今回もイカリ草の話です。我が家のイカリ草の中では最も古いお付き合いの一株です。
もう10年近く前になると思いますが、まだ現役時代の五月の連休に、一週間ほどの東北の旅をしました。東北の各県には様々な思い出がありますが、その当時は特に青森県を訪ねることが多く、旅の行程の半分くらいは青森県で過ごすのが普通でした。
五能線に沿って国道101号線が走っています。この道は大間越(おおまごし)街道とも呼ばれ、海岸線に沿って、とても風光明媚な景観が拡がっています。大間越というのは、津軽藩の関所(=番所)があった所で、参勤交代で碇ヶ関の関所が使われだすまでは、こちらの方が多用されていたとのことです。また、大間越は世界遺産、白神山地の中心の白神岳への登山口の一つが近くにあり、少し離れたところには日本キャニオンなどと呼ばれる岩肌がむき出しになっている場所もあって、アウトドア志向の者には、とても魅力のある場所なのです。
五能線大間越駅近くのキャンプ場にお世話になったのですが、早朝に起き出し、裏山に登った時に見つけたのが今日のイカリ草なのでした。別に捜し求めていたのではなく、この辺にはどのような野草があるのかな、と訪ねる気持ちだったのですが、沢の藪の中に巨大な白い花をつけたイカリ草を見つけたときは感動しました。その後周辺をよく見ると、イカリ草は幾らでも生えているのです。この辺ではごく当たり前の植生だったようです。それならば一株くらいは良いんじゃないかと勝手に決め、採取して家に持ち帰り、鉢に植えたのでした。
図鑑で調べて判ったのは、これはトキワイカリ草であるということでした。トキワというのは、常盤、または常葉のことであって、その名のとおり、一年中葉をつけているという意味です。ですからこのイカリ草は一年中葉をつけているのが普段の姿なのです。ところが家に持ち帰った後は、かなり頑張ってくれていたのですが、冬になる頃には葉が枯れてしまい、もうこれで終わりになったのかなと寂しい思いをしたのでした。それでも念のため鉢をそのままにして置き、時々水遣りをしていたところ、何と春になって芽を出し、立派な花を咲かせてくれたのでした。その最初の春の嬉しかった思い出は今でも消えることはありません。
この野草は、花の優しさには似合わず、大変強靭な生命力を持っているようです。10年近くもベランダであろうと、ものともせずに生き抜いてきてくれています。今は地植えになったので、益々勢いが増すのではないかと期待しています。野生時よりも花は少し小さくなってしまいましたが、これには何か理由があるのかもしれません。訊いてみても笑っているだけです。
我が家のトキワイカリ草。今は常葉ではなく冬には葉が枯れてしまい、切ってしまっているのですが、毎春新しい葉を元気良く芽生えさせてくれ、やや大型の純白の花を一層引き立ててくれます。