性から生まれる“思い”であったり、それを目指す“姿”であったり、言葉にならないものであえて人と人とをつなごうとするものです。だから良いチームを作るために合宿をするんです。僕らは毎年5月と9月にニュル(ニュルブルクリンク:ドイツの有名なサーキット。過酷なコースで、世界中のスポーツカーが走行テストを行うスポーツカーの聖地)に行って、約3週間近く一緒に暮らします。」(引用終わり)

水野氏が率いる開発グループは、組織ではなくチームだということです。
戦後日本に導入された組織論は、多民族国家であるアメリカでこそ必要とされるものであって、単一民族国家である日本では別のやり方が適していると水野氏はいいます。

水野氏によればそれは阿吽です。阿吽は最高の技術だし、チームの要になるものです。

私の理解では、フツーの会社がその会社の社員を集め、そこそこの能力を有する社員をリーダーに任命した程度で、それなりの成果が出せる組織を構築する、それが普通に必要とされる組織論です。しかし、それなりの成果では世界に秀でた業績を上げることはできない。エクセレントな成果をあげるためには、普通の組織論とは異なったアプローチが必要となるでしょう。そして水野氏がリーダーを務める場合は、「チーム」という考え方でグループを統括しているというわけです。納得できる話です。ただし、卓越したリーダーがいるからこそ成り立っているわけで、普通の人が真似をして同じ成果をあげることはなかなか難しいでしょう。

コンピュータプログラミングでも、人海戦術でそこそこのプログラムを大量生産する場合にはそれに適した組織が必要ですが、これでは秀でたソフトは生まれません。世の中を変えるようなソフトは、秀でた能力を有する人たちが少人数の「チーム」を組んではじめて生まれているものと思われます。

さらに水野氏の日本組織論です。

今の日本の子供たちは、水野さんが言うように儒教をベースに家族制度で教育されてなぞいませんから、水野さん流にいうとすでに日本は崩壊しているのかもしれませんが。
しかし、水野チームに配属されるメンバーは、日産の社員です。普通に大学を出て、普通に日産の入社試験を受けてそこにいるわけです。そのような人たちでも、水野チームに入ればチームメンバーとして機能しているわけですから、そうそう捨てたものでもないかも知れません。
もちろん、水野和敏氏という卓越したチームリーダーが存在することが大前提ですが。


仕事なんて楽しいワケがない! プロは客に尽くして喜ぶものでしょ 第74回:日産自動車 GT-R【開発者編】その2

阿吽の呼吸を旨とする水野チームは、メンバーが固定されているのでしょうか。

水野氏によると、人は入れ替えなきゃダメで、マンネリ化はよくないんだということです。
例えば今回はエンジンの課長さんが交代しています。前の人がどんなにしっかりやってくれていても、あるところで発想は止まってしまう。新しい発想で制御してみようと思ったら、新しい血が必要という経験則ですね。
水野氏はレースをやっていた時代からずっと鉄則にしていて、だいたいチームの2割の人間を入れ替えるというのが適切だそうです。それも毎年。

同じメンバーで長く続けた方が、阿吽の呼吸がうまくいくのではないでしょうか。

水野氏によると、慣れと阿吽は明確に違います。むしろ慣れると思い込みになってしまう。水野さんはきっとこう思うはずだ、こう言うはずだとか言って、水野さんと相談もしないで勝手なことを始めてしまうのです。

能力の低いメンバーを替えていくのでしょうか。
水野氏は、あくまでもチーム全体を対象とします。リーダーとツーカーの固定メンバーをそろえてリーダーが楽をすると、その分だけ組織は硬直化して、惰性と慣れと思い込みに入っていくのです。

水野和敏さんという人は、実際にGT-Rというエクセレントなクルマを生み出し、また3年で大きく進化させてきたリーダーです。その人が今まで育んできたチーム論をこうして楽しく聞くことができました。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本の対ロシア外交のその後(2) | トップ | アジア杯でのサッカー日本代表 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

趣味・読書」カテゴリの最新記事