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「救国の少女」ジャンヌ・ダルクの登場

『教養としてのフランス史の読み方』より
「救国の少女」ジャンヌ・ダルクの登場
 百年戦争をフランスの勝利に導いたとよく言われるジャンヌ・ダルクが登場するのは、まさに、このシャルル七世を宣言した王太子が苦境に陥っていたときでした。
 苦境の中、反撃のチャンスを待っていたシャルル七世に、一四二九年ついに好機が到来します。それまで親英だったブルゴーニュ派がイングランド勢力と仲違いしたのです。
 シャルル七世は、前年からイングランド軍に包囲されていた、味方であるアルマニャック派が守るオルレアンに乗り出します。
 このオルレアン解放の立役者といわれるのがジャンヌーダルクです。
 ジャンヌ・ダルクとシャルル七世の出会いは、一四二九年、シャルル七世がシノンに滞在していたときだと伝えられています。彼のもとを訪れたジャンヌは、「私はオルレアンを解放して、王太子をランスで聖別させるよう神の命を受けてやってまいりました」と言い、その言葉を信じたシャルル七世は、少女に軍勢を与えたというのです。
 この話がどこまで真実を伝えているかはわかりません。
 もちろん、ジャンヌ・ダルクという神がかった少女が実在し、オルレアンの解放に関わったことは事実ですし、オルレアンの解放がきっかけとなり、シャルル七世が勢力を盛り返し、ランスで聖別され、正式にフランス国王となったことも事実です。
 しかしその一方で、最大の功労者であるはずのジャンヌ・ダルクはどうなったかというと、オルレアン解放後、ブルゴーニユ派に捕まり、異端審問にかけられ、火あぶりにされてしまっているのです。
 火あぶり(火刑)と聞くと、ひどく残酷な感じがしますが、当時は、異端者は火刑に処せられる、というのが定石だったので、そこに大きな意味はありません。このときの異端審問がどのようなものであったのかは、裁判史料がある程度残されているとはいえ、はっきりとはわかりませんが、この時期はまだ、のちに「魔女狩り」という言葉で知られるほど過激な異端審問が行われていたわけではありません。異端審問がとくに過激になっていくのは、プロテスタントに対抗するためにカトリックが信仰の強化を図っていた十六世紀の後半から十七世紀初めにかけてのことなのです。
 ただ、ジャンヌがブルゴーニュ派に捕まったとき、シャルル七世の軍が誰も積極的に救出に動かなかったことは事実です。これは、当時の人々がジャンヌの存在をどう見ていたのかを考えるうえで、ひとつのヒントとなる事実だと言えるでしょう。
 そう考えると、ジャンヌが神の声を聞いたというのも、もしかしたら異端審問の中で、彼女を異端と断定するために握造されたものだった可能性もあるのです。
 実際、ジャンヌ・ダルクが神格化されていくのは、ずっと後のことです。
 なぜなら、彼女の神格化は「国家」という意識に支えられていたからです。
 ジャンヌ・ダルクが生きた当時のフランスというのは、先にも述べたとおり、まだ領邦国家の寄せ集めで、私たち現代人が考えるような「国家」という意識は生まれていませんでした。ですから、ジャンヌ・ダルクも含め、この時代の人の中に「フランス国家を断固守りたい」などと考えていた人はいないと思います。もちろん、イングランド王のヘンリ六世よりも、ブルゴーニュ派よりも、シャルル七世のほうが正統だという人々はいたわけですが、そのことが「国を守る」という意識に結びついたものであった可能性はきわめて低いと考えたほうがいいでしょう。
 神格化が本格的に進むのは十九世紀末、フランスで右翼系ナショナリストが非常に強く動いていた時期でした。その時期にジャンヌ・ダルクの再評価というものが行われ、その過程で「救国の少女」「愛国の少女」と祀り上げられていったのです。
フランス革命に繋がった「知の共有」
 フランスの市民・民衆が「政府の義務」や「自分たちの権利」といった公意識を持つようになった背景にあるのは、彼らの中でもさまざまな形の「知の共有化」が進んでいたという事実です。
 その基盤に位置するのが、書籍や新聞などのメディアを媒介とした情報の提供と、その情報をもとに人々が議論を行う場が生まれていたことです。
 これはもちろんフランスで特異に起こったことではありません。同時代のイギリスでもオランダなどでも、同じようなことが起きています。
 事実、この時代にフランスで出版され、知の共有に大きな役割を果たした『百科全書』(一七五一~一七七二年刊)は、もともとイギリスの著作家チェンバーズによる『百科事典』(一七二八年刊)を翻訳しようという企画から、生まれたものだったと言われています。
 議論を行う場ということでは、イギリスではクラブやティーハウスがそれを担い、フランスではカフェや初期のレストラン、さらにはサロンと呼ばれる社交場がその役割を果たしました。人々は書籍や新聞から得た知識をそうした場所に持ち寄り、そこで世の中はどうあるべきなのかという議論を戦わせたのです。
 都市では、一定の入場料を払えば、店内に置いてある本や新聞を自由に読むことができる喫茶室のようなものも登場しています。これによって、必ずしも高価な本を買わなくても、知の共有が可能になっていました。
 市民が公の事柄について自らの意見を出し合い、議論して発信していくようになったのと同時に、官職に就いている人たちの中からも、自らの意見を主張する者たちが現れるようになっていきます。彼らの中には、認められて重要な役職に就くようになったり、地方アカデミーの会員になったりすることで、より大きな発言の場を得て社会的に上昇していく者もいました。
 各地のサロンやカフェで、みんなで議論を戦わせる中で、「あいつはなかなか良い考えを言う。彼を自分たちの代表として推していこう」という動きが生まれ、仲間のバックアップを受けて地方の行政に入り、そこでまた活躍して中央行政へ上っていって、国政に直接関わっていくというルートが、革命前のフランス社会ですでに動いていたのです。
 しかし、これはあくまでも自然発生的な動きの中で出来上がったルートなので、しっかりとしたシステム化がなされていたわけではありません。そのため、最初はうまくいっていたのですが、十八世紀の後半、革命前の時期になると、こうした上昇ルートはかなり閉塞した状況になってしまっていたのです。
 ルイ十六世が王位に就いたのは、ちょうどそんな時代でした。
 さらに不運だったのは、ただでさえ危機的な財政や経済状況が、自由主義経済路線の失敗とアメリカ独立戦争におけるアメリカ支援への負担で、さらに悪化したことでした。
 人々の不満は高まり、それなりの意見は持っていても、国政の場に行くルートがすでに閉塞状態に陥っているフランス革命直前の社会には、そうしたある種のストレスが満ちていたのではないか、と考えられるのです。

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OECD地域格差 国の競争力の原動力としての地域

『世界の地域格差』より 国の競争力の原動力としての地域
変化する地域格差
 金融危機の端緒期をピークに、各国内の地域格差は縮小しつつある。
 グローバル金融危機の後、各国内の地域的な経済格差は縮小に向かっている。OECD諸国のすべての大地域(TL2)を比較すると、1人当たりGDPでみた地域格差はいだにあるものの、それらの特質や構成は変化しつつある。2000年代初頭、1人当たりGDPの地域格差は、国内よりも国家間のほうが大きかった。イ氏所得国の成長が著しかったこともあり、2000年から2007年にかけて国内の地域格差は拡大した。その結果、国家間よりも国内の地域格差のほうが相対的に重要度を増していった。 2011年以降、高所得国の急速な成長は、この傾向を反転させた。地域格差は再び国家間で拡大する一方で、国内では大幅に縮小した。その結果、2016年における国内の地域格差は2000年よりも縮小した。2000年以降の16年間に、OECD全体の地域格差は約18%も縮小した。
 OECD全体で共通することは、首都圏の経済的な重要性が高く、またそれが増大していることである。平均してみると、国全体のGDPの26%超を首都圏が占める。各国のGDPに占める首都圏の割合について、それらの中央値をみると2000年から2016年にかけて約12%(2.8%ポイント)増加した。GDPに占める首都圏の割合は、ノルウェーが21%増大と最も大きい一方で、メキシコは8%減少した。
経済的な地域格差の拡大と縮小
 2011年以降、アイルランド、イギリス、チェコといったヨーロッパ諸国において、1人当たりGDPでみた地域格差は拡大する一方で、ヨーロッパ以外では格差の縮小が優勢となっている。
 多くのOECD加盟国において、国内総生産(GDP)の地域格差は依然として大きい。2016年、平均してみると当該国上位10%地域の1人当たりGDPは、当該国下位10%地域の2倍超の水準を示す。
 国別に1人当たりGDPの地域的な分布をみると、そこには大きな違いを見出すことができる。 2016年において、イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国、フランス、スイスでは1人当たりGDPの地域格差が大きい。平均してみると、1人当たりGDPの最下位の地域と最上位の地域との間には、4イ吝を超える開きがある。イギリスにおいて、シティ・オブ・ロンドンの1人当たりGDPは、アングルシー島の23倍超となっている。
 ドイツでは、インゴルシュタットの1人当たりGDPはズュートヴェストプファルツの8倍を超えている。
 1人当たりGDPの地域的な収束は、2011年から2016年の間ではOECD加盟国の半数で起きた。この地域格差の縮小は、下位10%地域と上位10%地域の年成長率によって把握できる。29か国中15か国についてみると、1人当たりGDPの成長率は、上位10%地域よりも下位10%地域のほうが大きい。チリ、ギリシャ、オーストラリア、カナダでは、下位10%地域が上位10%地域をそれぞれ約2%ポイント以上も上回っている。しかし、1人当たりGDPの地域格差の縮小は、普遍的なものではない。OECD加盟15か国の1人当たりGDPの地域格差は、2011年から2016年にかけて拡大している。特にアイルランド、ラトビア、エストニア、ポーランドの格差拡大が顕著であり、これらの国々の1人当たりGDPの年成長率は、上位10%地域において3%ポイントを上回っている。
生産性の向上と地域差
 OECD加盟国では平均して、生産性の最も高い地域は最も低い地域の2倍の生産性を示す。
 所得の地域格差を本質的に生み出す要素は、生産性の地域的なばらつきである。総付加価値(GVA)で把握できる労働生産性は、各国間、各国内それぞれで大きく異なる。オーストリア、ベルギー、フランス、ノルウェー、スウェーデン、アメリカ合衆国といった国々において、最も労働生産性の高い地域は首都圏である。全体的にみると、サービス部門が大規模に存在する地域や、天然資源を採掘できる地域(例えばメキシコのカンペチェもしくはチリのアントファガスタ)において、労働生産性は特に高い。
 北ヨーロッパおよび西ヨーロッパのほとんどで、2016年の労働生産性の平均は6.5万米ドルから8.0万米ドル(2010年購買力平価)に達していた。フランスやドイツのように相対的に生産的な国でも、明らかに労働生産性の低い地域が存在する。同時に、労働生産性の平均が低い国々でも、高い生産性を示す地域がいくつか存在する。例えば、チェコ、ポーランド、トルコの生産性は相対的に低いが、OECD平均を上回る高い労働生産性を示す主導的な地域が存在する。空間的な視点からOECD加盟国をみると、各国内で労働生産性には幅がある。労働生産性の最も高い地域と最も低い地域との相違をみると、その値は30か国中26か国で30%を上回っている。
 労働生産性の年成長率は、ほとんどのOECD加盟国で、2016年から2010年間にゆるやかな拡大をみせた。トルコ、アイルランド、ポーランドの年成長率の平均をみると2%ポイントを上回リ、相対的に高い値を示す。これに対して、フィンランド、ギリシャ、イタリア、アメリカ合衆国の平均をみると、労働生産性は停滞もしくは悪化している。国内での成長率の地域差が大きいのは、アイルランド、メキシコ、オランダ、トルコ、アメリカ合衆国である。高い年成長率を示すのは、トルコの中央アナトリア西南部(8.9%)、アイルランドの南東部(6.9%)であり、両国の全国平均成長率はそれぞれ5.9%、3.8%となっている。
どこで労働生産性の向上は起きているのか?
 生産性の高い上位10%地域と下位10%地域との差は、3分の2以上のOECD加盟国で縮小しており、それは都市に隣接する農村地域において顕著である。
 ほとんどの国において、生産性の最も高い地域と最も低い地域との差は、2010年から2016年の間に小さくなっている。つまり、格差の縮小が起きている。労働生産性について、23か国で地域格差が縮小したのに対し、拡大したのは9か国であった。ラトビア、チリ、リトアニア、トルコ、ハンガリーでは、最も生産性の低い地域が大きく伸びた。これに対してアイルランドとエストニアでは、上位と下位の差が大きく拡大した。
 生産性は都市地域よりも農村地域のほうが低い。しかし、両者の間にある差は縮まりつつある。都市近郊農村地域は3%ポイント以上も生産性を高め、都市地域の生産性に対するギャップは82%の水準まで縮まった。これに対して2000年から2015年の間を平均してみると、大都市から離れた遠隔農村地域は、都市地域の生産性に追いつくことはできなかった。
 交易可能な産業部門の顕著な集中のみられる地域では、高い生産性の伸びがみられる。国内の他地域と比較して、交易可能な産業部門の生み出す経済的な価値(総付加価値)の占める割合が高い地域において、2005年から2015年の間に年率1、1%の成長がみられた。これに対して当該部門以外の産業に特化する地域の成長率は年率0.8%でしかなかった。平均して、交易可能な産業部門の生産性の向上は、より生産性の高い企業からもたらされている。これに対して、当該部門以外での生産性の向上は、生産性の低い産業部門から生産性の高い産業部門への雇用の再配置を通じて生み出されたものであった。
地域内および地域間での生産性の空間的な差異
 OECD加盟国において、生産性の空間的な差異の60%は、同じ大地域(TL2)内で生じている。
 OECD加盟国の生産性は、空間的な次元を色濃く持つ。つまり、隣接する地域によって生産性は大きく異なり、また口ーカルな要因にも左右される。同じ大地域(TL2)内であっても、最も生産性の高い小地域(TL3)は、最も低いそれよりも平均56%も生産的である。大地域(TL2)内の生産性の空間的な差異は、特にイギリスと韓国で明確にみられる。これは、首都圏を取り巻く地域の生産性が、その周辺の地域と比べてきわめて高いからである。
 検討したOECD加盟国22か国中14か国において、TL3地域間の生産性の差異は、もっぱら同じ大地域(TL2)内での生産性の差異によるものである。例えば、ドイツにおける生産性の空間的な差異は、ドイツ国内での州(TL2)間のものよりも、同じ州内での郡(TL3)間のもののほうが大きい。平均すると、国内のすべてのTL3地域について、それらの生産性の差異の60%は同一地域内の差異によって説明される。こうした生産性の差異は、スロバキア、フィンランド、韓国において顕著であり、これらの国をTL3地域でみた場合、全国の差異の80%以上は、同一のTL2地域内の差異によって説明される。 2000年から2015年の間に、ほとんどの国で、生産性の空間的な差異は、同一の大地域内で拡大している。その伸び率は、ノルウェーが61%超と最も大きくなっている。
 TL2地域内での生産性の差異は、都市地域と遠隔農村地域との間で顕著にみられる。ある国で最も生産性の高いフロンティア地域と呼ばれる地域のほとんどは、都市人口比率の高い都市地域であり、遠隔農村地域は、格差拡大地域、もしくは停滞地域と呼ばれる地域で構成される。これに対して、キャッチアップ地域、つまり、全国平均よりも高い生産性の向上がみられた地域は、都市への近接性や都市の持つ集積の経済から恩恵を受けることのできる中間地域もしくは農村地域である。遠隔地域でキャッチアップすることのできた地域、つまり当該国で最も生産性の高い地域との間にある生産性のギャップを埋めることのできた地域は、キャッチアップ地域全体の14%にすぎない。

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アマゾンの影響をさらに深掘リしてみる

『GAFAに克つデジタルシフト』より
ネットからリアルに本格展開し始めたアマゾン
 「アマゾンが書店だと思っていたら実は総合ショッピングモールだった」「小売店だと思っていたらメーカーだった」というアマゾンの展開について書いてきたが、次はネット企業だと思っていたらリアルにも本格進出してきたアマゾンである。
 まずは「アマゾン・ブックス」というリアル書店だ。オンライン書店で数多くのリアル書店を閉店に追いやった後に、何とアマゾン自身がリアルの書店を展開するとは! アマゾン・ブックスの最大の特徴は何と言っても、書籍の表紙を見せて陳列していることだ。通常の書店では、売り場面積が限られていること、効率性が低くなるといった理由で、キャンペーン中の本しか表紙を見せた陳列はできない。しかし、アマゾン・ブックスではネットを通じて売れ筋情報が分かっているので、すべて表紙を上にして陳列できるのである。ネットで評判の良かった本、書店のある街で一番読まれている本、キンドルで最も線が引かれた本など、アマゾンならではのデータに基づいた書籍の陳列となっている。当然ネットとリアルをうまく融合した書店となっており、書店で目にした本をネットで買うこともできるので、消費者は便利なほうを選べば良い。
 次に、今最も話題のリアル店舗は「アマゾン・ゴー」という無人コンビニであろう。スマホのアプリをダウンロードしてクレジットカードを登録してしまえば、あとは改札口のようなゲートを入り、棚の商品を自分のポケットに入れてそのまま出ていくだけで自動的に精算される。すでに米国では複数の都市に出店されていて、アマゾンは全米に3000店舗出店すると発表している。今はまだスーパーなどではレジ待ちの列が当たり前だが、近い将来かなりの小売店が無人レジになっているのであろう。
高級スーパーのホールフーズを買収した理由
 さらに驚いたのが全米ナンバーワンの高級スーパーマーケット、ホールフーズ・マーケットの買収である。アマゾンがホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1・5兆円)という巨額で買収したのは2017年のことである。私も実際にホールフーズの店舗を訪れたが、商品棚の各所にアマゾンプライム会員特典の札がかかっていた。これだけ特典が掲出されたら、ホールフーズの利用客でアマゾンプライムに加入しない人はほとんどいないだろう。今後、アマゾンとホールフーズのシナジー(相乗効果)を追求した様々な施策が出てくると思われる。どんな打ち手を繰り出すかが楽しみでもある。
 しかし、アマゾンはなぜ巨額を投じてわざわざスーパーを買収したのだろうか? 私は宅配拠点としてホールフーズを買収したのだろうと予測している。ホールフーズは全米やカナダなどに約460ヵ所の店舗を持っているが、いずれも比較的高級な住宅街に立地している。この点から「アマゾンは非常にいい場所に冷蔵庫・冷凍庫付き配送拠点を買った」とも言えるのだ。
 未来の買い物はすべて宅配に向かっていく。ネットだけでなく、リアル店舗で買った商品であっても、持ち帰る負担から解放されるという利便性を感じて宅配を選択する消費者はかなりの数にのげるだろう。先に触れたように、今リアル店舗とオンライン店舗が融合するニューリテールという考え方が浸透しつつあるが、今後はリアル店舗であってもユーザーが利便性のために宅配を依頼できる店舗が広がっていくだろう。そうなると、宅配機能が不可欠となるし、生命線ともなる。現に日本では宅配最大手のヤマト運輸が2017年に「これ以上値上げなしには宅配できない」と宣言し、値上げに踏み切った。宅配利用の大口顧客であったEコマース店舗はコストアップを余儀なくされたわけだ。アマゾンなど体力のある大手Eコマースが自社で宅配網を整備しようとするのは当たり前とも言えるのだ。
 米国では数十年後には運送大手のUPSやフェデックスなどが駆逐され、アマゾンとウーバーに取って代わられるという予測すらある。つまり、自社の生命線を自社で構築しリスクヘッジすると同時に、数兆円規模の巨大市場である宅配もアマゾンが牛耳ろうと狙っている可能性が高いということだ。今はEコマースや店頭で買った商品の宅配でしかないが、将来は食事や薬など様々なモノが宅配で届く時代になる。
 余談になるが、日本では規制で全く進んでいないオンライン診療に、いずれアマゾンが参入すると私は予想している。単にのどの赤みを調べて風邪だと診断されるだけの診察、あるいはインフルエンザの判定のためだけに病院で長時間待つ非効率さは、多くの人が実感していることだろう。診断をオンラインで行い、薬が30分で届けば患者も医師も非常に効率的だ。実際、中国ではオンライン診療がどんどん普及しており、医師のオンライン診療からAIによる診療への移行段階にまで進んでいる。
アマゾンが「家庭内店舗」にも進出
 オンラインからリアル店舗に進出しただけでなく、ついに家庭内にも出店し始めた。スマートスピーカーの「アマゾン・エコー」は先にも触れたアレクサを搭載しており、音声でコミュニケーションが取れる。従来は買い物と言えばお店に足を運んで買うか、PCやスマホでインターネット上のECサイトにアクセスして買うか、といった世界だった。しかしアマゾンはそこから一歩進んで、自宅へお店を出店させ、消費者が手軽に自宅に居ながらにしてショッピングできる環境整備に乗り出している。「電球がないから買っておいて」とスピーカーに向かってしゃべりかければ注文が完了する。
 米国の場合はドミノピザの注文やウーバーの依頼、飛行機のチケット予約などもできるので、より多様な使い方が可能だ。日本の場合はまだ提携先が少ないためできることは限られるが、いずれは米国と同じレペルに到達するだろう。
 米国のEコマース市場で今最も伸長しているのが、声による注文「ボイスコマース」だと言われている。アマゾンだけでなく、グーグルやフェイスブックもスマートスピーカーを販売しており、日本ではLINEが参入している。かつて日本では御用聞きという商慣習があったが、まさに現代版御用聞きと考えても良いだろう。
 スマートスピーカーは各家庭に一台あれば十分だ。今後家庭内店舗をアマゾンに独占されたら、各小売店やメーカーはアマゾン・エコー上にアマゾンの言い値で出店せざるを得なくなる。将来を見据えた、末恐ろしいまでの打ち手である。
自動車の中にも店舗を出店
 アマゾンのアレクサが、今後様々な家電製品や乗り物に搭載される話は前述した。オンライン↓リアル店舗↓家庭内店舗の次にアマゾンが進出を狙っているのが「自動車内店舗」である。自動車内は基本プライベートな空間でもあり、かなりの時間を過ごす空間でもある。運転中に思いついた商品を声だけで注文できたら便利に違いない。
 PC時代の入力はキーボードだった。これがスマートフォン時代になってタッチ入力に、そしてあらゆるモノにインターネットが接続されるIoT時代には「音声入力」が主流になる。音声で指示する時代が本格的に到来したとき、実はすでにアマゾンがインタフェースを占拠している--。こんな事態が起きる可能性は十分にある。
研究開発投資は世界一
 アマゾンの怖いまでの様々な打ち手を見てきたが、最後に紹介するのはアマゾンの研究開発投資額の大きさである。米コンサルティング会社PwCが発表した「Strategy&2018年グローバル・イノベーション1000調査結果」の研究開発投資額ランキングによれば、ただでさえアマゾンはすでに脅威なのに、足元では研究開発に投じる資金額は約226億ドルでなんと世界一である。2位がアルファベット(グーグル)で約162億ドルである。これに対して11位のトヨタ自動車は100億ドル。トヨタ自動車の投資額もかなりのものだが、アマゾンはそれの2倍以上の額を投資している。
 特にアマゾンは利益を出して税金を払うくらいなら、利益の大半を事業投資に回し極力利益を出さないという手法を採用している。1社総取りのプラットフォームビジネスでは、足元の利益よりシェア重視で事業投資をし続けることが正攻法にすらなりつつある。これで革新的なサービスを効率的に続々と生み出しているわけだ。アマゾンに死角はないのか……。
 ここまでアマゾンに焦点を当てて打ち手を分析してきた。アマゾンが単なるEコマース企業ではなく、多額の研究開発費を投じ、様々な分野へ投資し、布石を打っていることがご理解いただけたと思う。アマゾン1社だけを見ても、あらゆる業界、すべての企業に影響を及ぼす可能性があるのだ。それがGAFAや新たに次々生まれてくるプラットフォーム企業の存在感たるや、まさに皆さん自身の会社にもかなりの影響があるだろう。従って、一刻も早く対策を講じなければならないのである。
 日本企業はアマゾンの影響が米国よりも一足遅いだけ、準備に備える猶予期間が与えられている。すぐさま自社が生き残る道に布石を打つべく挑戦し、将来への活路を開いていただきたい。この後は、そのヒントになるようにマクロ的視点で分析してみたい。

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10台目のICレコーダー

まとめに入ります。まとまるわけはないけど。 #まとめる
ICレコーダーの置き場所を決めよう。とりあえず、三台体制にします。いまだに超小型のレシーバーが見つかっていない。 #10台目のICレコーダー
10万円でペンパソコンを考えているけど、コクヨのキャンパスノートが使いやすい。折りたためます。これをスマホのように使いましょう。折りたためるスマホと同様なものがノートというカタチで世の中に存在しています。 #キャンパスノートが使いやすい
アラン・ケイがめざしたパソコンの未来。今はどうなっているかどうか。同様に、ホーチーミンがめざしたベトナムの未来がどうなっているかどうか。東芝がダイナブック、ジョブスがスモールトーク。皆、横からかっさらっていく連中。 #意志を継いでいるか
ICレコーダーの書き起こしをどうするのかを11月初めまでに決めないといけない。全ての思考をICレコーダーにぶち込む世界に再び入り込みます。別次元の世界になる。大変です。 #書き起こし
考える場所をどう作り出すか。豊田市図書館にはない。部屋では何かまとまらない。考えるネタはいくらでもある。ノートに問いのない答えが320もある。夜やるか朝やるかを決めないといけない。やはり、朝ですかね。 #考える場所

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