●トップインタビュー 松本嶺男・福岡県糸島市長
時事通信 トップインタビュー
◇行革と産業振興で財政健全化を
福岡県前原、志摩、二丈の1市2町が合併して誕生した糸島市(10万800人)の初代市長に就任した松本嶺男市長(まつもと・みねお=65)。合併前の前原市長時代に合併を推し進め、大きくなった新市のかじ取りも選挙戦を経て担うことになった。
「すべての大前提は財政の健全化だ」。子育て支援、校区単位のまちづくり、同市に進出した九州大学を生かしたまちづくりなど施策の構想は山ほどあるが、肝要なのはまず財政だときっぱり言い切る。新市の義務的経費のうち扶助費と国民健康保険などへの繰出金合計89億円は、10年後には113億円へと増大。一方、歳入見込みは微減の見込みだ。「現実を見て削らなければならない」と語る松本市長は「行革によって、4年間で50億円を削減する」方針を打ち出している。
自信はある。「事業仕分けは民主党の専売特許のように思われているが、わたしは以前からやっている」。旧前原市長時代、仕事の見直し、民間委託、補助金カットなどを進め、人件費削減も含め4年間で36億円を節減した。「ただし行革は、金を削ればいいとうのではなく仕事の仕方を変えるというのが永遠の課題だ」とも語り、施策展開が後ろ向きにならないよう細心の注意を払うつもりだ。
「削る一方で歳入増も目指すが、地場産業振興や企業誘致による地域経済活性化が歳入増の最良の策」と強調する松本市長。地場産業の代表格といえる農業、漁業を例に挙げ、ブランド化や販路拡大、インターネット活用など工夫をして、市外からの「外貨」を稼ぐ重要性を地元に説いて回る。農漁業が主幹産業の志摩、二丈両町と合併したことで活性化の重要性は高まっており、九州大学と連携した技術革新なども積極的に取り入れていく方針。松本市長は「農業、漁業者の懐が豊かになる手伝いは真剣にする」と意気込む。
企業誘致は旧市時代に九州では有数の食品企業などが進出した実績があるが、今後は研究所が既に進出している水素エネルギー、LSIなど次世代を担う企業進出を狙う。「厳しい時代だが、何とかしなければならない」。首長になる前に約40年務めた福岡県庁時代、トヨタの自動車工場の誘致を実現させた経験もあり、トップ自ら先陣を切る誘致活動が期待される。
財政健全化への決意を示す一方で、合併に伴うメリットや課題には素早く対応する考えだ。合併によって、旧前原市の歴史遺産などに、旧2町の美しい海岸線や豊かな海の食が加わった。「それぞれに魅力があるがこれまでの観光客らは1カ所で満足してとんぼ返り。全市に散らばった素晴らしい所をネットワークさせれば効果は大きい」。旧1市2町への年間観光客計約400万人を、新市では500万人に伸ばす観光施策を打ち出す方針。また福祉面でも、市域が広大になり支援の必要な障害者、独居高齢者が散在することになった。「糸島市では孤独死など悲惨な事態は起こさせない」。「日本一(人口比で)ボランティアが多いまち」「障害児支援ネットワーク」-。マニフェストに盛り込んだ政策を実現するために動きだす。
〔横顔〕1967年福岡県庁入り。商工部次長、企画振興部長、福岡北九州高速道路公社理事などを歴任。2005年10月に旧前原市長初当選。09年10月2期目就任。10年2月、1市2町合併に伴う糸島市長選で当選し初代市長に。多忙のため趣味のゴルフには行けないが、合併で市内の名コースが倍増し「いつかはぜひラウンドしたい」。激務の疲れは、スタローンやセガールのアクション映画の鑑賞で癒やす。
〔市の自慢〕旧志摩町ではサンセットロードと呼ばれる美しい海岸線。旧二丈町ではミュージカルサンドと呼ばれる鳴き砂が心を和ませる姉子浜。旧前原市は魏志倭人伝にも登場する歴史遺産。自慢できるものが増えたと喜ぶ。
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